近年、中国では各地の焼却発電施設が「ごみ不足」に悩まされ、焼却炉を止めないために、ごみを奪い合ったり、埋立地からごみを掘り返したりする状況が常態化しています。湖南省の二つの施設では、焼却炉の運営会社が、ごみを紹介した管理会社へ、1トン当たり50元の紹介料まで支払っていたとされ、中央の環境保護督察チームから是正を命じられました。
中国生態環境部が公表した『2024年中国生態環境状況公報』によりますと、同年の都市ごみ収集量は約2億6,236万トン、1日当たり平均、約71.9万トンでした。一方、全国のごみ処理能力は1日当たり約115.6万トンに達し、処理枠のおよそ4割が余剰となっています。この4割の余剰を埋めるため、各地では埋立地の古いごみを掘り返して燃料にする「古ごみ掘削プロジェクト」が急増し、2023年には山東省済南市商河県、威海市文登区、菏沢市鄄城県、聊城市茌平区、臨沂市費県などで次々に着手されました。
山東省全体では、2023年時点で100カ所のごみ焼却施設が稼働しています。日量8万5,900トン年間約3,135万トンの処理能力を誇りますが、2021年の実際の焼却量は、年間1,605万トンにとどまりました。同省だけで年間1,500万トン以上の能力が遊休化している計算です。河南省鶴壁市では、稼働率がわずか50%と判明し、市内全域からごみをかき集めただけでなく、隣接する安陽市からも9万トンを輸送し、さらに9.1万トンの埋立ごみを掘り返して燃料に当てていました。浙江省金華市でも、2021年から3~4年かけて26万トンの古ごみを集めて焼却処理をする計画が進行中です。
民間調査機関E20研究院によりますと、中国の焼却施設の平均稼働率はおよそ60%にすぎません。陝西省咸陽市では、日量1,500トンの焼却炉に対し、市中心部で発生するごみは日量800トン前後しかなく、渭南市蒲城県の施設は、年間処理能力18万2,500トンに対し、実績は13万3,000トンでした。漢中市の焼却発電所では「3カ月稼働し1カ月休止してごみを集める」サイクルを繰り返しています。澎湃新聞の統計によれば、2024年に全国で稼働した2,138基の焼却炉のうち、年間稼働率が90%以上だった炉は59.2%にとどまり、逆に半分以上停止していた炉が全体の5%に達しました。
焼却炉が「空腹・ごみ不足で停止」と「満腹・ごみが集中してフル稼働」を繰り返す背景には、三つの要因があります。第一に、政策による過剰支援です。2003年に、ごみ処理事業が民間に開放され、BOT(Build-Operate-Transfer)方式が導入されると、2006年には、再生可能エネルギーによる焼却発電の為の、電力買い取り価格の優遇策が導入されました。これによりごみ処理事業が「高収益ビジネス」と認識されました。地方政府はKPI(業績評価指標)を満たすため、こぞって焼却プロジェクトを推進しました。実際、2017~2021年の5年間には、毎年平均103カ所の新規焼却発電所が稼働し、2019年だけで河南省20件、河北省37件が着工しています。ごみの無害化処理率がすでに100%に達した2023年にも、新たに55件の焼却計画が動き出しました。
第二に、経済の減速による消費縮小です。2013年以前は、ごみ収集量が年間10%以上増えていました。2019~2023年は2億4,200万トンから2億5,400万トンへの増加にとどまり、年平均伸び率は約1%でした。ごみ発生量は消費・物流活動の実勢を映すため、公式GDPよりも実態を反映しているとみなされています。
第三に、業界全体が「内巻(ネイジュアン):過度な競争で全員が疲弊する状態」に陥っていることです。補助金を目当てに企業が乱立し、需要を超える設備が建設された結果、稼働率は低迷し、投資回収が進まず、維持コストだけが膨らんでいます。
世界の焼却施設は約2,100カ所あります。そのうち1,010カ所が中国に集中し、全体の半数近くを占めています。また、装置産業として巨額投資が行われています。しかし、稼働率の低迷が続けば、補助金縮小とともに採算が崩れます。これは、補助金主導で勃興した中国の電気自動車業界が、過剰生産・輸出停滞・内需縮小の三重苦に直面している姿と酷似しており、破綻や再編が相次ぐおそれがあると指摘されています。過剰投資のツケは最終的に公共料金や地方財政に跳ね返ります。焼却炉が「空腹」と「満腹」を繰り返す歪な運転サイクルは、浪費された資源と環境負荷の象徴でもあります。今後は補助金頼みの拡張路線を見直し、地域の実情に合わせた適正容量への軌道修正が急務です。ごみ処理政策の行方は、中国経済の縮図として注目されてます。
(翻訳・吉原木子)