台湾の人が中国に旅行や出張で渡る際のリスクが、今、高まり続けています。台湾の大陸委員会が公表した統計によると、2024年1月1日から2026年8月27日までに、中国で消息を絶ったり、身柄を留め置かれて取り調べを受けたり、行動の自由を制限された疑いがある台湾の人は、あわせて426人に上りました。これは前の週より7人増えています。内訳は、消息不明が160人、留め置かれて取り調べを受けた人が36人、中国側に拘束された疑いがある人が230人です。この1週間でも、消息不明が5人、拘束された疑いがある人が2人増えました。こうした数字は、毎週のように数人ずつ増え続けています。

 この統計が出た時期も、見過ごせません。中国では新しい出入国管理規定が9月15日から施行される予定です。各地の空港ではすでに、出国する人への審査が広がり始めています。大陸委員会は、この新しい規定によって、これまで中央に集中していた国境管理の権限が地方にも広がり、取り締まる側に大きな裁量が与えられると指摘しました。条文の内容はあいまいで、運用次第でどうにでもなる一方、人権への配慮は薄いといいます。さらに懸念されるのは、台湾の人が中国に渡る際に使う台胞証の所持者も、この管理の対象に含まれる可能性があることです。そのため、台湾から中国へ向かう人の身の安全は、これまで以上に危うくなるおそれがあります。

 ちょうどその時期、台湾のある父親が、長男の身に起きた出来事をSNSのThreadsに投稿しました。父親によると、息子は先日未明、出張のため上海に到着しましたが、入国審査の際に税関で呼び止められ、そのまま奥の小部屋に連れて行かれたといいます。その後、息子は係官どうしの会話から、自分が止められた理由が「政治に関わる」と判断されたためらしいと知りました。そのきっかけは、大学卒業後にアムネスティ・インターナショナルでアルバイトをしていた経歴だったということです。

 アムネスティ・インターナショナルは、新疆、チベット、香港の問題や言論統制をめぐる、中国の人権状況を長年にわたって監視し、批判してきた団体です。中国当局はこの組織を敵対的な海外NGOとみなしてきました。この青年は、卒業後にその団体でごく短期間、働いただけだけの1スタッフでした。それにもかかわらず、入国審査の重点監視リストに名前が載っていたのです。つまり中国の情報機関は、この種のNGOについて、インターンやアルバイトを含む関係者の名簿まで把握している可能性があります。

 小部屋で待っていたのは、私服姿の3人でした。取り調べは6時間に及び、答えた内容をそのまま次の追及の材料にするような、強い圧力をかけるやり方で進められました。さらに携帯電話のロックを解除するよう求められ、やり取りの履歴や写真、メールのほか、LINEやWhatsAppなどのアプリまで次々と調べられたといいます。捜査側は、当時の仕事に関わるファイルや会話の記録が残っていないかを探していたといいます。取り調べでは、質問が矢継ぎ早に続きました。組織ではどんな業務を担当していたのか。組織の資金はどこから出ているのか。台湾や海外で、どの政治家や人権活動家、団体とつながりがあるのか。当時の仕事は、中国と台湾間の人権問題に関わるものだったのか。今回入国した本当の目的は何か。ひそかに調査するつもりではないのか。現地の要注意人物と会う予定があるのではないか。

 息子さんは恐怖を感じながらも、比較的落ち着いて受け答えを続けたといいます。すでにその仕事は辞めていること、当時は生活のために働いていただけの一従業員で、方針を決める立場でも活動の中心でもなかったこと、そして政治的な意図はまったくないことを、繰り返し説明しました。最後は、自ら「入国を取りやめる」と申し出て、ようやくその日の夜の便で台湾へ送り返されることになりました。

 その晩、父親は空港まで息子さんを迎えに行きました。息子さんはひどく憔悴した様子で、一部始終を語ったといいます。その姿を前に、両親は言葉を失いました。父親は、法律の線引きが通用しないような場所では、こうした出来事は小さな問題にも大きな問題にもなり、結局は相手の判断次第だと投稿に記しています。そのうえで、息子は李明哲氏のような事態にはならずに済んだとも書きました。李明哲氏は、2017年に中国で拘束され、その後5年間服役した台湾のNGO関係者です。父親はさらに、「それでも私の動悸はいまだに収まりません。息子の胸の内は言うまでもないでしょう」と心境をつづり、最後に、特別な用事がないかぎり中国には絶対に行かないでほしいと書き添えていました。

(翻訳・吉原木子)