中国の高軌道通信衛星を運ぶ長征7号Aロケットは8月10日、現地時間午後8時02分、海南島の文昌(ぶんしょう)宇宙発射場から打ち上げられました。打ち上げから90秒足らずで機体が爆発し、巨大な火球となりました。搭載していた通信衛星も失われ、打ち上げは失敗に終わったと報じられました。これは映画の特殊効果ではなく、実際に起きた出来事です。いったい何が起きたのでしょうか。今月後半に予定されている月探査ミッションにまで影響するのでしょうか。一つずつ見ていきましょう。
発射前には周辺空域の飛行制限が通知されており、搭載されていたのは中星4B衛星です。長征7号Aは主に高軌道への打ち上げに使用されるロケットで、通常は衛星を静止トランスファー軌道に投入し、その後、衛星自身が軌道を変更して静止軌道に入ります。
沿岸部にある宇宙発射場の近くで撮影され、SNSに投稿された映像を見ると、打ち上げ直後はすべて正常に見えました。しかし、90秒もたたないうちにロケットの第1段が突然爆発し、瞬く間に巨大な火球となりました。第1段と第2段が分離する前に、空中で機体が分解したのです。
中国の公式メディア新華社通信が打ち上げ失敗を認めたのは、それから3時間後でした。発表では、ロケットが飛行中に「異常」を起こしたため任務は失敗し、事故原因を調査中だとしています。注目されるのは、中国国内の複数のメディアが、今回の打ち上げ失敗に関連する一部の映像が、中国国内の動画サイトから削除されたと報じていることです。ロケットと衛星はいずれも南シナ海に落下したとされています。今回の打ち上げを担当した中国運載ロケット技術研究院と、その親会社である中国航天科技集団は、それぞれのSNSアカウントで新華社通信の声明を転載しました。
中国の国家宇宙開発計画は情報公開が極めて限定されているため、ロケットが爆発した本当の原因は、今後も明らかにならない可能性があります。
ネットメディアArs Technicaのシニア宇宙編集者、エリック・バーガー(Eric Berger)は、爆発が発生した時間から判断すると、第1段の飛行中に起きたもので、ロケットが低層大気を加速しながら通過する際、最大動圧に達した瞬間だった可能性が高いと分析しています。また、ロケットに搭載された「飛行中止システム」によって爆破された可能性もあります。このシステムは、ロケットが予定された飛行å経路から外れた場合に機体を爆破するものです。現時点で当局はテレメトリーデータを公表していないため、爆発の原因が機体構造の破損だったのか、エンジンの異常だったのか、制御システムの故障だったのか、それとも飛行中止システムが作動したためなのか、外部から確認することはできません。
中国の国営メディア、中央人民放送も、打ち上げの前後に今回の任務について短い報道を行い、搭載されていたのが中星4B衛星だったことを確認しています。世界の宇宙産業を専門とするニュース・分析サイト「SpaceNews」によると、番号の小さい中星シリーズの衛星は、通常、軍事通信に使用される衛星だとみられています。
このロケットが「爆発」したのは、今回が初めてではありません。そして今回は、その代償がさらに大きくなる可能性があります。
長征7号Aロケットは2020年3月に初飛行しましたが、この初回の打ち上げも爆発によって失敗しました。その後は比較的安定した運用が続き、直近では7月29日夜、長征7号A遥29ロケットが天鏈3号01衛星を予定軌道へ投入しています。今回の事故まで、高軌道への打ち上げを16回連続で成功させていました。今回の事故は、2020年の初飛行失敗以来、この型式として2回目の失敗となります。
10日の打ち上げ失敗が、今後の任務にどのような影響を及ぼすのかは、まだ分かっていません。このロケットの第1段と補助ロケットには、YF-100型のケロシン・液体酸素エンジンが使用されています。このエンジンは長征5号ロケットにも使用されています。
問題はここです。もし今回の爆発が本当にエンジンに関係しているのであれば、次に打ち上げられるのは、単なる一般的な衛星ではありません。
業界関係者の間では、今回の打ち上げ失敗がエンジンに関連していた場合、北京が今年予定している最も重要な打ち上げ任務の一つが延期される可能性があるとみられています。長征5号ロケットは現在、8月24日に嫦娥7号(じょうが7ごう)による月の南極への着陸探査ミッションを実施する予定です。
中国有人宇宙飛行プロジェクトの公式サイトによると、2026年4月9日時点で、嫦娥7号の探査機は空路と陸路を組み合わせた輸送によって、安全に文昌宇宙発射場へ到着しています。また、打ち上げを担当する長征5号遥14ロケットも7月11日、海上輸送で文昌清瀾港(ぶんしょう・せいらんこう)に到着し、その後、発射場へ運ばれ、探査機とともに最終組み立てと試験作業が進められています。
長征5号と今回事故を起こした長征7号Aはいずれも、新世代の無毒・低公害型の液体酸素・ケロシン、液体水素・液体酸素を利用する推進システムに属し、第1段にも同じYF-100エンジンが採用されています。そのため、今回の事故が特定のエンジン製造ロット、あるいは共通する設計上の欠陥に関係していることが判明した場合、嫦娥7号の打ち上げ時期にも影響が及ぶ可能性があります。
嫦娥7号ミッションは、中国の月探査計画を構成する重要な任務の一つです。周回機、着陸機、月面ローバー、小型ホッピング探査機を一体化した構成となっており、月の南極付近にあるシャクルトン・クレーター周辺を探査することを目標としています。中国とアメリカはいずれも、資源が豊富とされる月の南極での探査活動を競うように進めています。
今回のロケット打ち上げは、中国にとって2026年56回目の軌道投入への挑戦であり、今年4回目の失敗となりました。中国当局がすでに失敗を認めている打ち上げには、1月17日の長征3号Bロケットと谷神星2号固体燃料ロケットの初打ち上げ、そして4月3日に行われた天龍3号ロケットの初打ち上げ事故があります。
さらに皮肉なことに、10日の打ち上げが、本来は「最短記録」を更新するための挑戦だったことです。7月29日に長征7号A遥29ロケットが天鏈3号01衛星の打ち上げに成功してから、わずか約12日しかたっていませんでした。中国党系メディアは打ち上げ前、今回の任務が長征7号Aだけでなく、新世代の長征シリーズ全体でも、これまでで最も短い打ち上げ間隔の記録を樹立すると宣伝していました。しかし、その記録が歴史に刻まれることはありませんでした。代わりに残ったのは、南シナ海の上空で炸裂した巨大な火球でした。
(翻訳・藍彧)
