華やかな照明が消え、モールに響くのはボールの音。中国の街から実店舗が消えていきます。商業施設が運動場や倉庫に変わり、かつての繁華街は静まり返っています。消費不振と企業撤退の波が、中国の都市生活を根底から変えています。

モールが運動場や倉庫に 実体経済は形を変えた衰退へ

 ここ数年、中国各地で奇妙な現象が広がっています。かつて商品を売っていた商業施設が、次々と運動場へと姿を変えているのです。

 近年では、ワンダープラザ(万達広場)のような大手ショッピングモールでさえ、経営が苦境に立たされています。福建省アモイ市の湖里(フーリー)ワンダープラザは2011年9月に開業し、地下2階から地上5階までの商業部分の延べ床面積は約11.9万m2(約3.7万坪)に達します。しかし近年は来客数と売上がともに大きく変動し、かつて買い物客でにぎわっていた入口前も、今では人影がまばらです。現在は、配達員たちの休憩場所として使われることが多くなっています。

 ここ数年、中国各地のワンダープラザでも、商業施設をスポーツ施設に改装する動きが見られます。

 山東省泰安市のワンダープラザでは、新たにオープンしたバドミントン場が話題となりました。利用者からは「施設が広くて設備が新しい」との声も上がっています。

 河南省商丘市でも、約2000 m2(約600坪)を占める大型ビリヤードクラブが新たに開業しました。

 福建省福州市の倉山万象里(ツァンシャン・ワンシャンリー)では、もともと大型商業街区として設計されていたエリアの一部が「バスケットボール館」や「子どもの体力育成センター」に改装されています。ある店舗経営者は「以前は1階が飲食街でしたが、今では一帯が運動施設になり、残っていた数軒の軽食店も経営が続けられなくなった」と嘆いています。

 湖南省長沙市の河西地区にある「金源時代広場」も、かつては商業施設としてにぎわっていましたが、現在は一部のフロアが倉庫やネットショップのライブ配信スタジオに転用されています。かつてのアパレル店舗は棚や宅配箱で埋め尽くされ、近隣住民は「昼間は運動場、夜は出荷センター。もう商業施設とは言えない、複合ビルになった」と笑っています。

 また、長沙市の「華潤万家・世紀金源店」も2025年2月28日の営業終了をもって、オンライン・オフライン事業の両方を閉鎖しました。ここでも、またひとつ大手スーパーが姿を消したのです。

山東省青島市では、ある大型ショッピングモールの最上階にあった映画館と遊戯エリアが、2024年に室内バスケットボール場へと改装されました。撮影者はSNSに「フロア全体の仕切りが取り払われ、ボールの音が響いているが、買い物をする人はほとんどいない」と投稿しています。

 福建省泉州市の薬局で働く王さんは、地元でも同じような現象が起きていると話します。「今は消費する人がほとんどいない。うちの薬局も一日に数人しか来ないことがある。商業施設が運動場に変わるのは、生き残るための苦肉の策だ。空けておくよりはまし。政府は『寝そべり』を口では批判しているが、庶民には選択肢がない。怠けたいのではなく、どうしようもないのだ。仕事は見つからず、社会保障も乏しい。だから消費を減らすしかないんだ」と語ります。

 ビジネス専門メディア『壹覧商業』の統計によると、2024年には中国全土で少なくとも1万2000店以上の店舗が閉鎖され、約1000のブランドが影響を受けました。その内訳は、大型スーパー782店、百貨店やショッピングモール41店、飲食業6000店以上、アパレル業3000店超に上ります。業界関係者は「廃業手続きをしていない個人経営店も含めれば、実際の閉店数は報告の2倍に達する可能性がある」と指摘しています。

 武漢大学の市場研究員・楊氏は「一線都市でも二線都市でも購買力が低下し、実店舗が閉店に追い込まれている。政府も問題を理解しているが、もはや打つ手がない」と話します。

 公式統計では、2024年の社会消費品小売総額は前年比3.5%増とされています。しかし北京の研究者・錢さんはこう警告します。「このプラス成長は数字上の見せかけにすぎない。街の商業地は衰退し、ネット通販が市場を独占し、住民の消費意欲は冷え込んでいる。表面上の経済成長の裏で、実店舗の消滅が加速している」

外資撤退で中小商店が息の根を止められる

 上海市のショッピングモールで責任者を務める邵(シャオ)さんはこう話します。「以前は週末になると来店客が1万人を超えたが、今では1階フロアすら埋まらない。海外ブランドが次々と撤退し、新しいテナントも入ろうとしない」

 外資系ブランドも事業を縮小しています。ZARAの親会社インディテックスは、中国での店舗数を2019年の570店から2024年初めには192店まで減らしました。無印良品(MUJI)も複数の拠点を閉鎖しています。業界関係者は「外資が先に撤退し、国産ブランドも持ちこたえられなくなっている。フランチャイズ網そのものが縮小している」と語ります。

 消費の低迷に加え、金融の引き締めも実店舗経営を圧迫しています。広州市で飲食店を営む曾(ゾン)さんは、運転資金として約630万円(30万元)の融資を申請したところ、不動産担保を求められたと話します。「家なんてないよ。すべて賃貸だ」と苦笑します。

 中国銀行保険監督管理委員会のデータによると、2024年の小規模企業向け優遇融資の平均金利は4.4%まで下がったものの、資金調達の難しさは依然として解消されていません。中国飯店協会の統計では、2024年に全国で約300万軒の飲食店が市場から撤退しており、その規模はコロナ禍の年を大きく上回っています。

繁栄するネット通販と沈む街区

 ネット通販の普及率が26.8%に達し、小売業の構造は一変しました。北京大学の社会学者は「ECプラットフォームの繁栄は一極集中型で、アクセスと資金のほとんどが上位10%の販売者に集中している。他の9割の商店は淘汰されるしかない」と指摘します。

 同学者はまた、「オンライン販売の拡大は雇用を生まない。都市の底辺を支えてきたサービス業が崩壊しつつある」と強調します。

 青島市でネットショップを営む魯(ルー)さんも「プラットフォームの手数料が5%から15%に上がり、売上は増えても利益は薄くなった」と明かします。

 杭州市の学者・呉昊(ウー・ハオ)は「実店舗の衰退は生活コストの上昇とも関係がある。物価高、失業、住宅ローンの重圧が重なり、消費者は支出を極力抑えている。買い物はできるだけネットで済ませ、外出してお金を使うこと自体がリスクになっている」と分析します。

 中国人民銀行の報告によれば、2024年の中国の家計貯蓄率は過去10年で最高水準に達しました。江蘇省で文具店を営む店主は「生き残れるだけでも幸運だ。3店舗を1店舗に統合し、学生向け用品と宅配サービスを主力事業に切り替えた」と語ります。

 各地で夜市や屋台も「一律取り締まり」の対象となり、ネット上では「夜市を開いても数日で営業停止になる」と嘆く声が相次ぎました。

 専門家たちは、大規模な店舗閉鎖や商業施設の運動場・倉庫化の動きは、中国都市部の商業構造そのものが再編されつつあることを示していると指摘します。かつて繁栄の象徴だったショッピングモールは、いまやバドミントンのラケット音と宅配車のエンジン音が響く場所へと変わり、街の商店を基盤とした時代が静かに幕を下ろしています。

(翻訳・藍彧)