近年、中国人のあいだで続いてきた日本への移住ブームが、大きな転機を迎えています。日本政府が経営管理ビザの条件を大幅に引き上げたことで、これまで一般的だった「低コスト移住」のルートが実質的に使えなくなりました。なぜ今、日本は方針を変えたのでしょうか。そして、この政策転換は中国人の移住だけでなく、日本の社会や地域にどのような影響をもたらすのでしょうか。今回は、その背景と真相を分かりやすくお伝えします。

ビザ取得条件が大幅に上昇

 日本の出入国在留管理庁の新しい規定によると、「経営・管理ビザ」の申請に必要な資本金要件は、従来の500万円(約25万元)から3000万円(約140万元)に引き上げられました。資金要件に加え、申請者は日本国籍または永住権を持つ正社員を少なくとも1名雇用すること、申請者本人または常勤職員のいずれかが日本語能力試験N2以上の語学力を有すること、申請者本人が経営または管理に関する3年以上の実務経験、もしくは関連分野の修士以上の学位(または専門職学位)を持つこと、事業計画が実現可能で、事業の安定性や継続性が見込めることが求められています。

 外国人向けに法律相談を行う日本のある機関によれば、2024年末時点で「経営・管理ビザ」を持つ外国人は約41,615人で、そのうち中国人は52.2%にあたる約21740人を占めています。つまり、このビザ取得者の半数以上が中国人であり、すでに非常に大きな在日コミュニティを形成していることになります。

 日本側が制度を引き締めた理由の一つは、申請者の一部が「名目上の会社」を設立し、実質的な移民条件を回避していたとの懸念が高まったためです。形式的には会社を経営しているものの、実際には事業活動が行われていないケースが確認されました。中には、わずか約1.5坪(畳約3枚分)のオフィスを登記住所として借り、従業員も事業活動もないまま、このビザで配偶者や子どもと共に日本へ移り住み、現地の教育や医療資源を利用する人もいました。日本のメディアは、こうした「形式的な経営で、実態は移民」という状況が近年増えており、政府が規制強化に踏み切る要因になったと報じています。

中国人申請者を動かす三つの理由

 ここ数年、中国人が日本の「経営・管理ビザ」を申請する主な理由は、教育、自由な生活、資産配置の三つに集中しています。

 まず第一に教育です。多くの中国の中間層家庭にとって、日本は教育環境が比較的穏やかで制度も透明な「避難先」と見られています。中国のように競争が激しく、子どもに大きな負担がかかる教育システムと比べると、日本の学校は規律や学業面で厳格ながらも、個性の伸ばし方や社会適応能力の育成をより重視しています。日本に住めば、子どもは日本語だけでなく英語も学ぶことができ、国際的な教育カリキュラムに触れる機会が増え、将来の進学や留学への道筋を築くことができます。

 英紙フィナンシャル・タイムズは、中国の中間層には「教育への強い執着」が広く見られ、子どもの教育の質を求めて国境を越える動機につながっていると分析しています。

 第二に、自由な生活への期待です。多くの申請家庭にとって、教育は表向きの理由にすぎず、その背後には社会制度や暮らし方に対する価値観があります。中国社会の強い統制や不確実性と比べると、日本の民主制度、法治環境、言論の自由は中間層の家庭にとって大きな魅力です。取材に応じたある家庭は、子どもを単一的な政治環境から離し、多様な文化に触れさせたいと語っており、将来の政治的・社会的リスクに備えた「安全出口」を家族に残す目的もあるとしています。

 第三に、資産配置とリスク回避です。近年、中国政府は高所得層や民間資本への監督を強めており、一部の中間層や富裕層は圧力を感じています。財産を守るために、資産の一部を海外へ移す家庭が増えています。欧米では数百万ドル規模の投資を求められる移民制度が多いのに対し、日本は500万円(約25万元)で会社設立とビザ申請が可能だったため、制度が分かりやすく、ハードルが低いと見られていました。さらに、日本は治安がよく生活の利便性も高く、医療水準も高いため「資産の避難先」として理想的だと考える家庭が多かったのです。

 これら三つの要因が重なり、過去数年にわたり中国人の申請者が増える流れを生み出しました。

中国人家庭の増加で変わる日本の教育現場

 家族で移住にともない、日本の学校に通う中国籍の子どもが急増しています。日本の統計によると、2024年末時点で中国籍の長期在留者は87万3286人に達し、日本で最大の外国人コミュニティとなっています。また、同年5月時点では、日本の小学校と中学校に16万3358人の外国籍児童生徒が在籍しています。

 中国籍の児童生徒の割合は公表されていませんが、地域によっては中国人生徒の比率が非常に高いケースがあります。フィナンシャル・タイムズによれば、東京都内のあるインターナショナルスクールでは、中国人の比率が一時60%に達したこともあり、日本の大都市では「華人教育圏」と呼ばれる独自の教育環境が徐々に形成されています。

 しかし、こうした急増に対し、日本の教育現場では語学支援や教員体制が追いついていません。多くの日本の小中学校では、外国籍児童を支援する専門教員が不足しており、来日したばかりの中国人生徒が言葉の壁によって授業や学校生活で孤立するケースもあります。このため、一部の家庭は子どもが早く環境に慣れるよう、中国人コミュニティに住み、中国語補習塾に通わせ、中国人の友人を中心に交流させるケースもありますが、その結果、日本社会との接点が減り、適応が遅れるという指摘もあります。

 同紙は、東京の一部の華人居住エリアでは「子どもが学校外ではほとんど日本語を話さない」現象がみられると報じています。こうした状況は語学習得の妨げとなるだけでなく、友人関係が中国人同士に偏り「閉じたコミュニティ」を形成し、日本社会への適応に長期的な影響を及ぼす可能性があります。

ビザ政策引き締めの影響

 今回の日本政府によるビザ取得条件の厳格化は、日本行きを計画していた中国家庭に大きな影響を与えています。また、すでに「経営・管理ビザ」を持つ人々にとっても、今後のビザ更新、子どもの進学、永住権への切り替えなどの手続きがこれまでより難しくなるとみられます。

 業界関係者は、一部の中小企業経営者が他のビザタイプへの変更を迫られる可能性や、別の国への二次移住を検討し始める家庭もあると指摘します。

 新しい制度のもとで日本政府が求めるのは、「名目だけの投資家」ではなく、日本社会に溶け込み、一定の経営能力を持つ外国人起業家です。一方で、これまで「低いハードルで日本に移住できる」と考えていた中国人家庭にとっては、一つの時代が終わったと言えます。

(翻訳・藍彧)