春の農作業の時期を迎えた3月、チベット各地で大規模な「春の耕作始めを祝う儀式」が相次いで開催されました。この儀式は、愛国心や中国共産党への忠誠をアピールするはずだった公式の政治的パフォーマンスでした。しかし、思わぬ形で裏目に出る結果となりました。

 関連する公式の宣伝動画がネット上で拡散されると、多くのユーザーから「儀式の雰囲気が異様だ」「まるで習近平国家主席を追悼する葬列ではないか」との驚きの声が上がったのです。この騒動を受け、「チベット日報」や山南市文化観光局などの公式部門は、関連動画を急遽削除する事態に追い込まれました。

 チベット当局が公開したものとみられる複数の動画には、ロカ(山南)市やニンティ(林芝)市などのイベント会場で、白い服を着たチベット族の人々が長い列を作り、手にお供え物のようなものを持っている様子が映っています。

 列の先頭を歩く人物は習近平氏の巨大な肖像画を高く掲げており、その額縁の周りには白と黄色の布が巻き付けられています。この一行は、広大な畑の中でひときわ異様な雰囲気を放っていました。さらに人が密集している畑でも、似たような光景が次々と繰り広げられていました。

 中国の国旗がくくりつけられた手押し車を押す村人は、白い袖の服に黒い帽子を身につけ、首から長い白い布を下げています。手押し車の両脇にいる人々も同様に、黄色と白の布が掛けられた指導者の肖像画を掲げています。その周りでは大勢の人が輪になって歌い踊っています。また、畑を耕すトラクターには多数の国旗が立てられていました。一部の車体には習氏や毛沢東氏の肖像画まで掲げられています。中には、花飾りの真ん中に指導者の肖像画が置かれ、首に白い布をかけ白い服を着た周囲の人々と完全に一体化している映像すらありました。

 実は、チベットの人々の首や肖像画にかけられている白い布は、チベットの伝統的な「カタ」と呼ばれるものです。絹などで織られた白いカタは、もともと純潔や吉祥、忠誠の象徴です。

 仏様への礼拝や長寿の祝い、冠婚葬祭、来客の送迎など様々な場面で用いられ、最高の敬意と祝福を表すための神聖な品でもあります。しかし、当局が主導した今回の政治イベントにおいては、白い服、白い布、花飾り、そして高く掲げられた肖像画が機械的に組み合わされたことで、視覚的に強烈な違和感を生み出してしまいました。見る者に不気味な印象を与え、まるで厳粛な葬儀の列のような光景に映ってしまったのです。

 こうした演出の失敗を捉えた動画は、SNS上で大きな話題を呼びました。あるユーザーは「当局の過剰な忖度が完全に逆効果になっている。神格化しようとしすぎて、かえって不敬な結果を招いている」と指摘しています。

 また、当局が後から差し替えた別の動画では、指導者の肖像画がトラクターの後部に掛けられていたため、「荷台に乗せられるのがお似合いだ」「ボロ車を引かされていることの暗喩ではないか」といった皮肉も飛び交いました。

 多くのユーザーが「最初はAIが作ったフェイク動画かと思ったが、まさか現実の光景だとは。一体どんな心理状態ならこんな絶妙な演出ができるのか」と呆れ返っています。さらに、全国の他の省では春の農作業で肖像画を高く掲げるようなことはしていないのに、チベットだけにこのような異様な光景が広がっている背景には、言うまでもなく極めて強い政治的な圧力が働いていると鋭く分析する声もありました。

 この異様とも言える儀式は、単なる演出の失敗で片付けられるものではありません。その背景には、中国共産党当局が最近チベットにおける自由への弾圧を強め、無理に平穏を装おうとしている実態が隠されています。

 「チベットの声」の報道によると、3月10日の「チベット民族蜂起記念日」の前後、チベット自治区各地の警戒態勢は全面的に強化され、人々の行動の自由などの基本的人権がさらに制限されました。1959年のこの日、ラサで中国共産党の支配に抗議した無数のチベット人が武力による流血の弾圧を受けました。

現在、この日は当局にとって極めて神経をとがらせる特異日となっています。記念日の影響力を打ち消すため、当局はチベット各地でこのような忠誠を誓わせるイベントを頻繁に開き、チベットの人々が中国共産党を心から支持しているという虚構を作り上げようと必死なのです。

 情報筋によると、今年の記念日の期間中、当局の役人は「法律の普及」を名目にチベットのゴロク地方の民家に強引に押し入り、国外の情報を拡散したり共有したりしないよう人々を脅迫したといいます。

 ネット上で違法な画像や文章、動画を送信することを固く禁じ、発覚すれば厳罰に処すと警告しました。それと同時に、チベット自治区のチャムド地区や、四川省に合併されたアバ・チベット族チャン族自治州では当局が通知を出し、いかなる形式であっても大規模な集会を開くことを全面的に禁じました。

 最近になって国外へ流出したアバ州ルンガル(紅原)県で撮影された動画には、盾を持った多数の武装警察が街頭で隊列を組んで巡回し、装甲車まで同行している様子が映し出されており、あからさまな武力による威嚇が行われています。

 息が詰まるような厳重な監視網と、強制的な忠誠の強要という二重の重圧。その中で執り行われたあの異様で滑稽な儀式は、行き過ぎた政治的パフォーマンスがもたらした最大の皮肉と言えるでしょう。

(翻訳・吉原木子)