中国広西チワン族自治区で、2022年8月に平陸運河の建設が正式に着工しました。公式の報道によると、平陸(ピンルー)運河は中国共産党の設立以来、開削された最初の運河となります。この運河は完成後、西南地域と東南アジア諸国(ASEAN)との間の貿易往来の距離を最も短くし、最も経済的かつ便利な海上交通路になるとされています。

 投資額727億元(約1兆4000億円)の平陸運河は、広西チワン族自治区の首府、南寧市近くの西津貯水池から北部湾の欽州港まで134キロメートルにわたって延び、高速道路や鉄道による物流を補完する役割を果たします。このメガプロジェクトは2022年に着工し、中国政府が一帯一路構想において陸路より水路の強化に重点を移したことを示しています。運河の完成により、内陸の河川から海までの輸送距離が、広州経由に比べて560キロメートル短縮され、年間最大52億元(約1017億円)の費用節約が見込まれています。

 一方で、経済的には発展が進んでいない広西チワン族自治区において、727億元(約1兆4000億円)という膨大な費用をかけて平陸運河を開削する必要性や経済効率について、専門家たちの間で疑問が呈されています。この試みは、比較的開発が遅れている中国南部の活性化に役立つことが期待されていますが、同時に地政学的な要素が関与している可能性もあります。

経済成長を促進するため、重複の建設を敢えて厭わない

 中国問題の専門家である横河氏は、大紀元に対して、運河のメリットは、元々存在しなかったが非常に必要な場所に新たな水路を開拓することであり、デメリットは、連結される水域が異なる海抜高度にあるため、調整には閘門(こうもん)が必要となり、時間とコストが増加すると述べました。水運はコストが低く、輸送能力が高いため、古代には他の交通手段で完全に代替することができませんでした。当時、秦の始皇帝が築いた運河「霊渠(れいきょ)」や大運河の役割は非常に大きかったが、現在では大運河はほとんど機能していないとされています。

 「現代にはさまざまな輸送手段があり、運河が必ずしも最も効率的かつ経済的な方法であるとは限らない。特に、投資が高く、収益が低い場合、まったく投資する価値がない。もし完全に政府の投資であるなら、最終的には納税者が負担することになる。資金調達であるなら、投資家はコストを回収することができない可能性がある」
アナリストによると、平陸運河の建設は、中国共産党の経済保障や成長促進と関連している可能性が高く、したがって、コストを度外視して重複して建設しているのではないかと考えられます。

 2017年の米中貿易戦争以来、中国当局は文明世界を敵に回し、地政学的な役割が経済発展においてますます重要性を増しています。欧米は中国との貿易量を大幅に減少させる「脱リスク」戦略を採りました。これに対して、中国当局の重要な対策の一つは内需の拡大です。習近平氏は昨年の経済作業会議で、内需の拡大を大型プロジェクトへの投資・建設と結びつけることを強調しました。

 ドイツ在住の水力専門家である王維洛氏は大紀元に対して、「現在の中国当局は、インフラ建設やメガプロジェクトへの投資によってGDPを高めることに焦点を当てている。そのため、このプロジェクトが意味を持つかどうかは関係なく、彼らはお金を投資し、GDPの成長にだけ気にしているのだ」と述べました。

 米国在住のエコノミストである黄大衛氏は大紀元に対し、中国のGDP成長率の約30〜35%はインフラ投資によるものであると述べました。インフラ投資は主に二つに分けられ、一つは民間の不動産建設、もう一つは大型インフラプロジェクトで、GDP全体の約15%を占めています。最近は、コロナ対策、中米貿易戦争、中欧の経済緊張、さらには欧米市場の消費の低迷などにより、中国の経済成長が鈍化しています。そのため、中国当局はインフラ投資を増やし、繁栄を促進しようとしています。

 しかし、問題は、高速道路や高速鉄道、空港などがほぼ整備された現在、中国当局が水運に目を向け、経済を牽引するために水運への投資を計画していることです。平陸運河の建設が進行中であり、湘桂運河も積極的に推進されています。これらの取り組みは、中国当局が経済成長を刺激しようとする中で重要な役割を果たすものとされています。
党機関紙「人民日報」は、「一連の水運プロジェクトは、内需の拡大や経済成長の安定化に強力な支えを提供している」と評論しました。

 一方、黄大衛氏は、水運プロジェクトの建設は短期的な効果があるものの、中長期的な経済発展にはあまり大きな役割を果たさないと考えています。なぜなら、中国のインフラ建設は過去20年間に次々と完備され、道路網、鉄道網、高速鉄道などはすでに整備されているからです。

 公式メディアは、平陸運河が中国西南地域の便利なアクセスを開拓したと述べていますが、重慶市、成都市、広西チワン族自治区の西部地域にはすでに3つの鉄道輸送ルートが存在し、また広東省には珠江を通じた海へのアクセスもあります。
黄大衛氏は、中国当局は、もともと珠海、深セン、広州に割り当てられていた輸出入業務の一部を北部湾に割り当てると考えているようだと指摘しました。しかし、これは、全体の経済総量が変わらない状況での再分配に過ぎません。

東南アジアへの依存と一方的な願望

 中国当局の戦略文書である「西部陸海新通道総体計画」には、平陸運河建設の目的の一つとして、東南アジア諸国連合(ASEAN)との経済・貿易協力の強化であると明記されています。

 広西チワン族自治区の役人は、今後南寧港が中継港として機能し、西南地域の貨物が南寧市で積み込まれ、平陸運河を通じて欽州港から出港することになると述べました。このルートを利用することで、広東省から出港する場合に比べて560キロメートルの距離が短縮され、時間と距離の面で約7割短縮されます。その結果、重慶市からシンガポールまでの輸送時間が22日間から7日間にスピード化できることが期待されています。

 中国とASEANは、2022年1月に発効した「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」に署名しました。両国間の貿易は2019年から2022年にかけて52%増加し、欧州連合(EU)との20%増を上回りました。
中国当局は、欧米との外交関係が不透明な状況の中で、制裁を回避するために重点を南方世界、特にASEANに置いているとされています。

 広西チワン族自治区の首府である南寧市は、中国・ASEAN博覧会の常設会場であり、中国当局は南寧市をASEANの貿易センターに位置付けることを目指しています。

 しかし、一部の評論家は、貿易の本質は相互の需要と供給にあると指摘し、広西が独自に生産できる製品の大半は東南アジアとの重複性が高く、比較優位性がないため、広西とASEANの貿易が突破口を見つけることは難しいと主張しています。特に果物や少量の機械、入荷した原料の加工を除いては、広西の製品は東南アジア諸国との競合が激しく、優位性が見いだせないというのが彼らの見解です。

 黄大衛氏は、西南地域は本来、輸出大省ではなく、その工業製品や農産物は東南アジア諸国と重複していると指摘しました。中国はASEANから鉄鉱石やニッケル鉱石などの材料を輸入する可能性がより高いのです。

 「(中国当局は)南寧市をいわゆるASEANの貿易拠点に作り上げようと考えてきたが、ASEANの需要は主に中国の小型家電製品や工業製品である。中国はASEANから農産物や工業原料、鉱山などを必要としている。この分野では現在、深センや広州を経由してほぼ十分に満たされている」

(翻訳・藍彧)