中国では、かつて連休の書き入れ時だったホテル業界が、予想外の逆風に直面しています。
今年の中秋節の連休中、観光地には多くの人が訪れましたが、宿泊費を節約するためにテントを張ったり、車中泊を選んだりする旅行者が相次ぎました。
宿泊料金を大幅に値下げしても客足は戻らず、表面上はにぎわって見える観光ブームの裏で、中国の消費不振と経済の冷え込みが一段と鮮明になっています。
観光業の現実 華やかさの裏に広がる静けさ
中国文化観光省の統計によると、今年10月の8日間にわたる大型連休の期間中、全国の旅行者数は延べ8.8億人に達し、前年同期比で1.6%増加しました。しかし、1人あたりの1日平均消費額はわずか約2300円(114元)で、前年より13%減少し、近年で最低水準となりました。
観光地には多くの人が訪れたものの、旅行者の多くは「節約旅行」でした。テントを持参し、車中泊をし、食事はインスタントラーメンで済ませるといった形です。雲南省や大理市、麗江市、張家界など人気観光地のホテルや飲食店の経営者たちは口をそろえて嘆きます。「人が多いからといって、儲かるわけではない」
あるネットユーザーはティックトックにこうコメントしています。「信じられるか。将来ホテル業界を打ち倒すのは、同業者ではなくテント販売業者かもしれない。今年の中秋節の連休では、道路沿いに数百メートルおきにさまざまなテントが張られ、車の屋根テントや球形テント、ピラミッド型テントが並び、まるで移動する村のようだった。中には駐車場に直接テントを張る人もいた。ホテルのスタンダードルームの価格は、これまでの約5.6万円(2800元)から約1.6万円(800元)まで下げても、空室が目立っていた」
別のネットユーザーは実際に試算しています。彼は約4万円(2000元)で購入した自動式テントを3回の大型連休で使用し、1泊あたりのコストはわずか約600円(30元)ほどだといいます。「ホテルで寝転んでスマホを眺めるだけより、テントの中で天の川が昇るのを見られる方がずっといい」と語っています。
こうした例は珍しくありません。アウトドア用品プラットフォームのデータによると、今年の連休期間中のキャンプ用品販売量は前年比で283%急増し、購入者のうち7割が「ホテル宿泊の代替として購入した」と回答しています。
雲南省麗江市の民宿業者は「例年なら1泊約3万円(1500元)の部屋を、今年は約1.4万円(700元)に値下げしても泊まる人がいない」と語りました。
青海省のチャカ塩湖観光地でも奇妙な光景が見られました。「トイレには長蛇の列ができたのに、1人あたりの消費額はミネラルウォーター1本分にも満たない」というのです。
若い旅行者ほど低コスト旅行を好む傾向が強まっています。ある高校生は「鄭州節約旅行チャレンジ」と題して動画を投稿しました。列車の切符が約1800円(93元)、市バスが約20円(1元)、朝食が約160円(8元)で、合計約2000円(100元)以内で旅行を終えました。
こうした「節約旅行」が主流になっていることは、一般市民の消費力が経済の現実によって大きく圧迫されていることを示しています。
本来なら繁忙期であるはずの10月の大型連休が、今年はホテル業界にとって「厳冬」となりました。雲南省大理市や桂林市、浙江省杭州市、広東省広州市などの宿泊業者たちは口をそろえて言います。「昼間は人であふれているのに、夜になると部屋が空いている」
雲南省麗江市の民宿経営者・アービンさんは、約2000万円規模の資金を投じて内装を改装したものの、「大赤字だった」と明かします。「10月2日と3日は宿泊率が7割に達したものの、4日と5日には3割を下回った」といいます。
一部の都市ではホテルの宿泊料金が上がるどころか下がり、宿泊率が半減する事態まで発生しています。全国各地の宿泊業者によると、今年の大型連休の客室稼働率は前年より40%以上低下したといいます。
