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 人間の心とは、時に抑制が効かぬもの。情と欲に翻弄されて、罪を犯してしまう人もいる。たとえその過ちが他人に見られていなかったとしても、天上から見れば一目瞭然。古代中国の教えによれば、人間は行動だけでなく、一つ一つの心の動きも観察されているのだ。

 宋の時代、儀州の華亭という所に、ニー・ゴンツという善良な医師がいた。ニー氏は同じ町に住む、李という美しい人妻が重い病気にかかった時、彼女を診察し適切な処置をした。その結果、危篤状態だった李は徐々に病気が治り、順調に回復していった。

 しかし、李は健康を取り戻すと、心に魔が忍び込んだ。彼女は自分の命を救った医師に恋心を抱くようになったのだ。李は夫の不在中、病気がぶり返したと言っては、使用人にニー氏を呼びに行かせた。彼が到着すると、李は耳元でささやいた。「私が死にそうだった時、先生は私を助けて下さいました。先生に対する感謝の気持ちは、言葉にすることができません。このご恩に報いるため、私の身体を差し上げたいと思います。どうか、私の願いをかなえて下さい」

 ニー氏は李の言葉に驚いたが、丁重に断った。李は泣きながら懇願したが、彼の心は動かなかった。その後、李は何度も病気が再発したと言っては彼を呼び戻そうとしたが、ニー氏は再び彼女を訪れることはなかった。業を煮やした李は夜になって彼の家に忍び込み、寝室に行って誘惑したが、彼は彼女を振り払い、素早く部屋を出ていった。

 一年後、同州に住む黄靖国という仕官が重病にかかり、意識を失った。彼の魂が黄泉の国に行くと、そこには一人の女性が川べりで自分の腹を割き、腸を取り出して洗浄しているのが見える。すると、一人の僧侶が黄の側に現れた。僧侶によると、この女性は李という人妻で、みだらな欲望を持ったために与えられた罰だという。李は不貞な行為により、12年の命が削られ、一方、ニー氏は誘惑に屈せず引き続き善良だったため、12年の命が延長された。また、ニー氏の家族はこれにより福を得たので、代々、官僚を輩出するだろう、と言った。

 黄は意識を取り戻すと、親友のニー氏のもとへ急いだ。黄がニー氏と李との間で起きた寝室での出来事を詳細に話すと、ニー氏は驚いて言った。「あの夜は、私と李だけしか部屋におらず、ほかには誰もいなかったはずだ。なぜ君がそのことを知っているのか?」黄は黄泉の国での出来事をニー氏に話した。その後、僧侶の言ったとおり、ニー氏の息子と孫は、官僚になったという。

 過剰な色欲は、人生を誤るだけでなく、あの世にも影響する。孔子曰く、「礼にあらざれば見るなかれ、礼にあらざれば聴くなかれ、礼にあらざれば言うなかれ」。古代の聖人は、深淵な言葉で私たちに忠告している。

(文・郭丹丹)