5月下旬、中国南部の各地が本格的な雨季に入ると、湖南省、貴州省、広西チワン族自治区、広東省、湖北省などで相次いで豪雨に見舞われました。各地で山津波、土石流、都市部の浸水被害が相次ぎ、中国当局は「全力で救援活動を進めている」「住民はすでに安全な場所へ避難させた」と繰り返し発表しています。

 しかしその一方で、ネット上に投稿された住民の動画や被災者の救援要請からは、まったく別の現実が浮かび上がっています。深夜に突然押し寄せた洪水。外界と完全に切り離された村。逃げ遅れた高齢者。そして停電と通信断絶の中で、助けを待ち続ける人々です。

 5月20日の深夜、貴州省貴定県昌明鎮良田村から投稿された1本の動画が、中国のSNS上で急速に拡散されました。動画では、激しい雨が降り続く中、村の庭や道路が完全に濁流に飲み込まれています。道路はすでに川のようになっており、撮影者は2階から非常灯を頼りに外へ向かって叫んでいました。

 「ここ全部水没している!村全体が沈んでいるんだ!早く助けに来てくれ!村の中にはまだ大勢人がいるんだ!」

 動画の中では、洪水が建物へ激しくぶつかる轟音も響いており、周囲は真っ暗でした。すでに停電していたとみられます。この動画を転載したネットユーザーの間では、「この絶望感は、実際に被災した人にしかわからない」といったコメントが相次ぎました。

 中国当局の発表によると、5月18日から19日にかけて、貴州省貴定県で(きていけん)では記録的な豪雨が発生し、昌明鎮(しょうめいちん)などで大規模な洪水や土砂崩れ、山崩れが起きたとされています。速報によると、少なくとも4人が死亡、5人が行方不明になったと発表されました。

 中国メディア「人民網」によれば、昌明鎮の一部地域では短時間に猛烈な雨が降り、川の水位が急上昇し、洪水のピーク時には警戒水位を2.6メートル超えたとされています。現地では2700世帯以上、6200人以上が被災し、およそ2000人が緊急避難しました。一部の村では停電と通信障害が発生し、道路も寸断されたと報じられています。

 しかし、多くの住民は「当局が発表している数字だけでは、実情を完全に反映できず、実際の被害は到底わからない」と考えています。

 現地住民の1人はメディアに対し、「19日の未明、突然雨が強くなって、一気に水が押し寄せてきた」と語っています。また、昌明鎮の別の住民は、自宅が独木河(どくもくが)から200〜300メートルほどしか離れておらず、「一番ひどい時は、腰の高さまで水が来た」と証言しました。

 別の商店経営者は、洪水が引いた後、店の内部に約1.5メートルもの浸水跡が残り、商品はほとんど流されてしまったと話しています。

 海外のソーシャルメディアに流出した動画には、貴州省の一部地域で街全体が泥に覆われ、車が何台も重なるように押し流され、橋が崩壊し、川沿いの家屋が列ごと流される様子も確認されています。被災者の1人はカメラに向かって、「家は全部なくなった。豚も全部流された」と語っていました。別の住民は、「真夜中に洪水と土石流が突然来た。水位は人の背丈より高かった」と振り返っています。

 貴州省以外にも、湖南省石門県でも深刻な被害が発生していました。

 5月17日以降、湖南省石門県では豪雨が続き、高地の山間部にある金家河村では、道路の崩壊と通信断絶によって、一時完全に外部と連絡が取れなくなりました。現地の幹部はメディアに対し、「金家河村は、もう存在しなくなった可能性がある」とまで語っています。

 「瀟湘晨報」など中国メディアの報道によれば、5月18日午前3時ごろ、金家河村では停電が発生し、その後通信も完全に途絶えました。洪水と山津波は、住宅や農地、道路を次々と破壊し、村全体が完全な孤立状態となったのです。

 村の会計担当・田昌煙さんによれば、多くの住民は避難する時間すらなかったといいます。石門県の市街地で働いている閔さんという男性は、68歳の父親が金家河村で一人暮らしをしていました。自宅の監視カメラ映像では、18日午前1時ごろにはすでに洪水が家の中へ流れ込み始めており、それでも父親は床の水を拭き続けていたそうです。家族は何度も電話をかけ、避難を呼びかけましたが、最後まで電話はつながりませんでした。その後、村は停電と通信断絶に陥り、監視カメラも完全に停止しました。

 閔さんはその後、11人の村民とともに臨時の捜索隊を結成し、徒歩で山へ入り家族を探しました。しかし、「村へ向かう道は完全に壊れていた。細い山道を歩くしかなかったが、至る所で土砂崩れと洪水が起きていた」と語っています。最終的に、捜索は断念せざるを得ませんでした。

 また、李さんという女性も、自身の祖父母と大叔父が洪水で行方不明になり、そのうち祖母は死亡が確認されたと明かしています。

 さらに胸が締めつけられるのは、逃げることすらできなかった独居高齢者たちの存在です。広東省で長年働いている王さんは、故郷の金河村が谷間に位置しており、そこには78歳の母親、83歳の父親、そして80歳の伯父が暮らしていたと語りました。「豪雨の中で、あの一帯は洪水と土石流で全部なぎ倒された。家にいた3人の高齢者は、全員流されました」

 5月18日の夜、知人から遺体収容の映像が送られてきた際、王さんはその中の1人が「母親に少し似ている」と感じたそうです。翌日、現地へ戻った王さんは、近くの場所で母親の遺体を確認しました。

 5月22日時点で、中国当局は石門県で7人死亡、14人行方不明と発表しています。しかしネット上では、「実際の被害者数はもっと多いはずだ」と疑問視する声が数多く上がっています。

 その一方で、中国のSNSでは再び「深夜の放水」が議論になっています。中国では長年、洪水被害が起きるたびに、「なぜ多くの村が夜中に突然洪水に飲み込まれるのか」「なぜ住民へ事前通知がなかったのか」という疑問が繰り返されてきました。

 今回の貴州省と湖南省の洪水でも、多くのネットユーザーが、貯水池の放水と関係があるのではないかと疑っています。しかし現時点で、中国当局は「事前警告なしの放水」があったことを認めていません。関連する議論は急速に削除され、一部の救援動画や被害写真も短時間で消されました。中には拡散制限を受けたアカウントもあるとみられています。

 それとは対照的に、中国の国営メディアでは「救援活動」の動画が大々的に報じられています。「中国新聞網」は、武装警察や消防隊がすでに貴州省の被災地へ入り、泥の除去作業を進めていると報道しました。動画では、兵士たちが学校の泥を片づけたり、道路を復旧させたりする様子が映し出されています。

 しかし、多くの被災者が本当に気にしているのは、行方不明になった家族の安否、流された自宅、そしてこれからどう生きていくのかという現実です。ネット上では、「ニュースでは幹部の話ばかりで、普通の人が何を経験したのか誰も伝えていない」という声や、「本当の被害状況は、住民がスマホで隠れて撮った映像からしか伝わってこない」という投稿も見られました。

 実際、ネットに流出した動画を見ると、多くの山間部の村は洪水後、完全に別世界のような姿になっています。川沿いの住宅は崩れ落ち、山崩れが道路を埋め尽くし、大量の車が泥の中に埋まっています。場所によっては、屋根だけが水面から見えている地域もありました。

 広く拡散されたある動画では、洪水が引いた後の湖南省の山間部一帯が、灰色の泥の海に変わっていました。撮影者は「村が全部なくなった」と繰り返しつぶやいています。

(翻訳・藍彧)