8月10日深夜、広東省深圳市のから揚げ店で、若い男性店員が大量注文に追われ、涙を流しながら調理を続ける姿がSNSで話題になりました。この店は本来二人体制でしたが、この日は同僚が休んだため、新人の彼が一人で揚げる、タレを絡める、包装するという全工程をこなしていました。呼吸は乱れ、手も震えていたものの、遅延への苦情を恐れて手を止められなかったといいます。

 店の外で受け取りを待っていた配達員たちは、彼の様子がおかしいことに気づき、焦らなくていい、ゆっくりで大丈夫だと声をかけました。別の配達員が注文の進み具合を尋ねようとした際には、周囲が「今は声をかけるな、彼はもう限界だ」と止める場面もありました。それでも息はさらに荒くなり、やがて店員は過呼吸によって呼吸性アルカローシスを起こし、けいれんしながら倒れ込みました。近くにいた男性が自分が代わると申し出て、作業を引き受けました。

 店舗側は後に、本来は二人体制のところ、その日は一人が急に休みを取ったうえに注文が殺到してしまったと説明しています。店員は体調が回復した後に退職し、すでに別の仕事に就いており、給与も支払い済みだということです。

 この動画が中国のSNSで大きな反響を呼んだのは、単に一つの店の人手不足だけが理由ではないようです。料理を作る人、配達する人、そして注文する人は、いずれも同じ仕組みの中に置かれています。その中で、誰か一人だけが楽をしているわけではありません。

 から揚げ店の厨房は、そうした構造を分かりやすく示す現場だといえます。人件費を抑えるため、一人に二人分の仕事を担わせる体制は珍しくなく、忙しい時期に欠員が出れば、経験の浅い新人がその穴を埋めることになります。今回の店員についても、中国のSNSでは、責任感が強かったからこそ心身の限界を超えてしまったのではないかという見方が広がりました。

 店の外で彼を気遣っていた配達員たちも、同じ仕組みの中で働いています。中国全土の配達員は延べ8400万人規模ともいわれています。彼らは長年、配達時間を厳しく管理され、少しでも遅れると、罰金を科される仕組みの中で働いてきました。こうした中で2026年に入り、当局が配達を仲介する主要プラットフォームに対し、配達員本人に8時間ごとに休憩を促す通知を送り、12時間連続で働いた場合には、強制的にログアウトさせる仕組みが整いつつあります。こうした、長時間労働を防ぐ対策が進められている一方で、配達員への保証は不十分な状況です。都市部の被用者向け社会保険(日本の厚生年金・健康保険に近い制度)に加入している配達員は3割に満たないとの報道もあります。今年4月には、配達員の暮らしの厳しさを追った短編ドキュメンタリー「2026年 中国配達員 生存の記録」が、公開直後に削除される出来事もありました。あの晩、店員を気遣っていた配達員自身が、次に倒れても不思議でないのです。

 2026年には、複数の中国大手IT企業で、AIが解雇を判断し通知まで行う仕組みの導入が始まりました。判断はアルゴリズムが行い、通知はシステムが自動で送ります。あわせて、アカウントや利用権限も凍結されます。担当者と本人が言葉を交わさないまま、手続きが終わることも少なくありません。

 解雇されたある社員は、自分が誰にも気づかれないまま、システムの中から静かに消されたように感じたと語っています。また、多くの業界で35歳は見えない壁になっています。能力が足りないからではなく、給料が高いうえに、後ろにはもっと安く使える新卒や若手が控えています。先にそうした人材から「最適化」の対象にされていきます。残った側も楽ではありません。一人が辞めても補充は行われず、これまで二、三人で担っていた業務が一人に集中します。KPIは見直されないまま、より少ない人数で同じ成果を求められます。この種の疲れは、映像にはほとんど映りません。号泣やけいれんのような分かりやすい形では現れず、気づかれないまま人をじわじわと消耗させていくからです。オフィスに駆け込んで「焦らなくていい、ゆっくりでいい」と声をかける人もいません。

 深夜のから揚げ店は、すでに閉店していても、オフィスビルの仕事は終わりが見えにくく、明かりは、夜遅くまで消えないことがあります。人を追い詰める形は一つではありません。今回はただ、現実の一端がたまたまスマートフォン映っただけに過ぎません。

(翻訳・吉原木子)