2026年の今、中国の巨大インフラ神話はいま、かつてないほど大きく揺らいでいます。一方で当局は、いわゆる「水中高速鉄道」計画を意気揚々と打ち出しています。その一方で、すでに地上で運行している高速鉄道網は、巨額の債務や品質問題に苦しみ続けています。このねじれた現実は、中国の経済モデルが崩壊の縁に近づいていることを浮かび上がらせています。

 最近、中国政府が大々的に宣伝しているのが、長江沿いの高速鉄道建設における重点事業「崇太長江トンネル」です。この計画は「第15次5か年計画」の重大プロジェクトと位置づけられ、総投資額は約12兆円(5000億元)を超えています。長江デルタ、長江中流域、成都、重慶の三大都市圏を結ぶ一大構想だとアピールされています。その中核を担うのが、全長およそ14.25キロの崇太長江トンネルです。現在、「領航号」と呼ばれる巨大シールドマシンが、水深89メートルの地下で掘削を進めているといいます。

 中国官営メディアは、この計画によって「長江を渡っても減速しない高速鉄道」を実現すると宣伝し、さらに約35兆円(1.5万億元)ともされる巨大な産業チェーンを動かす起爆剤になると期待をあおっています。

 しかし、海外の専門家からは、この計画に対して厳しい批判と疑問の声が上がっています。アメリカ・サウスカロライナ大学エイケン経営学院の謝田教授は、いわゆる「水中高速鉄道」とは、実際には15キロにも満たない鉄道トンネルにすぎないと指摘しています。しかも、複雑で危険の多いトンネル内の環境で「減速なし」を実現するのは極めて難しく、そうした表現は宣伝目的の演出に近いという見方です。謝教授は、中国全体の高速鉄道が広く赤字に陥り、人口ボーナスも消えつつある現状を踏まえれば、このような巨額事業は国民生活の必要性から出てきたものではなく、建設資材の需要を人為的に生み出し、経済成長の数字を取り繕うためのものだとみています。

 謝田氏は次のように述べています。
 「実際のところ、高速鉄道プロジェクト全体は広く赤字に陥っている。すでに多くの高速鉄道駅が閉鎖され、運行も止まっている。電気代すら回収できないからだ。そうした状況で、さらにこれほど巨額の資金を投じて、こうした『水中高速鉄道』の建設を進める必要が、いったいどこにあるのだろうか」

 また、アメリカ在住の経済学者・李恒青氏も、このような大規模インフラ事業は典型的な「建設を重視し、収益を軽視する」という発想だと指摘しています。これまで中国では、過剰なインフラ建設によって関連産業を無理やり動かしてきましたが、工事が終わったあとには、深刻な生産能力の過剰と環境汚染だけが残るケースが少なくありません。

 李恒青氏はこう語ります。
 「このトンネルを造るとなれば、大量のセメントが必要になる。そうなればセメント工場を建てなければならない。さらに製鉄所の生産も拡大することになる。そうなれば汚染はもっと深刻になる。加えて、建設労働者も大量に雇わなければならないし、掘削機をはじめ、さまざまな機械も買いそろえる必要がある。だが、工事が終わったあと、その労働者たちはどこで生計を立てるのか。増やした生産能力は、いったいどうやって消化するのか」

 専門家の多くは、こうしたプロジェクトはすでに、権力者層が政府投資をだまし取る手段として国家資金を搾取する「ATM」と化しており、国民の福祉には何の益ももたらさないと指摘しています。

 さらに深刻なのは、すでに地上で運行している高速鉄道網そのものに、深刻な品質危機が表れ始めていることです。最近、安徽省で建設が進む合新高速鉄道の現場を複数の調査記者が取材したところ、施工側が本来使うべき高品質の「EPDM弾性クッション層」に代えて、粗悪な「再生ゴム」を使っていたことが明らかになりました。この部材は、本来なら高速走行する列車の衝撃を吸収する重要な役割を担うものです。ところが現場で見つかった粗悪品は、手で引っ張るだけで簡単に破れてしまうほど脆いものでした。記者たちがさらに調査を進めようとしたところ、施工関係者から暴力を受け、スマートフォンまで奪われました。記者のうち1人は右手を負傷したとされています。

 こうした「おから工事」は、決して一件だけではありません。山東省の莱栄高速鉄道プロジェクトでは、請負業者が、地盤補強に使われるらせん杭の9割以上が設計で定められた長さに達しておらず、構造の安定性に深刻な影響を与えていると告発しました。また、広東省で起きた梅大高速道路の陥没事故では、技術者が路盤の厚さ不足や鉄筋の欠落などの問題を確認しており、最終的に大きな人的被害につながりました。こうした事例が相次いだことで、大型インフラ建設の品質管理そのものに対する国民の不信感は一段と強まっています。

 その品質問題の背後には、制御不能になりつつある債務危機があります。中国の高速鉄道建設と運営を担う中核組織は、中国国家鉄路集団有限公司(略称「国鉄集団」)です。2025年末時点で、国鉄集団の総負債は約128兆円(約6.4兆元)、年間の利払いだけでも約4.6兆円(2000億元)を超えています。ところが、年間のわずかな利益では、その利息すらまともに払い切れない状況です。長年、中国は「高速鉄道+不動産」という経済モデルに依存してきました。高速鉄道の駅を建設し、その周辺の地価上昇で利益を生み出すやり方です。しかし、不動産バブルが崩壊した今、この「土地財政」モデルは完全に行き詰まりました。全国では少なくとも26か所の高速鉄道「ゴースト駅」が放置されており、たとえば巨額の資金を投じて建設された雄安駅も、周辺には雑草が生い茂り、入居率は極めて低いままです。市場の需要を無視し、拡大だけを優先してきたこうした計画経済型の産物は、いまや中国の金融システムの中で、いつ爆発してもおかしくない「灰色のサイ」になりつつあります。

 こうして膨れ上がった巨額の債務の穴を埋めるために、中国政府は2024年から高速鉄道の運賃を大幅に引き上げ始めました。主要路線の一部では値上げ幅が20%にも達し、ビジネスクラスの運賃は、ついに航空券に迫る水準になっています。その影響は、2026年の旧正月の帰省ラッシュ期間中に、ひときわはっきりと表れました。高速鉄道の車内では空席が目立つ一方で、昔ながらの「緑皮列車」と呼ばれる在来型列車には人があふれ返っていたのです。多くの出稼ぎ労働者は、高速鉄道の運賃を負担できず、時間がかかり、設備も劣る「緑皮列車」を選ばざるを得ませんでした。中には座席のない切符を買い、長時間立ったまま帰省する人もいました。SNSでは「10年前もこうだったし、10年後も結局こうなんだろう」と嘆く声まで上がっています。

 それだけではありません。中には、バイクで帰省したり、自家用車で長距離を走って故郷に戻ったりする人たちもいました。寒さの厳しい中、家族を連れ、数百キロも移動するのは、少しでも交通費を節約するためです。頭上では高速鉄道が走り、足元では古い道路をひたすら進むという強烈な対比は、いまの中国社会と経済の現実をそのまま映し出しているようです。

 結局のところ、国民の所得を根本から引き上げることができず、権力による資源配分という仕組みを打ち破れない限り、どれほど先進的に見える水中トンネルを造ったとしても、広がり続ける貧富の格差と、社会に積もる絶望を埋めることはできません。

(翻訳・藍彧)