本来、生徒の健康を守るはずの結核検査で、高校生たちに注射針が使い回されていたことが分かりました。調査チームは、検査結果は全員「異常なし」だったと発表しています。しかし、この一言だけで、保護者は本当に安心できるのでしょうか。
10月27日、遼寧(りょうねい)省瀋陽(しんよう)市の康平(こうへい)県高級中学で、生徒を対象とした定期的な結核検査が行われました。日本でいう高校に当たるこの学校で実施されたのは、ツベルクリン反応検査です。皮膚の浅い部分にツベルクリンを注射し、その反応を調べることで、結核感染の有無を判断する手がかりにします。ところが、検査を担当した医療従事者1人が、注射針を1人ごとに交換するという決まりに違反し、高校1年生と2年生の一部の生徒に同じ針で注射していました。翌28日、事実を知った大勢の保護者が学校に駆けつけ、説明を求めました。現場では、針の使い回しによる感染の危険性について、保護者から次々と問いただす声が上がりました。
今回、特に注目を集めたのは、学校の責任者がその場で口にした人数でした。
ネット上で拡散した動画では、保護者に対応した学校の女性責任者が、防犯カメラの映像と生徒への聞き取りで確認した内容を説明しています。それによると、生徒は2つのグループに分かれており、最初のグループでは200人余りに注射針が使い回され、2つ目のグループでは1人ごとに針を交換していたことが確認されたといいます。責任者は、針が使い回された生徒に対して、HIV、梅毒、B型肝炎、C型肝炎の検査を行うと約束しました。しかし、保護者はこの対応に納得せず、防犯カメラの映像を公開するよう求めました。
10月29日付の新京報によると、学校と康平県政府は事実を認め、生徒に改めて採血検査を実施したと説明しました。学校では通常どおり授業が行われているということです。県政府の職員は、ネット上で広がっていた「高校1年生にHIV感染者や梅毒患者がいる」という情報を否定しました。また、責任を負うべき関係者の特定を進めており、今後の対応は調査や証拠の確認を終えてから決めるとしています。この説明は検査結果の発表前に行われましたが、報道では否定の根拠が示されていませんでした。ネット上では、発覚から24時間もたたないうちに否定したことについて、根拠が乏しいとして、複数の機関による検査結果を示すよう求める声が上がりました。同日夜、康平県の結核検査に関する調査チームは、医療従事者1人が注射針を1人ごとに交換する決まりに違反し、県の共産党委員会と県政府が直ちに検査を中止させたと発表しました。対象となった生徒は計78人で、全員に特別検査を実施した結果、いずれも異常はなかったとしています。さらに、専門の調査チームを設置し、違反行為について法律や規定に基づき厳正に対処するとしました。この日、関連する複数の話題が、中国のSNS、微博(ウェイボー)の検索ランキング上位に入りました。
公式発表は出ました。しかし、保護者が最も知りたい点については、いくつも答えが示されていません。
まず、人数です。公式発表の78人と、学校の責任者が説明した200人余りでは、大きな開きがあります。公式発表では200人余りという数字に触れておらず、何本の針が使い回されたのかも明らかにしていません。一部のメディアは、ネット上で広がる200人余りという人数は事実ではないと論評していますが、公式発表にそのような記述はありません。そもそも、この2つの数字は同じ対象を数えたものなのでしょうか。それぞれ、どのように集計されたのでしょうか。いまだに説明はありません。
次に、さらに重要なのは、「異常なし」とされた検査が、いつ行われたのかという点です。針の使い回しが起きたのは10月27日で、結果の発表は29日でした。感染の危険にさらされてから、3日もたっていません。米国疾病対策センターの資料によると、HIVの感染を検出できるようになるまでの期間は、感染の可能性がある接触から、通常、核酸検査で10~33日、検査機関で行う抗原·抗体同時検査で18~45日、抗体検査では23~90日です。B型肝炎やC型肝炎にも、感染していても検査では検出できない「ウインドウ期」があり、具体的な期間は検査の種類によって異なります。そのため、直後の検査で陰性だったとしても、その時点で感染が検出されなかったということしか分かりません。今回の使い回しによる感染の可能性は否定できず、医師の指示に従って経過観察と再検査を受ける必要があります。中国メディアの財新も、記事の概要で、HIV感染の危険性が否定されたのは「暫定的」なもので、今後も検査が必要だと伝えています。公式発表では、特別検査にどのような項目が含まれていたのか説明されておらず、再検査の予定も公表されていません。
では、注射針の使い回しには、どれほどの危険があるのでしょうか。
中国で最上位に区分される病院の医師は、注射針の使い回しは、他人の血液を介して感染する危険性の高い行為であり、注射器の内部に残ったごく微量の血液でも、感染につながる可能性があると指摘しています。世界保健機関(WHO)は、注射のたびに新しい針と注射器を使うよう求めており、B型肝炎ウイルスは、汚染された注射器具の上で最長1週間生存するとしています。国連ニュースが紹介した、WHOの資金援助による研究では、2010年に世界で安全でない注射によって感染した人は、B型肝炎で最大170万人、C型肝炎で31万5000人、HIVで3万3800人に上るとされています。注射針を1人ごとに交換することは、状況に応じて省略してよいものではありません。医療の安全を守るうえで、最低限守らなければならない原則なのです。
もちろん、これは針を使い回された生徒全員が、すでに何らかの病気に感染したという意味ではありません。感染が起きるには、それ以前に同じ針で注射を受けた人が、病原体を持っている必要があります。現時点で、この78人の中に感染者が出たという報道はありません。県政府も、うわさされていた感染者の存在を否定していますが、その根拠は説明していません。まだ分かっていないのは、最初の検査で陰性だったあと、どれくらいの期間がたてば、信頼できる結論を出せるのかという点です。その答えを得るには、定期的な再検査が必要です。
人数以上に問いただすべきなのは、今回の検査が、どのような体制で実施され、管理されていたのかという点です。
一般に、学校が生徒を対象とする集団健診や健康検査を行う場合、担当する医療機関が必要な資格や認可を備えているか、実際に検査を行う人員が要件を満たしているか、現場に十分な医療機器や使い捨ての医療用品が用意されているかを、事前に確認する必要があります。
しかし、財新は記事の概要で、今回の検査業務が外部に委託されていた疑いがあると伝えています。県教育局は10月29日、財新の取材に対し、複数の部門が合同で調査チームを設置し、詳しい状況を確認していると説明しました。問題を起こした医療従事者の身元や所属する医療機関、業務に必要な資格については、まだ公式に公表されていません。違反が不注意によるものだったのか、作業を急いだためなのか、それとも別の理由があったのかについても、結論は出ていません。少なくとも、現場の担当者、業務を請け負った機関、学校のそれぞれについて、責任を明らかにする必要があります。現場の担当者は規定どおりに作業していたのでしょうか。業務を請け負った機関は必要な資格や認可を備え、十分な研修を行っていたのでしょうか。そして、学校による委託先の選定や現場の監督に不備はなかったのでしょうか。いずれも、調査で明確な結論を示すべき問題です。
保護者が子どもを学校に通わせるのは、知識を身につけてほしいからだけではありません。最低限の安全が守られることも願っています。ところが、現在、保護者が得られる情報は、主にネット上に出回る動画と、短い公式発表に限られています。保護者が本当に安心するために必要なのは、「異常なし」という一言ではありません。透明性を確保した徹底的な調査と、生徒1人ひとりに最後まで責任を持って対応することです。
(翻訳・藍彧)
