中国共産党中央軍事委員会副主席の張又侠と、軍事委員会委員の劉振立が調査対象となった後、中国当局の動向が注目を集めています。
こうした極度に不透明な政治空気の中で、北京の夜間の映像だとされる動画がネット上で急速に拡散しました。動画には夜空に連続して響く密集した鋭い破裂音が収められており、銃声や激しい撃ち合いのようにも聞こえるとして、ネットユーザーの間に憶測が広がりました。
投稿者は、これは北京の中南海周辺の夜間に聞こえた異様な音だと主張し、「中南海のエリアでは夜間の爆竹使用は絶対に禁止されている。考えられるのは銃撃戦だけだ。つまり、政治闘争だ。張と習の争いだ」と述べました。この動画は短時間で再生回数が76万回に達し、大きな議論を呼びました。
コメント欄の反応には、極端で複雑な社会感情が露呈しています。あるネットユーザーは「身内で内輪もめか?」と揶揄する声がある一方、「やれやれ、徹底的にやればいい」「独裁を倒せ」「この専制独裁の政権を叩き潰せ」といった過激な言葉を並べています。こうした書き込みは、事実に基づく判断というより、権力闘争を強い興味で見物する心理、さらには衝突がさらに激しくなることを期待する空気さえ混じっていることを示しています。
一方、この動画は2025年12月の古い動画ではないかと指摘するアカウントもあれば、投稿者を攻撃し、その信憑性を否定しようとする声もありました。
中国当局にとって本当の脅威は、この動画が事実かどうかそのものではなく、拡散の過程で刺激された社会心理なのかもしれません。100年以上前、清王朝が崩れた背景にも、街の噂話や「みんなで見物する空気」、そして「何かが変わるかもしれない」という期待がありました。一見ばらばらな雑談でも、人心が揺れる状況下で集まれば、支配者の予想を超える政治的な圧力になることがあります。この観点から見ると、張又侠の失脚後に見せた当局の沈黙と、民間で一気に高まった過敏な反応は、はっきり対照的です。
1月28日の中国国務院台湾事務弁公室(国台弁)の定例記者会見では、台湾メディアが今回の重大な軍幹部人事の揺れが両岸関係に影響するのかを直球で質問しました。張晗報道官は明らかに躊躇し、資料に目を落として約10秒ほど確認したものの、質問には正面から答えませんでした。その代わりに「腐敗の取り締まりに禁区はない」と述べ、「決意があり、力もある」と答え、「平和的統一を追求するが、武力行使の放棄を約束することは決してない」と改めて強調しました。
この明らかに質問を避けた回答は、張又侠の失脚について中国当局が初めて間接的に触れざるを得なかった一方で、準備不足と政治的な回避が透けて見えたとして、世論の話題になりました。
その後、国台弁の公式サイトに掲載された会見記録では、張又侠と劉振立の名前が完全に消され、「大陸側の軍上層部の人事変動」とだけ簡単に触れられていました。過去に軍内の「大物」が失脚した際、中国当局が大々的に位置付けを行い、集中的に宣伝してきたやり方と比べると、今回は中央から部門レベルまで一斉に低姿勢で、むしろ異例です。外部では、国防部が24日に短い通報を出し、『解放軍報』が語気の強い社説を載せた以外、主要官製メディアが追いかけて報じ続ける動きが乏しく、事件の背景を体系的に説明する姿勢も見えない点が広く指摘されています。この「触れて終わり」の扱いは、単なる汚職問題にとどまらず、軍の権力構造や最高権力の安全に直結する、より敏感な領域に踏み込んでいる可能性があるという見方につながっています。
複数の学者や元官僚が、中国当局内部の権力闘争と見なされるこの揺れをめぐり、それぞれの見立てを語っています。
オーストラリア在住の法学者、袁紅冰は、張又侠の失脚は習近平政権13年間で直面した最も深刻な政治危機の一つだと指摘しました。袁紅冰は、習近平が北朝鮮の金正恩を模倣し、個人の絶対的な独裁と終身政権を目指すため、江沢民の「上海閥」や胡錦濤の「団派」を体系的に排除し、軍の中では「習家軍」を作り上げてきたと分析しました。
しかし、「習家軍」も一枚岩ではなく、内部で徐々に割れ、次第に苗華・何衛東を中心とする「東南派」と、張又侠を中心とする「西北派」に分裂していった、という見立てです。
袁紅冰はまた、「東南派」が先に「西北派」に手を出したことで、元国防部長の李尚福が失脚する流れになったと明かしています。その後、張又侠が反撃に転じ、2025年には何衛東ら東南派の上将、中将が数十人規模で粛清され、軍上層部の構造は大きく傷ついたという見立てです。
対立が頂点に達したのは2025年10月だとされます。袁の説明では、張又侠が劉振立を軍事委員会副主席に押し上げたうえで、中将や少将を合わせて70人以上という人事案を一括で提出し、軍の人事権を全面的に握ろうとしました。これが習近平には、自分の権威への正面からの挑戦に映り、結果として張又侠を拘束する決断につながった、というのです。
元海軍将校の姚誠は、この一連の事件が、台湾への軍事行動を指揮するシステムをほぼ破壊したと指摘します。中央軍事委員会の組織は実質的に空洞化し、主要な将軍が次々に拘束されたり調査対象になったりしたため、海軍の参謀部や政治部などの部門は現場の運用上、「誰に電報を打てばいいのか分からない」状況に陥っているというのです。つまり「中央軍事委員会に人がいない」という感覚です。
この状態では、最高指導者の命令が現場にきちんと下りず、軍令が通りにくくなります。まして対外作戦など、語ること自体が難しいというのが、姚誠の見方です。
ベテラン記者の矢板明夫は、張又侠の失脚は短期的にはむしろ台湾海峡の平和にプラスだという見方を示しています。矢板の分析は、大きく3点です。
まず、今後1〜2年の間、中国軍は外に向けて戦争を仕掛けるより、内部粛清に主力を注ぐことを余儀なくされます。次に、実戦経験豊富な将軍が大量に粛清されたことで、中国軍は「使える人材がいない、使える人材は怖くて使えない」という状況に直面し得るといいます。三つ目は、近年の反腐敗で調査や処分の対象になったのは、習近平が自ら引き上げた将軍が多いとされ、これが習近平の威信に深刻な打撃を与えた点です。習近平の公信力が揺らげば、「台湾統一」という政治的スローガンがどこまで本気で支持されるのかどうかは疑問視されます。
ただし矢板は、この状況で油断してはならないとも指摘します。今回のような急進的な粛清は、一世代の将軍を極端な形で一気に入れ替えるのに等しく、次に穴を埋める側は、より若く、新しい技術に強く依存するタイプになる可能性があります。強い中央集権の体制では、そうした新しい層がさらに予測しにくい存在になり得ます。長い目で見れば、権力の極端な集中と制度の不安定さが同時に進む状況は、それ自体が新たなリスクの土壌になり得ると、矢板は警告しています。
(翻訳・藍彧)