衣料品や果物が「贅沢品」に
各地の商業エリアでは、かつての祝日ムードがすっかり消えました。
「今年の大型連休はおかしい。商業施設にも衣料品市場にも人がいない」とある卸売業者はショート動画の中で嘆いています。「気温が高く、秋物の在庫が積み上がり、客足はまばら。10月1日から4日まではほとんど売上がなかった」といいます。
同業者たちのチャットグループでも悲観的な声が広がっています。「仕入れる気力がまったく湧かない」
衣料品業界だけでなく、果物業界も深刻な不振に陥っています。
多くの地域で果樹農家が販売不振に苦しみ、値下げして在庫を処分せざるを得ません。
一部のECサイトではリンゴ、ナシ、ブドウなどが売れ残り、卸売価格が底を打っています。
業界関係者はこう分析します。「消費のグレードダウンで高級果物が売れなくなり、小売価格は高止まりしているのに、卸売段階では在庫が山積みになっている」。このように消費の循環が途切れ、実体経済がさらに弱体化しています。
「奮闘する果物人」と名乗るネットユーザーがティックトックに動画を投稿しました。「最近は商売が過去最低レベルに落ちている。皆さんの商売はどうだろうか?」と問いかけています。動画では、広々とした果物専門店に客はほとんどいません。
「いつから服や果物までが贅沢品になったのだろうか」と多くの人が自問しています。
不動産が家計を圧迫 消費低迷の主因が浮き彫りに
専門家は、消費が冷え込んでいる最大の原因は「不動産が国民の財布を空にした」ことだと指摘しています。
北京不動産サイト「北京房産網」と「安居客」のデータによると、2025年10月の大型連休期間中、上海の中古住宅の成約件数はわずか780件で、前年同期比63%減少し、全国30都市でも取引量が4割以上落ち込みました。
不動産市場は4年連続で低迷し、家庭資産の大幅な目減りを招いています。住宅ローンの重圧と住宅価格の下落が重なり、人々の消費余力は完全に奪われています。
雲南省昆明市に住む女性ブロガーは10月15日に投稿した動画で、「3年で人生の貯金の半分を失った!私の青春をどう取り戻せばいいの?家を買ったことが罪だったなんて!!十年以上かけて貯めたお金がすべて消えた。これが私の夢のマイホームとして、十数年の貯蓄とローンで買った家だ。でももうすぐ失うことになる。ローンの返済も滞りそうで、本当にどうすればいいかわからない」
あるネットユーザーはこう語ります。「私たちの世代は、何世代分ものお金を家に注ぎ込んだ。そのせいで、食べることも着ることも節約しなければならないのだ」
経済分析アカウント「火星宏観」はこう指摘します。
「不動産が長年にわたって家計の資産バランスシートの中心を占めてきた結果、飲食、娯楽、衣料などの消費支出が圧迫され、消費崩壊を招いている。不動産の低迷は、建材、リフォーム、家電、家具といった関連産業にも波及しており、その連鎖的な影響は今も拡大を続けている」
国民的「緊縮時代」が到来 中国経済は悪循環に突入
観光からホテル、果物から衣料品、不動産から株式市場まで、中国のあらゆる産業が不況の波に飲み込まれています。
中国政府の統計によると、国民全体の債務総額はすでに約4000兆円(200万億元)を超え、国民1人あたりの平均負債額は約280万円(14万元)に達しています。
一方で、約5.6億人が「貯金ゼロ」、若者のほぼ半数が「給料をすぐ使い切る」とされています。
多くの人が金銭的に余裕を失い、住宅ローンに追われ、収入も伸び悩む中で、消費の拡大など望むべくもありません。
「お金がなければ消費は生まれない。消費がなければ経済回復は幻想だ」というネットユーザーの言葉が、今の中国経済の本質を突いています。
見せかけの繁栄という仮面は、いずれ崩れ落ちます。
本当の「経済の冬」は、もしかすると今、始まったばかりなのかもしれません。
(翻訳・藍彧)
