清の時代の八段錦(パブリック・ドメイン)

 一、「馬王堆導引図」の発見

 1970年代初期、中国湖南省長沙市郊外の「馬王堆」で、2100年前の漢の時代の墳墓が発見されました。この馬王堆漢墓(まおうたいかんぼ)から大量の木簡、竹簡、帛書、帛画が発掘され、世間を驚かせました。中には、中国最古の体育療法の図と言われる「馬王堆導引図」がとても注目を集めました。

 「馬王堆導引図」の幅は1メートル、高さ50センチ程となっており、帛(はく)というシルクの上に4列に並んだ44人の老若男女が描かれています。これらの人物は異なる服を纏い、異なる体操の動きをしており、それぞれの人物の横に、その動作の名称と効用も書かれています。原図が折り畳まれていたことによる欠損があるため、現在は31の動きの名称しか残っていないとのことです。

 

『馬王堆導引図』(パブリック・ドメイン)

 この「導引図」に描かれた体操の動きはいずれもシンプル且つ緩やかで、中国の伝統的な健康法の特徴を見事に表わしており、現代スポーツの激しい動きとかなり違っています。「馬王堆導引図」は中国最古の体育療法の図であり、気功療法のルーツとも言われています。そしてこれを専門家が掛かりっきりで何十年もかけて復元しました。

 二、神秘的な古代中国の導引術

 1)健康維持や病気療養としての導引術

 導引術は聞きなれない言葉ですが、今の言葉に言い換えると、一種の健康気功です。中国古代の人々が体を鍛える方法の一つです。

 導引術は5000年以上の歴史があり、中国の道家の「無為自然」や「天人合一」の思想より生まれた体操療法だと言われています。ゆったりとした動きによって呼吸を整え、体内に気を巡らせ、手足を屈伸させたりと運動することによって血行を良くし、健康維持や病気療養にとても効果的とされています。神医と呼ばれる華佗(かだ)[※1]が5種類の動物の動作を取り入れて創作した有名な「五禽戯」(ごきんぎ)も導引術の類に入るそうです。

 2)仙人をめざす修煉法としての導引術

 ところが、健康維持や病気療養は導引術の一つの側面に過ぎず、それには、健康療法を超えた神秘的で人々に知られていない内容も含まれています。それは上古から始まり、春秋戦国時代(紀元前770 年〜紀元前221)には既に大流行し、当時の方士(ほうし)[※2]が行われた不老長生の仙人をめざす方法としている部分です。この部分は、その後、道教の「修煉法」の一つとして継承されましたが、公に普及していないため、世間の人々にはあまり認識されていません。

 三「修煉」とは何か?

 世間にあまり知られていない修煉とはなんでしょうか? 修煉の目的は何なのでしょうか?

 「明慧ネット」では、「修煉」について以下のように説明しています。

 「修煉」とは生命を向上させるための方法です。

 修煉は人類の文明の一部分であり、古(いにしえ)より伝えられたものです。

 本当の修煉方法は源が古くて奥深く、修煉に含まれる範囲は無窮です。修煉の内包は、哲学や健康保持という範疇を遥かに超越しています。

 修煉は二つの部分から構成されおり、一つは心法、または原則と呼ばれるもので、もう一つは功法です。功法は動作のことで健康保持の側面を指しており、心法は人を指導するもので、精神的な側面を指しています。心法は人の心性を向上させる根本です。

 修煉は古から今日まで、社会で流行することはあるものの、公に普及したことはありません。しかしその洪大で、奥深い内包は、東洋と西洋の文明に様々な痕跡を残しました。中国古代の太極(たいきょく)、洛書(らくしょ)、八卦(はっけ)、インドのヨーガ、西洋の一部で伝わっている座禅の技法には、全て修煉の神秘が含まれています。

 しかし、歴史の推移と心法の伝承の断絶により、現代人は既に、これらの修煉方法に本来備わっていた、深い内包に触れることが難しくなっています。

 即ち、修煉は上古から伝えられてきた生命を、昇華させ、向上させる方法です。一方、導引術はそれを構成する「心法」と「功法」の功法の部分です。「心法」と「功法」を共に習得すれば、我々の生命が昇華し、向上することが可能になります。これは夢が膨らみ、心を躍らせるものです。そのような修煉法が世間に広く伝わる日が来ることを期待したいです。

※1 華佗(?〜208年)は中国後漢末期の薬学・鍼灸に非凡な才能を持つ伝説的な医師である。

※2 方士(ほうし)とは、紀元前3世紀から西暦5世紀にかけての中国おいて、瞑想、気功、錬丹術、静坐などの方術によって不老長寿(羽化)を成し遂げようとした修行者である。道教の成立と共に道士と呼ばれるようになった。

(文・一心)