10月31日夜、中国・杭州の繁華街で開かれていたハロウィンイベントの会場で、人気インフルエンサーの周麗峰氏が、大勢の人が見ている前で警察に連行されました。その6日前、周氏は動画サイト「ビリビリ」に、北京の日雇い市場で実際に働いた様子を記録した動画を投稿し、再生回数はわずか1日で200万回を超えていました。投稿する前、周氏はライブ配信でこう話していました。「これ出したら、俺、捕まるよ」

 周氏は2020年、深圳の日雇い労働市場を撮影した動画で注目を集め、その後も、建設が途中で止まって引き渡されないままのマンションを買った人や日雇い労働者など、社会の底辺で暮らす人々を撮り続けてきました。今回カメラを向けたのは、北京南東部の郊外にある馬駒橋(マージューチャオ)です。

 馬駒橋は、日雇い労働者が路上で仕事を探す、中国北部で最大級の「寄せ場」です。毎日夜明け前から、全国各地から来た人々が道端にしゃがみ込んで仕事を待ち、1日働いてはその日の賃金を受け取ります。北京には「落ちぶれたら馬駒橋へ行け」という言葉があるほどです。

 ここにいるのは、多くが工場から締め出された人たちです。調査に訪れた大学生に、山西省から来た男性はこう話しています。「若いのはみんな工場で長く働いてるよ。ここに残ってるのは45歳過ぎて、工場に要らないって言われた連中ばっかりだ」。朝5時から7時まで待って、仕事にありつけるのは10人に1人もいません。あぶれた人は、そのまま待ち続けるか、1人1泊20元ほどの安宿に戻ります。宿は湿気がこもり、暖房もなく、窓からはすきま風が吹き込みます。道の隅では、拾い集めた段ボールを燃やして暖を取る人の姿もありました。

 仕事が少なく人ばかりがあふれる中、自分の身を切り売りする人も出てきます。現場には身分証の情報を買い取る人がいて、1人分の値段は20元。1食分か1泊分の金額です。人ごみの中を「血、売らないか」と声をかけて回る男もいます。河北省から来た高齢の男性はこう漏らしていました。「春節の前にちょっとでも稼いで帰ろうと思って来たのに、2か月たって、逆に1000元以上持ち出しだよ。どうしたらいいのか分からない」

 仕事が見つかったとしても、楽ではありません。周氏の動画によると、宅配便の仕分けは一晩働いて260元。終わった後は何日も休まないと体がもたないといいます。8年間で20回以上馬駒橋に通い、日雇い労働を続けてきた清華大学の博士課程の学生は、最初の仕事が冷凍倉庫での荷運びでした。氷点下18度の中で朝8時から夜8時まで働いて140元、倉庫から出てきたときには顔が軽い凍傷になっていたそうです。この学生は、仲介業者の中抜きに何の決まりもないことにも気づきました。政府調達のサイトに載っていた、ある自治体と警備会社の契約は「8時間で150元」。それが日雇い労働者向けのチャットグループに流れてくると「12時間で150元」になっていたのです。

 周氏自身も5時間働き、180元を受け取りました。ライブ配信では、日雇い労働者は危険な仕事を任されることが多いのに「誰も名前すら知らない」「社会保険に入ってるかどうかも誰も知らない」と話し、事故が起きても誰も責任を取らない現状を指摘していました。

 年配の女性は、さらに厳しい立場に置かれています。別の人が撮影した動画の中で、河北省出身の53歳の女性は「農民だから、定年なんてないよ」と話していました。求人はほとんどが45歳以下で、53歳を47歳とごまかして登録する仲介業者もいます。彼女も年齢を若く申告しなければ、なかなか雇ってもらえません。女性によると、仕事を割り振る手配師の中には、その立場を利用して女性の体に触る者がいて、応じた人は何日か多く仕事をもらえ、拒んだ人は翌日から呼ばれなくなるといいます。彼女自身も、あるビルの地下室で手配師に後ろから抱きつかれ、壁に押しつけられたことがありました。相手の顔を平手打ちし「これ以上やったら警察呼ぶよ」と言いましたが、結局通報はしませんでした。馬駒橋では、通報すれば翌日から誰にも声をかけてもらえなくなるかもしれないのです。

 馬駒橋だけが特別なわけではありません。中国政府の発表によると、日雇いやフリーランス、配達員など、決まった勤め先を持たずに働く人は2025年の時点で2億人を超え、働く人全体の4分の1以上を占めています。

 こうした光景を、当局は人の目に触れさせたくないようです。

 投稿前から、周氏はライブ配信で「深圳の話だったら出せるんだけど、北京となると、多少は空気読まないとね」と話し、本編を削って食べ歩きだけの「無難なバージョン」にするとまで言っていました。動画を投稿した日の午後、ライブ配信の最中にドアをノックする音がしました。ドアの外からは「派出所の者です」「何度も会ってるでしょう」といったやり取りが聞こえていました。周氏はすぐに配信を打ち切り、その後、動画は削除され、アカウントも凍結されました。「出せない」と口にしてから連行されるまで、わずか10日でした。

 消されたのは周氏の動画だけではありません。今年6月、中国国内のメディアが、前述の博士課程の学生が馬駒橋で働いた経験を伝える長い記事を掲載しましたが、この記事も今では国内のネット上から削除され、海外のアーカイブサイトでしか読めなくなっています。2025年9月には、ネット規制を担う国家インターネット情報弁公室が集中的な取り締まりを行い、その対象の一つに「悲観的な感情を過度にあおる」コンテンツを挙げていました。

 動画が削除される前、ビリビリのコメント欄にはこんな書き込みがありました。「これが普通の生活じゃないのって書いてる人がいっぱいいるけど、普通の生活がなんでこんなことになってるんだよ」。「カメラが普通の人たちに向いたとたん、国が語る立派な話なんて全部崩れるんだよね」という声もありました。アカウントが凍結された後、中国国内のあるブロガーは、映画『イップ・マン』のセリフを引いて、今回の出来事をこう表現しています。「たとえ本当のことでも、あちこちで言いふらしちゃいけない」

 警察は今のところ、周氏を連行した理由を明らかにしていません。馬駒橋の道端では、今日も夜明け前から多くの人が仕事を待っています。

(翻訳・吉原木子)