近年、中国の自動車市場は経済の減速と激化する競争によって苦境に陥っており、各メーカーはこぞって価格競争を繰り広げています。そうした中、一部市場では「ゼロキロ中古車」という異常な現象が広がり、業界の秩序を大きく揺るがしています。中国の自動車大手・長城汽車(ちょうじょうきしゃ)の魏建軍(ウェイ・ジエンジュン)董事長は最近、この業界の「暗黙のルール」を公然と暴露し、数千の業者と複数の中古車取引プラットフォームが販売台数のデータを改ざんしている疑いがあると指摘しました。この発言は業界内に大きな波紋を呼んでいます。
魏氏はメディアのインタビューで、次のように語りました。「現在『ゼロキロ中古車』という奇妙な現象がある。つまりナンバープレートを取得しただけで、販売済みと見なされるが、実際はすぐに中古車市場に戻されているのだ」
この現象は、実質的に政府の補助金がついた新車を値引き販売する行為と変わらず、業界から強い批判を受けています。
中国当局が整頓に乗り出す 「ゼロキロ車」の扱いが焦点に
最近、商務部が自動車メーカーや関連団体を集めて座談会を開いたとの通知のスクリーンショットがネット上に流出し、その真偽が注目されました。内容は「ゼロキロ中古車」や中古車流通の促進に関する議題で、業界団体、自動車メーカー、取引プラットフォームが出席したとされています。『毎日経済新聞』の記者は、この通知が事実であることを出席者から確認しました。
現在、中国国内で流通している「ゼロキロ中古車」は大きく三つのパターンに分けられます。
- 自動車メーカーの法人向け販売部門が一括販売する「資源車」。
- 4S店(正規ディーラー)が月次・四半期・年間の販売目標を達成するためにナンバープレートを事前に取得した「販売数確保車」、通称「登録・納税込み車」。
- 直販ルートをとるブランドにおいて、キャンセルされた「予約取り消し車」。
これらの「ゼロキロ中古車」は、正常な市場活動とは言いがたい存在です。メーカーにとっては、在庫車や不人気車をこの方法で処理することで、資金を素早く回収し、販売台数を水増しできます。また、4S店にとっては、メーカー側から強制的に買い取らされた不人気モデルを低コストで処分できるうえ、販売数目標をクリアしてメーカーからの報奨金を獲得できるというメリットがあります。
業界関係者は次のように語ります。「一部の業者はこの『ゼロキロ中古車』を利用して、国の新車買い替え補助金や廃車補助金を不正に受け取っており、その金額は1.5万元(約30万円)から2万元(約40万円)にのぼるとされている。これらの車は新車でありながら、登録済みという理由で中古車として扱われ、メーカーによる正規の品質保証が受けられない」
さらに問題なのは、こうした車の多くがすでに登録されているため、所有者や登記主体がすでに借金を抱えている可能性もあります。一般消費者がこのリスクを見抜くことは極めて困難です。
消費者の権益が脅かされる
こうした実態は、ソーシャルメディアで大きな反響を呼んでいます。ある自動車系インフルエンサーは「ゼロキロ中古車は本質的にメーカーや販売店が在庫を処理するための手段であり、『資源車』や『納税込み車』と名前こそ違えど、実態は同じである」と指摘しました。
一方、自らこの種の車両を専門に扱うと公言する販売業者もおり、彼らはこうした車を擁護します。彼らの主張によれば、これらの車は新品同様でありながら価格は新車の5〜6割程度と安く、限られた予算で車を購入したい若年層にとっては選択肢が広がるといいます。また、余剰生産能力の解消にも役立つと主張します。
「劉老板(りゅう・ろうばん)」という人気ブロガーは次のように述べました。「同じ生産ラインで作られた車である。ただ、企業名義で大量に購入され、一括で登録されただけである。品質には問題がなく、コストも抑えられている」
政策の副作用が顕在化 経済構造の歪みも浮き彫りに
時事評論家の方原(ほう・げん)氏は、「ゼロキロ中古車」の蔓延は、市場消費の低迷と業界内の過当競争の深刻さを示すと同時に、中国の産業政策の長年の構造的な問題も浮かび上がらせていると指摘します。「中国政府は特定産業に対して多額の補助金を投じてきたが、それが腐敗と資源のミスマッチを引き起こしやすい土壌となっている。このような現象は、実質的に新車を「中古車」に偽装して補助金を得ようとする行為であり、架空の販売台数をでっち上げて国家財政に打撃を与えている」と語ります。
方氏はまた、「利益がある限り、人は違法な道を選ぶ。たとえ商務部が介入して整頓を図っても、短期的にこの問題が根絶されることはない。補助金が存在する限り、その抜け道を狙う者も出てくるだろう」と警告しています。
中華経済研究院の研究員・王国臣(おう・こくしん)氏も、「ゼロキロ中古車」の背景には、中国が製造業に対して過剰な補助金を投入してきたことがあると分析しています。
「生産しても売れない企業は本来なら倒産すべきだ。しかし、実際には倒産していない。なぜなら、銀行が巨額の融資でそれらを支えているからだ」とし、「つまり問題は銀行に跳ね返ってくる。銀行は貸し出した資金を回収できず、不良債権が増える。そして政府は、成果の出ない企業を支えるためにさらに補助金を投じる。これが政府の債務拡大にもつながっていく」と指摘しています。
文化大学の教授・陳松興(ちん・しょうこう)氏は次のように分析しました。「中国経済は現在、デフレと流動性の罠に陥っている。経済が悪化すれば消費はより慎重になり、内需の回復も難しくなる。さらに今回の米国による対中関税措置は、中国に対する全面的な圧力であり、自動車産業への直接的な影響は小さくても、過剰生産の問題を抱える業界にとっては、さらなる打撃となる」
陳氏はまた、「不動産危機、過剰生産、関税戦争といった複合的な要因を前にして、中国経済が2025年第3四半期で持ち直すことは難しいだろう」とも述べました。
「ゼロキロ中古車」が映し出す中国経済のグレーゾーン
「ゼロキロ中古車」の流通は、中国の自動車産業が抱える販売成績の水増し、補助金制度の悪用、金融リスクの隠蔽といった「グレーゾーン」を象徴する現象です。たとえば、一部の地方都市では、走行距離が100キロ未満の登録済み車両が中古車市場で目立ち始めており、その割合は取引台数の1割を超えると業界関係者は指摘しています。こうした動きは、表向きの台数や業績には貢献しても、消費者の信頼や市場の健全性を損なう危険をはらんでいます。消費を喚起し、在庫を解消しながら、同時にリスクを抑えるには、制度設計や流通の透明化が不可欠であり、それが今後の中国自動車市場の再生を左右する鍵となります。
(翻訳・藍彧)