2026年5月、SNSプラットフォーム「X」で拡散された一枚の写真が、世界中で大きな波紋を呼びました。写真に写っていたのは、北京の街中に現れた、日本の有名ラーメンチェーン「一蘭」に極めてよく似たラーメン店でした。看板には、一蘭を象徴する黒・赤・緑の三色配色がそのまま使われ、店舗デザイン、ロゴの円形マーク、さらにはメニュー内容に至るまで、ほぼ完全にコピーされていました。

 しかし、注意深く見ると違いもありました。本物の一蘭に書かれている「昭和35年創業」が、この偽店舗では「建国65年創業」に変更されていました。英語表記のブランド名「ICHIRAN」は、頭文字の「I」が抜け、「ICHRAN」という不自然な名前になっていたのです。しかも、実店舗だけではなく、中国の大手フードデリバリー「美団(メイトゥアン)」にも掲載されていました。

 この情報は瞬く間に拡散され、中国と日本のネットユーザーの間で強い反応を呼びました。中国のSNSでは、この件に困惑や憤りを感じる声も少なくありませんでした。「ここまで似せるのはひどすぎる」「ちゃんと見なければ本物だと思ってしまう」との声が広がり、あまりにも度を越したやり方だと感じるネットユーザーも多く見られました。
 一方、日本側の反応は、怒りと皮肉が入り混じったものでした。「ジョーダンですら偽物ブランドにされる国だからな、これが彼らの日常だ」という投稿は広く拡散され、中国の知的財産問題に対する、日本社会の長年の不満や無力感を映し出すものとなりました。

 「J-CASTニュース」の報道によると、奈良市の市議会議員で元インフルエンサーのへずまりゅう氏は、福岡にある一蘭の本社まで足を運び、一蘭へ直接情報提供を行い、一蘭の法務部から「事実確認しました」「弁護士に相談します」と伝えられたとXで明かしました。また、一蘭の広報部は、「弊社側でも把握しており、現在法務部にて対応を進めております」と明らかにしています。
 一蘭は現在、中国本土に出店しておらず、海外の直営店は香港3店舗、台湾3店舗、そしてアメリカ・ニューヨーク3店舗のみ。一蘭はホームページで「一蘭はすべて直営で運営しており、フランチャイズ契約やのれん分けは一切行っておりません」と注意を呼びかけています。

 中国市場では、この20年以上、日本ブランドを巡る「模造品」「便乗商法」「商標の先取り登録」が後を絶ちません。多くの中国企業が、日本ブランドのデザインや名称、さらには経営モデルまで模倣して利益を上げており、一部の企業は法律上まで「本物」として認められてしまっているケースもあります。
 その代表例のひとつが、近年中国で急拡大した「MINISO(名創優品、メイソウ)」です。MINISOは、無印良品やダイソー、ユニクロを組み合わせたような雑貨店として知られています。創業初期、日本語表記、日本風の店舗デザイン、日本ブランドに似た商品陳列を大量に使用していました。そのため、多くの消費者がこれを日本企業だと誤解していたのです。創業者の葉国富(よう・こくふ)は当時、自ら「ブランドの発想は日本の小売文化から来ている」と公言し、日本人デザイナーを共同創業者として起用していました。
 しかし後に、日本メディアや中国国内の世論によって実態が暴露され、2022年になってようやく「誤ったブランディング戦略だった」と認めています。それでも、MINISOはこの戦略によって世界中で5,000店舗以上を展開する大企業へと成長しました。結果として、「日本風ブランド」戦略そのものが、MINISOの急成長を支える形となったのです。

 もう一つ広く知られているのが、バスケットボール界のスター、マイケル・ジョーダン氏を巡る長年の商標争いです。
 中国スポーツブランド「喬丹体育(チャオダン・スポーツ)」社は、「ジョーダン」の中国語名「喬丹」を商標登録し、自社のスポーツウェアやシューズに使用していました。これはナイキ社傘下の「Air Jordan」と著しく混同される恐れがあり、著名人の知名度に便乗した商業行為だと見られていました。マイケル・ジョーダン本人は2012年、この問題を巡って中国の裁判所に提訴します。しかし、裁判は長期化し、多くの挫折を経験しました。
 そして2020年、中国の裁判所はようやく、「文字+図案」の組み合わせ商標を侵害と認定し、関連商標の取り消しを命じます。しかし、それだけでした。「喬丹体育」という企業名自体や、多くの関連商標はそのまま維持されたのです。現在も同社は、ほぼ同じ名前のまま営業を続けています。
 この長期にわたる商標訴訟は、中国の法制度の中で、海外企業が自社ブランドを守ることの難しさを浮き彫りにしました。

 もし、これらの問題が単なる企業モラルや商標侵害だけの問題であれば、まだ理解できるかもしれません。しかし、日本の「無印良品」が中国で経験した裁判は、さらに深い制度上の問題を浮かび上がらせました。
 「無印良品」を展開する株式会社良品計画は、シンプルなデザインと高品質な商品で世界的に知られるブランドです。しかし、中国本土へ本格進出しようとした際、「無印良品」という商標が、すでに中国企業によって先回り登録されていることが判明しました。しかも対象は、第24類の繊維製品、つまりタオル、シーツ、布団カバーなどでした。商標を登録していたのは、「北京綿田紡織品有限公司」という中国企業で、同社は商標を登録しただけでなく、「無印良品 Natural Mill」という実店舗まで展開していました。店舗デザイン、商品スタイル、タグのデザインに至るまで、本家の「無印良品」と極めて似ていました。
 さらに衝撃的だったのは、その後の裁判結果でした。この商標を先取りした中国企業が、逆に「商標侵害」を理由に、株式会社良品計画とその中国法人を提訴したのです。 そして2019年11月、北京市高級人民法院は最終判決で、良品計画社に敗訴を言い渡し、対象となる第24類の繊維製品で「無印良品」商標を使用することを禁止しました。さらに、約1,300万円(62.6万元)の賠償金支払いまで命じました。それだけではありません。良品計画社は、ECサイトや実店舗で、「侵害」の影響を取り除くための声明を掲載するよう命じられたのです。

 北京の街に現れた、細部のミスだらけの偽「一蘭ラーメン」。
 現在も営業を続ける喬丹体育。
 そして、本家の無印良品が敗訴するという司法判断。
 これら一連の出来事は、ひとつの明確な流れを形作っています。それは、中国における知的財産保護の欠如が、一部企業のモラル問題だけではなく、中国共産党体制による黙認によって生み出されているという現実です。

(翻訳・藍彧)