中国で高速鉄道を利用したことがある方なら、ある奇妙な光景に気づいたことがあるかもしれません。白い流線型の列車が時速350キロで広大な大地を疾走しているにもかかわらず、車内は死んだように静まり返っています。スーツに身を包んだビジネスマンも、旅行への期待に胸を膨らませていた観光客も、乗車してまもなく深い眠りに落ちていくのです。

 長い間、私たち外部の人間は、この集団的な睡眠を「中国社会のハイペースな生活による疲労」あるいは「列車の揺れが極めて少ないことによる快適さ」の表れだと解釈してきました。しかし最近、中国のインターネット上で巻き起こった「空気」に関する議論が、不穏な真実を暴き出しました。数億人の乗客を深い眠りへと誘っていた理由、それは快適さなどではなく、静かなる「酸欠」だったのかもしれません。

 この騒動の発端は、中国のSNSで拡散された数本の検証動画でした。探求心の強い数人の乗客が、専門の測定機器を手に列車に乗り込み、「乗車するとなぜか頭がボーッとして眠くなる」という謎を解明しようとしたのです。機器の画面に表示された数字は、見る者すべてを震撼させました。北京から杭州へ向かう満員の列車内において、発車時に880ppmだった二酸化炭素濃度はみるみる上昇し、最終的に5584ppmを突破しました。さらに一部の旧式な在来線に至っては、その数値は驚くべきことに6407ppmに達していたのです。

 この数字がいかに深刻か、いくつかの基準と照らし合わせてみましょう。自然界の空気は約400ppm、日本の建築物環境衛生管理基準における室内の推奨上限は1000ppmです。中国の鉄道当局が自ら設定した基準でさえ、上限は2500ppmとなっています。しかし、5000ppm以上という数値は、労働安全衛生基準における「8時間労働の許容限界」に迫る危険水域です。

 つまり、彼らが誇る「中国速度」の実態は、数百人の乗客を二酸化炭素濃度が深刻に超過した「移動する密室」に閉じ込めて運んでいるに等しいのです。「まるで毒ガスで気絶させられているようだ」という乗客の悲鳴に対し、中国の鉄道顧客サービスセンターが返したアドバイスは、まるでブラックジョークのようでした。彼らはなんと、息苦しさを感じる乗客に対し「酸素ボンベを持参すること」を推奨したのです。世界最先端の高速鉄道システムを持つ国で、乗客がまるでエベレスト登山のように酸素ボンベを背負って乗車しなければならないという不条理に、中国のネット上では強烈な皮肉と嘲笑が巻き起こりました。

 一体なぜ、このような現象が起きているのでしょうか。表向きの理由は、技術的な選択の結果とされています。列車がトンネルを高速で通過する際の急激な気圧変動で乗客の鼓膜が損傷するのを防ぐため、中国の高速鉄道は航空機のような完全気密構造を採用しています。長いトンネル群に入ると、換気システムは一時的に外気との交換を遮断するのです。

 これは聴覚保護のための合理的な妥協のように聞こえますが、より根深い原因はコスト管理にあるとの見方が有力です。外気を取り入れ、適切な温度に調整するには膨大な電力を消費します。省エネと排出削減のノルマが課される中、外気の取り込み量を減らし、内気循環の比率を高めることが、運営側にとって「公然の秘密」たる節電術となっているのです。ある業界関係者は「死人が出ない限り、外気を絞れば絞るほど運営コストは下がる」とさえ言い放つほどです。この気密性への過度な依存は、2020年にあわや大惨事となりかけた事例を生んでいます。K1373列車が故障で停電した際、換気システムが停止した密閉車内は瞬く間に気温40度を超える「鉄の棺桶」と化し、乗客は窓を割って脱出せざるを得なくなりました。

 目に見えない二酸化炭素濃度が技術的な限界によるものだと言い訳できるとしても、目に見える衛生問題は、運営・保守のずさんさを赤裸々に露呈しています。新幹線の塵一つない清潔さに慣れた日本の視聴者の皆様にとって、次のデータはカルチャーショックを与えるかもしれません。

 2024年5月、高速鉄道の座席が黄ばんで汚れているという中国のネットユーザーの指摘に対し、中国の公式機関は驚くべき回答を発表しました。「高速鉄道のシートカバーの洗濯周期は180日である」と。半年です。つまり、一つの座席が半年間に数千人の乗客を迎え、無数の汗、皮脂、菓子の食べかす、あるいは靴の跡を吸収しても、一度も本格的に洗浄されないことを意味します。これらの汚れを溜め込んだ座席は細菌の温床となるだけでなく、そこから舞い上がる微細な埃が空調フィルターを詰まらせ、空気の悪化に拍車をかけている可能性が高いのです。中国が誇る最新鋭車両「復興号」の車内でさえ、トイレからの異臭と使い古されたシートカバーが混じり合った独特の臭気が漂うことがあり、光り輝く流線型の外観とは皮肉なコントラストを描いています。

 対照的に、日本の新幹線がこの問題にどう対処しているかを見てみましょう。同じように高速でトンネルを通過する圧力にさらされながらも、N700系をはじめとする新幹線車両は、精密なセンサー連動により車内の二酸化炭素濃度を常に1000ppm以下に制御しており、満員時でも700ppmを超えることは稀です。天井から空気を送り床下から排気する循環設計により、日本の鉄道技術は「速度」と「呼吸」が両立可能であることを証明しています。そして清掃面においても、終着駅でのあの有名な「7分間の奇跡」と呼ばれる徹底した清掃作業と、中国の「180日に1回のシートカバー交換」という基準は、まるで別次元の並行世界を見せられているようです。

 この「昏睡列車」をめぐる議論は、実のところ、中国の高速鉄道発展モデルの縮図といえます。過去20年、中国は驚異的な実行力で世界最大の高速鉄道網を敷設し、最も速い列車を作り上げました。この「ハードパワー」の拡大速度は世界を驚嘆させました。しかし、カメラのレンズをズームさせ、空気の質、座席の清潔さ、緊急時のマニュアルといった、個人の体験に関わる「ソフトな細部」に焦点を当てると、この巨大なシステムはどこか力不足で、時に傲慢にさえ見えます。「酸素ボンベ持参」という回答は、巨大なインフラの物語の前では、個人の感覚など不必要な「甘え」と見なされがちであることを映し出しています。

 時速350キロで疾走する列車の中で、乗客たちは今も眠り続けています。彼らが眠っているのは疲れているからかもしれませんし、酸素が足りないからかもしれません。あるいは、諦めているからかもしれません。中国の高速鉄道は速度の競争には勝利しました。しかし、「品位」や「人間本位」という点での尊敬を勝ち取るには、まだ長いトンネルを抜けなければならないようです。列車が大地を轟音と共に駆け抜けた後、そこに残されるべきなのは「世界一」というデータだけではありません。車内の一人ひとりの人間が、澄んだ空気の中で自由に呼吸できる権利であるべきなのです。

(翻訳・吉原木子)