中国で、若者の「国外脱出」が加速しています。就職難だけではありません。監視や特権への失望が背中を押し、「崩れる前に出る」と動き始めた3人の実話を追います。

 海外移住のために、ハクさん(男性)は3年かけて準備してきました。彼が自分で組み立てたルートは、決して立派なものではありません。「オーストラリアで介護職に転身する。それが塞がれたら、フランス外人部隊に志願する。今のうちに出ないと、これから先はもっと難しくなる」と、夜11時に仕事を終えた後の取材で、彼は疲れを隠せない口調で言いました。

 ハクさんは中国の国有大手で採用担当をしています。ここ数年、採用規模が縮小し続ける現場を見てきたことで、彼は今後の雇用環境にますます悲観的になりました。社内では、月給約約7~11万円(3~5千元)ほどの募集枠でも、2022年には履歴書400通の中から15人を採っていましたが、2023年には履歴書1000通で8人しか選場ない状況に変わったといいます。

 彼はシンガポール紙「聯合早報」にこう語りました。「いまの若者には3つの選択肢しかない。あきらめて何もしないか、激しい競争に突っ込むか、海外へ出るかだ。競争のレーンはもう崩れた。海外へ出る道も、崩れかけている。だから自分は動きを早めるしかない。崩れる前に、何とか逃げ切れることを祈っている」

 中国の若者の失業率がおよそ17%前後で推移するなか、ハクさんのような2000年代生まれの若者たちが、就職も人生設計も海外へ向け始めています。彼らはこれまでのエリート移民ではなく、高学歴層や資産家層に続いて、国外へ出ようとする新たな層です。

 海外留学中のヨンさん(18歳の男性)は、別の角度からこの変化を見ています。昨年4月から、一般の人が海外で働いたり移住したりするための現実的なルートを、国別に整理してSNSに投稿し始めました。数か月でアカウントは約3万人のフォロワーを集めたといいます。

 ヨンさんはまた、複数の交流コミュニティも作りました。9月に立ち上げてから、参加者は累計で約4000人に達しています。注目を集めすぎないよう、グループ名はすべて「語学学習交流グループ」に統一しました。参加者は彼に1対1で相談することもでき、相談に来るのは北京大学の学部生だけではありません。30代でリストラされ、海外で配管工や溶接の仕事をしようと考えるIT(情報技術)系の人もいるといいます。

 ヨンさんは「目標は、失業率に不安を抱える中国の若い世代が、外へ出られるようにすることだ」と言います。

海外で働くハードルは、いま確実に上がっています

 28歳のカンさん(男性)は、すでに国外へ出ました。昨年、彼は履歴書を200~300通ほど送ったものの、国内では結局、納得できる仕事が見つかりませんでした。考えを変えた結果、1か月ほどでインドネシアに派遣される財務職に就くことができたといいます。

 インドネシアで1年働いた後、カンさんは昨年10月、今も紛争が続くコンゴへ派遣されました。アフリカに着いて間もなく、マラリアに感染しました。この道を選んだ理由について、彼は無力感をにじませながらこう語ります。「アフリカに行ったのは、貯金のスピードがインドネシアの2~3倍で、次の目標であるドイツ移住のための資金を早く貯められるからだ」

 しかし、海外就職を目指す人が急増するにつれ、派遣枠の競争も一気に激しくなり、給料の水準も目に見えて下がっています。カンさんは「10年前はアフリカ派遣で、年収約2000万円超(100万元超)なんて珍しくなかった。でも今は月給約22万円(1万元)を少し超える程度でも、募集に困らない」と言います。

 人事の仕事をしているハクさんは、海外の選択肢が狭まっている変化を、よりはっきり実感しています。彼はオーストラリア各州の不足職種リストを、すらすら言えるほどです。長年リストの常連だった「移住の三大定番」ともいわれる看護師、ソーシャルワーカー、幼児教育も、いまは状況が変わり、昨年は幼児教育が供給過剰にさえなったといいます。

 道がどんどん細くなり、ハクさんも一時は迷いました。それでも最後は、出る決断をしました。「逃げ出した先が本当に良いかどうかは分からない。でも、今の状況を受け入れられるのか。私の答えは、受け入れられない」

 実は、景気の先行き不安は「海外へ出たい流れ」を押す表面的な理由にすぎません。複数の当事者は、話を深くするほど、経済以外の体験や不安こそが「もう出るしかない」と感じる決定的な圧力だと口にしました。

 ハクさんは本当の理由を次のように語っています。「雇用の先行きへの悲観は理由の1つにすぎず、本当に追い詰められたのは、国有企業の内部の職場環境だ。休日には思想報告会や党員会議に出席させられるだけでなく、会社は毎週、特殊なプログラムを使ってデータケーブルで社員の私用スマホを接続し、SNSの動きまでスキャンしていた」

 ある検査で、ハクさんが暗号資産を使ってウクライナへ寄付していたことが見つかりました。その後、彼は反省文を書くよう求められ、もともとの月給約6万円(2600元)から約18000円(800元あまり)を罰として差し引かれました。彼は最初、これで終わったと思っていました。ところが同僚に指摘されて、記録が経歴の「汚点」として残ったことに気づきます。ハクさんは、これは中国当局から信用されなくなることを意味し、将来の昇進の道もほぼ完全に閉ざされたのだと受け止めています。

若者が社会に失望

 台湾在住の時事評論家、徐全氏は「聯合早報」の取材に対し、中国社会はもともと「住み慣れた土地を離れない」ことを重んじてきたと指摘しました。そのうえで、若者が次々と「国を離れる」ことを人生設計として体系的に考え始めているのだとしたら、本当に反省すべきなのは、社会そのものに何が起きているのかだと述べています。

 徐氏は、いま海外での仕事を目指す中国の若者たちは、肉体労働もいとわず、南米やアフリカのような、これまで移住先として一般的ではなかった地域にさえ向かおうとしていると話します。「それ自体が、彼らが今の社会状況に極度の失望を抱いていることを示している」

 徐氏はまた、若者が上へ上がっていく希望を持てないという問題は今に始まった話ではないものの、ここ1年は特に目立つと指摘します。その大きな理由の1つとして、既得権益層が権力や特権を見せびらかす場面が相次ぎ、国民に強い刺激を与えたことを挙げました。

 昨年5月、18歳の少女が「超高額のイヤリング」を身につけていた事件から、昨年12月には浙江大学で26歳の若者が博士課程の指導教員になった件まで、徐氏はこうした出来事は、特権層が社会資源を強く独占する「閉じた仕組み」を作り上げたことを映していると見ています。中低所得層はそこに入り込むのがほぼ不可能で、最終的に回ってくるのは「資源の端っこや、残りカス」だけだというのです。

 シンガポール経営大学リー・コンチェン・ビジネススクールの傅方剑准教授は、中国の若者が海外へ出ることは必ずしも悪いことではないと述べました。国内が激しい競争に巻き込まれている状況なら、環境を変えるのは理にかなった選択になり得るというのです。

 傅氏はまた、中国の貿易ネットワークはすでに190以上の国と地域に広がっており、若者が海外へ出ることで「ひと勝負すれば、自分の明日をもっと良いものにできるかもしれない」と語りました。

 海外へ出たからといって、必ず生活が良くなるのかについては、徐氏は「決断した若者たちは、何も考えずに飛び出すわけではない。厳しさをある程度見積もったうえで、それでも離れる道を選んでいるのだから、その意志がどれほど強いかが分かる」と語っています。

(翻訳・藍彧)