近年、中国を代表する国際都市の1つである上海が、かつてない経済不況に直面しています。民間や政府が発表した各種データ、さらに現場で働く人々の証言からは、この都市が今や深刻な停滞状態に陥り、かろうじて踏みとどまっている様子がうかがえます。

企業は存続の危機 消費者は節約を強いられる日々

 「断言できる。今の上海では、7割の人が給料を満足に受け取れていない」とある現地の労働者が、現在の厳しい実情についてこう語ります。市内のビジネスエリアを歩けば、かつては高額な賃料でも借り手が殺到し、「一室を得るのも難しい」とまで言われたオフィスビルが、今ではテナントの入れ替わりが激しく、一部では長期空室が常態化しています。

 業界関係者によると、ここ1年間で多くの中小企業が相次いで人員削減や賃金カットに踏み切り、最終的に閉業に追い込まれたケースも少なくありません。資金繰りに苦しむ経営者たちは、ネットローンや小口融資に頼って事業を続ける日々が続いており、債務の重圧はかつてないほど深刻化しています。

 上海中心部の黄浦区にある生活広場を夜7時ごろに訪れると、かつての賑わいはまるで幻のようでした。理美容店、アパレル、日用品を扱う小売店舗などはいずれも客足がまばらで、一部の店はシャッターを下ろし、営業を停止していました。

 ある衣料品店の経営者は、「今は本当に、踏ん張って続けているだけだ」と語ります。かつては市内に20店舗を構えていたものの、今は南京路の歩行者天国にある1店舗だけがかろうじて営業を続けていると言います。「どれだけ接客を頑張っても、お客様は試着して写真を撮るだけで、最終的にはネットで安い店を探して買ってしまうのだ」

 不完全な統計によると、現在、上海の実店舗の閉店率は70%に達しているとされ、営業を続けている店舗も利益をほとんど出せていないのが実情です。街には格安の理髪店が急増し、「15元カット(約300円)」はもはや珍しくありません。この現象は、住民の消費意欲が大きく落ち込んでいることを如実に物語っています。

 政府は消費促進のために様々な政策を打ち出していますが、その効果は限定的です。3月の統計によれば、上海の消費財小売総売上高は前年同月比で14.1%も減少し、過去最低水準を記録しました。富裕層が多く集まるはずの陸家嘴(りくかし)や新天地といったエリアですら、人通りはまばらで、空き店舗が目立つようになっています。

 「いちばんお金を持っている層ですら、今では生活を切り詰めている」とある観察者はSNSでそう指摘し、多くの消費者が数百元の靴一足を買うにも価格比較を重ね、慎重にネット注文を行っていると明かしています。

借金に苦しむ中間層 住宅も負担に

 かつて都市の中間層として安定した生活を送っていた人々も、いまや経済の荒波に飲み込まれています。SNSなどでよく見かける「高級外車を乗り回し、高級マンションに住む人々」も、実際には財政的な崖っぷちに立たされているのが現実です。

 銀行に長年勤務するある職員は「彼らは毎月の住宅ローンの利息だけで何万元も支払っており、表向きの生活を維持するために『右から借りて左に返す』の繰り返し」と語ります。住宅を手放して何とか生活を維持しようとする家庭も少なくありませんが、不動産市場が冷え込む中、損を覚悟で売却しても買い手がつかず、身動きが取れない状況です。

 「今の中間層の最大の願いは『プレッシャーのない生活』だ」。この言葉は、現在の彼らの心情を象徴しています。もはや収入の増加を追い求めるのではなく、少しでも気楽に生きられる日々を求めているのです。

 2025年3月時点で、上海における中古住宅の売り出し件数は22万件を超え、過去最多を記録しています。ある不動産仲介業者は「いまや家を持っていること自体が笑い話になっている」と打ち明けます。市内中心部にある古い団地では、100万元(約2000万円)値引きしても売れ残りが目立ち、郊外の新築物件も、駐車場付きの割引キャンペーンを展開しても販売が伸びていません。

就業の冬 人も仕事も消えた都市

 オフィスビルが空室だらけになるのと同時に、就職市場も急速に縮小しています。リストラと賃下げが同時に進行し、ブルーカラーもホワイトカラーも安泰ではありません。ある財務関連企業は「顧客数が激減し、会社の登記と廃業が入り乱れている」と話し、さらには「同じ通りにあった複数の『営業許可代行』業者も一斉に店を閉じた」と語ります。

 こうした中で、出前代行、運転代行、宅配といった柔軟な働き方が都市のインフラを支えていますが、従事者の収入は低く、不安定です。ある運転代行ドライバーは「月収は4000元(約8万円)だが、家賃と生活費を差し引いたら、貯金はゼロだ」と嘆き、「別の業界に移りたくても、行き先がない」と語ります。

 建材市場、ブランドショップ、青果市場といった旧来型の商業施設も「空っぽ」が日常風景となっています。かつては行列の絶えなかった飲食店も、今や客が一日中一人も来ないことも珍しくありません。

 一時は中国でも屈指の交通ハブとされた上海虹橋 (ホンチャオ) 駅も、今では人の流れが大きく減少しています。「金曜日の朝なのに、駅構内にほとんど人がいない」これは最近、多くの市民が共通して感じていることです。市内の交通量も明らかに減っており、通勤時間帯の渋滞ですら、かつてのような混雑ぶりは見られません。

 不動産仲介業者によると、今年の旧正月明け以降、地方出身の賃貸住民が上海に戻ってこないケースが目立つようになったといいます。「いくら家賃を下げても、借り手がつかない物件が増えている」。SNS上では、「常住人口が2400万人を超えると言われる上海なのに、あの人たちは一体どこに行ったのか?」という市民の疑問が飛び交っています。

 専門家は、上海を離れる人が増えている背景には、賃金の低下、失業率の上昇、起業の失敗、生活コストの高騰など複合的な要因があると指摘しています。働く場所と住む場所を求めて、多くの出稼ぎ労働者が上海を後にし、別の地で新たな活路を探しているのです。

上海はどこへ向かうのか?

 中国国家統計局が発表したデータによると、2025年3月の上海における消費財小売総売上高は、前年同月比で14.1%の大幅減少し、北京でも約10%の下落を記録しています。この2都市はいずれも中国国内における消費の柱とされてきた都市です。こうした「減速」が顕在化していることは、中国全体で消費者心理が著しく冷え込んでいることを示しています。

 地方政府は消費クーポンの発行、住宅購入への補助金、ショッピングイベントの開催など、様々な消費喚起策が打ち出されています。しかし、こうした政策に対する市場の反応は鈍く、期待された成果は上がっていません。

 ある経済学者はこう指摘します。「今の人々は、消費をしたくないのではなく、消費する余裕がない。特に中間層にとっては、住宅ローン、子どもの教育費、そして医療費という『三重苦』がのしかかり、家計は常に綱渡りの状態にある」

 かつて、上海は『成功』の象徴でした。ビジネスを志す者にとってはチャンスに満ちた舞台であり、労働者にとっては夢を叶える場所でした。しかし今、実体経済の停滞、雇用市場の後退、不動産の行き詰まりといった複数の課題が、この都市の未来を不透明にしています。

(翻訳・藍彧)