「お母さん、スマホの通信容量がなくなったから、1000円(50元)送って!」
 「お父さん、この配信者がフォロワーを増やしてくれるって言ってる。2万円(1000元)のギフトを贈りたいから、先に払って!」
 こうした声が、中国の家庭で毎日のように聞こえるようになっています。公式統計によれば、中国のインターネット利用者はほぼ10億人。小学生から70〜80代の高齢者まで、誰もがスマホを手放せない状態です。若者の中には親の老後の蓄えや医療費まで引き出してスマホに費やす人もいます。

スマホは「時間とお金を吸い取る怪物」に

 スマホは便利です。以前は服を買うのにデパートまで行かなければならなかったのに、今は数回タップすれば注文完了。遠方の親戚と連絡するには長距離電話しか手段がなかったのに、今はビデオ通話で顔を見ながら話せます。調べ物をするには図書館に行くしかなかったのに、今はスマホで検索すれば結果がすぐに出てきます。
 しかし、便利さの裏で生活は少しずつ変質しています。自分がスマホにどれだけ時間を取られているか意識していますか?統計によると、平均のネット利用時間は週間26時間、1日約4時間です。
 かつて家族が食卓を囲めば会話と笑い声がありましたが、いまは料理を並べて「ご飯だよ」と三度呼んでも、子どもはスマホから目を離しません。週末は友人と登山や映画に行ったものですが、今は「オンラインで話したからいいや」と、スタンプを数個送って終わりです。寝る前に本を読む習慣も、いまやベッドで動画を見続け、気づけば夜中の1時、2時になっても寝付けないという人が増えました。
 そして何より深刻なのは、スマホは時間だけでなくお金も吸い取るという点です。昨年のニュースでは、河南省で日雇い労働をしている女性が1日約2000円(100元)の収入しかないのに、配信者から「お姉さんは私を一番わかってくれる」と言われ続け、毎日チップを送り続けた結果、3か月足らずで約100万円(5万元)の老後資金を使い果たし、家賃も払えず娘の前で泣いたと報じられました。
 また、ある中学生は母親のスマホをこっそり使い、ゲーム配信者に約40万円(2万元)以上をギフトとして贈りました。それは母親が子どもの学費のために用意していたお金でした。プラットフォームに返金を求めて交渉したものの、半月かかっても返金されたのは半分だけでした。

なぜ人はスマホをやめられないのか

 多くの人は「ずっとスマホを見るのは良くない」と分かっていながら、やめられません。それは意志が弱いからではありません。スマホが人間の二つの弱点を押さえているからです。

 一つ目は、生活が退屈で、手っ取り早い刺激が欲しいからです。
 仕事や学校でストレスがたまり、家に帰ると頭を使いたくない。そんなとき、ショート動画はまさに「理想の逃げ場」です。数十秒で笑ったり驚いたり、軽い刺激がすぐ手に入ります。
 バスを待つ時間が退屈だから動画を2本。食事中にスマホを見ないと味気なくても、動画を流しながら食べると知らぬ間に全部食べ終わった、という経験は多くの人にあるでしょう。
 しかし、この楽しさは一時的なものです。スマホを一晩見続けて、置いた瞬間「また時間を無駄にした」という虚しさが押し寄せてきます。

 二つ目は、孤独が怖くて「存在感」を求めてしまうからです。
 子どもが遠方にいる高齢者は、普段話す相手がいません。配信者に「お兄さん」と声をかけられるだけで「自分を気にしてくれる人がいる」と感じます。友人が少ない若者も、配信者にギフトを送り、「ありがとう、太っ腹!」と言われ、視聴者に「すごい!」とコメントされると、自分が認められた気がします。
 しかしその「存在感」は幻想です。配信者は課金させるために話しかけるだけ。お金を使わなくなれば態度が変わるかもしれません。視聴者の称賛も、お金が動いた瞬間だけのもの。結局、お金を使っても孤独のままです。

「スマホ依存」の本質は「道具を心の拠り所にしたこと」

 本来スマホは道具です。それなのに現実逃避の手段として依存してしまうことが問題です。
 いい仕事が見つからず、現実がつらいからゲームや動画に逃げ込む若者。子どもと話す時間が減り、誰にも理解されないと感じてスマホに寄りかかる高齢者。子育てに余裕がなく、子どもにスマホを渡して静かにさせてしまう親。
 しかし、逃げれば逃げるほど現実は悪化します。若者はスマホをいじるほど就職意欲を失い、高齢者はますます家族と距離が開き、子どもは視力が落ち、成績も下がり、スマホ依存を抱え込むことになります。
 スマホの世界がどんなに華やかでも、それは他人の人生です。儲かるのは配信者とプラットフォームです。犠牲になるのは、自分の時間とお金と人生です。気づけば、現実の生活がどんどん悪くなっていきます。

スマホに「支配」されないための5つの習慣

 スマホの使いすぎをやめるには、日常の小さなところから変えていくことが大切です。

一、スマホの「使用制限時間」を決めること

 毎日、スマホを見ない時間を作りましょう。食事の時間は家族全員がスマホを触らないルールにすれば、食卓での会話が戻ります。寝る前はスマホを寝室の外に置くと、ぐっすり眠れるようになります。

二、スキマ時間をスマホに奪われないようにすること

 バスを待つときに単語を暗記したり、通勤中に今日やるべきことを考えたり、道の景色を眺めるだけでも気分転換になります。「ボーッとスマホを見る」が習慣になると、認知力が落ちやすくなると言われています。

三、課金や投げ銭をする前に必ず一呼吸置くこと

 お金を使う前に「これ払ったら家計大丈夫? 」「親に知られたら怒られるかな?」と自問しましょう。高齢者の老後資金は大切なものです。配信者に「お兄さん」「お姉さん」と呼ばれたからといって、簡単に財布を開かないことです。子どもがお金を使うときは必ず親の許可を取るルールを。

四、現実の世界で楽しみを見つけること

 週末には友達と山に登ったり、公園を散歩したり。夕食後に家族と一緒に歩くのも良い習慣です。子どもが学校から帰ったら、一緒に遊んだり本を読んだりする時間を作りましょう。家族で過ごした時間は、一生の財産になります。

五、大人がまず手本になること

 子どもにスマホのルールを守らせたいなら、大人も同じルールを守る必要があります。「宿題が終わったら30分だけスマホね。私も30分だけにするよ」などと約束すれば、子どもも納得して従いやすくなります。

 スマホは本来、私たちの生活を助けるための道具です。使い方が誤れば、時間やお金、人間関係さえ奪われてしまいます。
 スマホに支配されるのをやめましょう。賢く使いこなせば、現実の生活はもっと豊かになります。

(翻訳・藍彧)