避暑山荘(Fanghong / Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0

南北の庭園の精粋を備える―苑景区

 苑景区は湖区、平原区と山地区に分かれている。湖区には大小それぞれの湖や島があり、湖を「塞湖」と総称し、面積は57万平方メートルもある。そこには鏡湖、銀湖、下湖、上湖、澄湖、如意湖、内湖、長湖、半月湖がある。島は園島、如意洲、青蓮島、金山、月色江声島などがある。島の間には橋や堤によって繋がっている。湖岸は優雅にカーブしており、樹木が生い茂っている。ぼんやり眺めていると、島や湖の間に楼閣がかすかに見え、風景画のような景色が広がっている。まさに江南の綺麗な景色だ。

避暑山荘の小金山(Gisling/Wikimedia Commons CC BY 3.0

 湖区の建物は江南庭園のレイアウトを模倣し建てられました。青蓮島にある煙雨楼は浙江省嘉興市の南湖煙雨楼を模倣し、文園の獅子林は蘇州の獅子林を模倣したものだ。また、金山島の造形は鎮江の金山を元にしている。月色江声島には精巧な四合院があり、夜になると、湖には月の影が映し出される。静けさの中、聞こえてくるのは波の音だけ。月の色と波の音を同時に楽しめる場所だ。

避暑山荘の煙雨楼(wangleon/Wikimedia Commons CC BY 2.0
文園の獅子林(takwing.kwong/Wikimedia Commons CC BY-SA 2.0

 平原区の地形は平たんで開放感があり、西側には牧草が生い茂り大草原を彷彿させる。一方、東側の森林地帯は大興安嶺の風貌がある。その中にある有名な萬樹園は、北側を山に囲まれ、南は湖に面している。広い草原地帯は乗馬に最適だ。

 園内にある建築は大小さまざまなパオで、中でも最大のものは「御幄(ごあく)」と呼ばれ、皇帝専用だ。御幄の壁にはタペストリーが掛けられ、床には白氈が敷かれている。そして天井には宮殿式ランタンがある。乾隆帝はしばしばそこに少数民族の首長や宗教指導者、外交使節、王侯貴族を呼び寄せ、ともに歓談した。

 山荘の北西部は山岳地帯であり、松雲峡、梨樹峪、松林峪、榛子峪の四大峡谷が広がっている。なかでも梨樹峪には萬樹の梨花があり、花の季節になると一面が雪景色の如く真っ白に染まり、香りが漂う。

 山頂や山麓、山間部にも多数の庭園や寺院が建てられた。その中で最も注目されているのは向かい合う山頂に建てられた二つの亭である。一つは「南山積雪」といい、もう一つは「四面雲山」という。亭に立って遠くを眺めれば山荘全体を見渡すことができ、山荘の外にあるいくつもの寺院や承徳市街、周辺の山々まで一望することができる。もう一つ有名な亭があり、「錘峰落照」と呼ばれている。この亭から眺めると最初に目に映るのは磐錘峰であり、夕日が沈むころになると、磐錘峰は赤く染まるため、その名を得た。

 苑景区は中国南北の庭園の精華を集約したもので、見所にあふれている。各種絶景は真珠のように散らばり、青い山と清らかな湖の背景の中、より一層美しさを増している。

(つづく)

(文・呂漢文 / 翻訳・清水小桐)