『貞觀政要』は、唐の太宗の君臣対話を記録したものである。国を治めるための理念と智慧が凝集された本書は、現代の指導者にとっても一読の価値があろう。

 第一巻の中では、「君主の道においては、庶民の利益をまず優先せよ」と、側近に説いている。庶民の利益を損ね私腹を肥やすのであれば、太ももの肉を切り取って腹を満たすことと変わりがない。空腹が満たされたとしても、どのように生きていくのであろうかーー本末転倒と言ええよう。

 天下が平定され安定期へと移りつつあった貞観五年(631年)、「国家を安定させることは、病気療養をすることと同じである」と表している。大病を患った人が治癒しはじめたとき、より手厚い加療が必要となる。手を抜いたならば病が再発するかもしれず、健康を損ね死に至ることさえあろう。

 青年時、弓技に親しんでいた太宗は、自分でも弓の品定めができると思っていた。ところが、これはと選んだ十数張の弓を職人に見せると、「どれも良いものではありません。」と言われた。「外観は良くとも、芯が整っておらず、筋が通っていません。力は強くとも、真っ直ぐに射るのが難しいため、極上品とは言えません。」と、弓職人は答えた。

 太宗はしみじみと、自分は戦を通じて天下を取り、数知れない弓を使ったことさえあるのに、弓矢の識別さえ、コツを掴んでいなかった。自分は唐代の皇位を継いで天下を擁したばかりだったので、国家の統治の把握に関しては、弓矢の知識にさえ及ばないと思った。「弓矢の理解にさえ偏りがあっては、はたして国家の統治の道理などどうして把握できようか?」

 以後、五等級以上の官史に定期的な出頭を求め、膝を交えて議論を交わした。謙虚に耳を傾け、庶民の生活上の悩みや苦しみに対しても理解に努めた。

(文・柳笛/翻訳・夜香木)