瑞士国旗(パブリック・ドメイン)

 「ウィルソン・エドワーズ(Willison Edwards)」と名乗るスイスの生物学者が、世界保健機関(WHO)と米国をやり玉にあげ、それを中国公式メディアが大々的に報じた。だが同学者は実在しない。

 世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス(中共ウイルス、COVID-19)の起源に関する第2段階の調査を提案している中、中国公式メディアはこのほど、「ウィルソン・エドワーズ」というスイスの生物学者の記事を転載し、「新型コロナウイルスは中国の研究所とは関係がない」と主張する専門家に対し、米国や一部のメディアが圧力をかけていると報じた。

 『人民日報海外版』などの中国公式メディアは、「エドワーズはフェイスブックで、WHOの内部関係者や一部の科学者の同僚が、中国及びWHOの新型コロナウイルスの起源に関する結論を支持したため、これまで米国側から圧力と恐喝を受けたことを明かした」とし、「米国側の継続的な圧力により、WHOの新型コロナウイルス起源調査は、完全に米国の政治的な道具に成り下がってしまった」と報じた。エドワーズの投稿は中国公式メディアだけでなく、多くの中国ネットユーザーにもリツイートされている。

 しかし、中国のスイス大使館が10日、中国版のツイッターにあたる「ウェイボ」で発表した声明によると、「ウィルソン・エドワーズという名前で登録しているスイス人はおらず、その名前で生物学の学術論文もない」と発表、「記事は誤りだ」と指摘した。

 声明ではまた、コメントが投稿されたフェイスブックのアカウントは2021年7月24日に開設されたばかりで、10日までに投稿は1件、友人は3人しかいなかったことを強調し、「同アカウントはオンライン・ソーシャル・ネットワーキングの目的で設定されたものではない可能性」を指摘し、「意図せずに記事を転載してしまった」メディアや個人に対しては、直ちに記事を削除し、訂正文を掲載するよう要求した。

 米紙『ワシントン・ポスト』によると、中国公式メディアは、以前にも偽の身分を使用していると非難されたことがあるという。「ローラン・ボーモン(Laurene Beaumond)」と名乗るフランス人記者は、中国共産党がウイグル人に対する大規模な弾圧を非難された際、中国の「中国グローバルテレビジョンネットワーク(CGTN)」のフランス語版サイトに、中国共産党を擁護する記事を掲載した。その見解や内容は中国共産党の公式プロパガンダと全く同じであった。「ル・モンド」紙が3月、ジャーナリストにプレスカードを発行している、フランスのプロフェッショナル・プレスカード委員会のデータベースを照会したところ、「ローラン・ボーモン」というジャーナリストの名前はなかった。同記者の自己紹介によると、ジャーナリズムスクールとソルボンヌ大学の芸術学部を卒業し、北京に行く前に、パリの複数のメディアで働いていたことがあり、データベースに名前が載っているはずだという。

(翻訳・吉原木子)