明・邵弥 「樹下独座」(パブリックドメイン)

【原文】

秋夜寄丘二十二員外
韋應物

懐君屬秋夜
散歩詠涼天
山空松子落
幽人應未眠

【書き下し文】

君を懐(おも)いて秋夜に属(しょく)し
散歩して涼天に詠ず
山空しくして松子(しょうし)落ち
幽人応(まさ)に未だ眠らざるべし

【訳】

秋の夜におりしもあなたのことを懐かしく思っている
私は散歩しながら秋の涼しさの中で吟詠している
人気がなく空虚な山中では松毬が落ちる音さえも聞こえてくる
修行をするあなたも今頃まだ起きていることだろう

【鑑賞】

 この詩の作者韋応物(いおうぶつ、736年-791年)は中国唐代の詩人で、自然や田園風景の描写に特に優れていることから、王維と李白と共に唐代の三大詩人として名を並べています。著作には「韋蘇州集」があります。

 詩「秋夜丘二十二員外に寄る」にある丘二十二員外とは作者の友人であり、臨平山で道家の修行を行っている丘丹のことです。丘丹は兄弟の中で22番目の子であり、かつて尚書郎という官位に就いていたため丘二十二員外と呼ばれていました。丘丹はこの時すでに隠居していたため、詩の中にある幽人(道家の修行者の意)も丘丹のことを指しています。

 詩の前半部分は写実的であり、後半部分で作者が思いを馳せているのとは対照的です。秋の涼しい夜に、作者は一人で物思いにふけ、散歩しながら友人のことを懐かしく思っています。すると、友人が修行をしている山中の情景が脳裏に浮かび、熟した松の実が地面に落ちるのも見えるかのように感じられました。まさに古人が「文章を書こうとする時、思いははるかかなたまで到達し、顔の表情をかすかに変えるだけで、万里も彼方をも見通せる」と形容したのと相通じるものです。二人の間に千里の隔たりがあろうと、感情は常に寄り添いあっているとも言えるでしょう。

(文・文思格 / 翻訳・黎宜明)