2024年4月初め、ティックトックで広く拡散された動画が世論を揺らしました。

 動画に登場した小学生はこう語ります。
「中国農業発展銀行(農発行)の頭取になりたい。お父さんの仕事を継ぎたいからだ。おじいちゃんが中国農業発展銀行の頭取で、お母さんが農発行の副頭取なので、うちの家産を継ぎたいのだ」

 この動画は瞬く間にネット上で話題となり、「家族全員が同じ銀行システムで働いている」という言い方が、ネットユーザーから農発行内部の人事構造への疑念を強く呼び起こしました。

 その後、メディアの調査では、この小学生の家族が長年にわたり農発行のシステム内で勤務してきたことが確認されたといいます。すでに退職した祖父は同行の一般職員にすぎなかったものの、父親はある県の支店長、母親は別の県の支店幹部、さらに母方の祖父も別の県の支店長を務めた経験があり、こちらもすでに退職してから年数がたっているとされます。

 こうした情報を受け、社会からは「身内びいきではないか」という批判が出ました。これに対し農発行側は、家族は同じ部署で勤務しておらず、任用規定に適合していると説明しました。しかし、この説明で議論が収まったどころか、むしろ銀行では、親のコネが効きやすく外の人が入りにくい体質があるのではないかという疑念を、さらに広げる結果になりました。

 これは孤立した事例ではありません。

 2025年1月13日、農発行の湖北省随州支店で監査課長を務める徐氏の元義理の娘がTikTokで実名の告発動画を投稿しました。告発内容は、徐氏が湖北省の高速道路建設プロジェクトで職権を利用し、親族が工事を請け負えるよう便宜を図ったというものです。さらに、安定した利益供与の流れが作られ、公的資源が私物化され、公金が自分たちの財布のように使われていると指摘しました。女性は動画の中で、中央紀律検査委員会に調査介入を求めています。この件はネット上で急速に広がり、農発行システム内部にある「権力、工事、資源」をめぐるグレーな関係を、再び世間の視野に押し出しました。

 また、農発行では近年、金融面の違反問題が相次いで表面化しています。

 2025年下半期から、中国人民銀行は金融機関の統計データについて特別検査を実施し、農発行も重点検査の対象の一つになりました。財新網の報道によると、複数の農発行の支店が金融統計管理に関する規定に違反したとして、中国人民銀行の各地支店から相次いで処分を受けています。

 中国人民銀行の寧夏回族自治区支店が1月15日に公表した行政処分情報では、農発行の寧夏支店が金融統計管理規定に違反したとして、警告処分に加え、約250万円(111.5万元)の罰金を科されました。

 こうした処分は個別事例ではありません。

 財新網の不完全な集計によると、2025年第3四半期以降、農発行の支店10以上が金融統計管理の違反で処分を受けており、1件あたりの罰金は多くが約110万円から約330万円(50万から150万元)の範囲でした。処分の時期は2025年10月から2026年1月に集中し、累計の罰金額は約3.8億円(1700万元)を超えています。

 情報筋によると、今回の検査で監督側は、農発行が中央銀行に提出している農業関連融資の統計データを重点的に確認し、複数の支店で同じ傾向のズレが見つかり、一部の統計は実際の資金の使途と大きく食い違っており、問題は普遍的だったといいます。

 同情報筋は、抜き打ち検査を受けた支店はほぼ例外なく、統計のコンプライアンス審査を完全には通過できておらず、データ提出と内部チェックの仕組みに、長年の構造的な穴があることを示していると指摘しました。

 財新網が入手した情報では、監督当局は検査の中で、農発行が農業関連融資の統計で水増ししていた規模が、約44兆円(約2兆元)に達するといいます。この規模は同行の農業関連融資総額のおよそ4分の1に相当し、政策系銀行の仕組みの中でも極めて珍しく、大規模なデータの歪みの事例だと受け止められています。政策系銀行のデータは、マクロ調整の判断や財政政策の方向性に直結するため、この問題は監督当局の継続的な関心を一気に集めました。

 では、約44兆円(2兆元)に上る「偽の農業関連融資」は、実際にはどこへ流れたのでしょうか。外部の分析は次第に、地方政府の資金調達の仕組みと利益供与の構造へと矛先を向けています。ひとつの見方では、土地財政が細り、債務が大きく積み上がる中で、地方政府が政策系銀行の低コスト資金への依存を目に見えて強め、書類上の名目を通りやすい形に変えて資金を引き出し、財政の穴埋めや債務返済に回した可能性がある、という見方です。

 別の分析では、資金の一部が融資の実行過程で、組織的な違法利益へと姿を変えた可能性があるとも指摘されています。工事の請負、プロジェクトの承認、融資の実行、そして内部の人間関係のネットワークが絡み合うことで、融資が農業関連以外の分野に流用されるだけでなく、審査、実行、工事の発注といった段階で、グレーな利益の連鎖が生まれた恐れがあるという見方です。こうした利益の連鎖の中では、融資は単なる金融手段ではなく、権力を個人の利益に替えるための道具になってしまうというわけです。

 公表された監督側のデータを見ても、農発行は統計データの違反にとどまらず、融資の管理や融資後の監督にも問題を抱えていることがうかがえます。

 中国メディア「南都湾財社」の統計によると、2025年10月以降、農発行の複数の支店が、融資管理の不備や融資後の管理を怠ったことなどを理由に監督処分を受けています。中国人民銀行と国家金融監督管理総局の各地支局が公表した処分通知を見ると、関連する違反は高い頻度で繰り返され、常態化しつつある傾向が示されています。

 中国の金融情報サービスプラットフォーム「同花順iFinD」のデータでは、2025年の最初の10か月間だけで、農発行が受けた監督当局の処分は累計48件にのぼり、罰金の総額は約8.6億円(3869.4万元)でした。これは三大政策系銀行の中で最多とされています。処分の中には、1件あたり2000万円(100万元)を超えるものが複数あり、最高額は約2.3億円(1020万元)に達しました。違反内容としては、融資資金の使途が規定に合っていないことや、融資後の管理が機能不全に陥っていたことなどが挙げられています。

 複数のアナリストは、「親の職を子が継ぐ」ような閉鎖的な構造から、金融統計の不正、さらに融資資源の配分が利益の道具になっていく流れまで見渡すと、農発行が露呈した問題は、単発の汚職や一部の違反ではなく、むしろ制度そのものが抱えるリスクが、一気に表面化したものだと指摘しています。

 金融システムが行政の仕組みや地方財政、建設会社などと深く絡み合うと、政策性金融は「政策のための道具」から、いつの間にか「利益を流す通路」へと変質しやすくなります。約44兆円(2兆元)規模の架空融資が生まれたことは、単なるデータの問題ではなく、制度の動き方そのものがねじれていることを外から見える形で示したものでもあります。

 その資金がどこへ流れ、どのような利益構造につながっていたのかは、今後の調査が進むにつれて、少しずつ輪郭が見えてくる可能性があります。

(翻訳・藍彧)