2025年3月28日、ミャンマーでマグニチュード7.7の大地震が発生し、隣国タイにも強い揺れが及びました。この地震により、バンコク市内にある33階建ての国家監査庁ビルが突如として倒壊しました。このビルは中国国有企業・中国鉄道第十局集団有限公司が施工を担当していたものであり、今回の地震で唯一倒壊した高層建築物となりました。
この事故によって、少なくとも18人が死亡し、32人が負傷、さらに78人の行方が分かっていません。タイ国内では、この出来事をきっかけに中国資本による建設プロジェクトの安全性に対する不信感が一気に高まり、社会的な不安が広がっています。
バンコク市当局の初期調査によると、このビルには不合格な建材が使用されていたほか、構造設計上の欠陥や施工監督の不備があったとされています。市政府は今後、中国企業が関与するすべての建設プロジェクトについて品質検査を実施すると発表しました。
この事故は、「一帯一路」構想のもとで進められてきた中国主導のインフラ事業全体に対して、国際社会が改めて安全性の検証を求める動きの引き金にもなっています。
中国の「手抜き工事」はなぜ繰り返されるのか
中国における「手抜き工事」の問題は、決して一朝一夕(いっちょういっせき)に生まれたものではありません。その深刻さが集中的に露呈したのが、2008年の四川大地震でした。当時、地震によって多数の学校校舎が倒壊し、数万人の児童・生徒が命を落としました。後の調査によって、こうした校舎には建材の節約、鉄筋の不足、コンクリートの質の低下など、多くの手抜きがあったことが明らかになりました。
しかし、中国共産党(以下、中共)はこうした悲劇に対し責任を追及するどころか、逆に真相を明らかにしようとした市民を弾圧しました。校舎の構造的問題を調査していた人権活動家らが逮捕されたり、精神科病院に強制的に収容されたりする事例が後を絶ちませんでした。
こうした手抜き工事が蔓延する背景には、中共の官僚主義的な構造が横たわっています。建設プロジェクトが立ち上がる段階から、資金は複数の下請け業者に転々とし、そのたびに中間搾取が発生します。最終的に実際の施工業者に届く資金はごくわずかであり、現場では十分な予算が確保できないまま建設が行われているのが実情です。
建設業界に従事していたある証言者は、「1億元規模のプロジェクトでも、施工業者に届くのは1千万元か2千万元程度。残りはすべて中間で山分けされる」と語ります。このような制度的な汚職によって品質管理は完全に形骸化(けいがいか)しており、建築物に求められる最も基本的な耐震基準すら守られない状況です。
さらに深刻なのは、こうした腐敗の構造を中共当局が十分に把握していながら、それを黙認している点にあります。汚職の利権構造が中央から地方に至るまで体制に深く根を下ろしており、それが官僚たちにとって私腹を肥やす手段となっているのです。
「一帯一路」で海外に広がる「手抜き工事」
中共が推進する「一帯一路」構想の進展とともに、国内で横行していた「手抜き工事」が国外にも広がり始めています。ここ数年、中国企業が海外で手がけた大型インフラプロジェクトでは、相次いで重大な事故が発生しています。
2024年には、セルビアのノヴィ・サドで中国企業が建設した鉄道駅の屋根が崩落し、14人が死亡しました。2019年にはカンボジア・シアヌークビルで中国資本によるビルが倒壊し、28人の命が奪われました。こうした事例は、パキスタン、ウガンダ、ミャンマーなど「一帯一路」沿線の国々でも頻発しており、中国式の建設リスクが国際的な問題となりつつあります。
今回タイで倒壊した国家監査庁ビルは、中国鉄道第十局とタイの大手建設会社ITDの共同事業として2020年に着工され、2024年に建物の躯体が完成していました。しかし使用開始前に地震で崩壊したことで、その安全性に深刻な疑念が投げかけられています。
事故発生直後、中国鉄道第十局はこのプロジェクトに関する広報記事を公式サイトから削除しました。さらに、同社のタイ現地事務所が閉鎖されたとみられ、数名の中国人職員が工事関連の書類を運び出そうとする姿が地元メディアによって撮影されました。これにより、事故原因の隠蔽を試みているのではないかとの疑念が高まっています。
海外建設に詳しい業界関係者によると、中国企業の「国際市場での競争力」は主に「低価格」にあります。しかし、その裏ではコストを極限まで削減し、結果として品質が犠牲にされる構造が存在します。
時事評論家の横河氏は、「中共は『一帯一路』を通じて国内の過剰生産能力を輸出すると同時に、腐敗文化や手抜き工事体質もセットで輸出している」と指摘します。受け入れ国は、質の低い建設物を押し付けられるだけでなく、返済困難な巨額の債務まで背負わされるというのです。
横河氏はまた、「これらの建設プロジェクトでは品質が最優先されることはほとんどなく、むしろ中共当局が狙っているのは、インフラ整備を通じた地政学的な影響力と経済的支配権の獲得にある」と強調しています。
国際市民法廷、「手抜き工事は人道に対する罪」と指摘
タイでのビル倒壊事故を受けて、「中国法廷(チャイナ・トリビューン)」と呼ばれる国際的な民間調査機関が、SNSプラットフォームX(旧Twitter)上で議論を展開し、中国共産党が長年にわたり国外に劣悪な建設プロジェクトを輸出し続けた結果、多くの死傷者や公共の安全を脅かす事故を引き起こしてきたと指摘し、もはや単なる技術的な失敗ではなく、「人道に対する罪」に該当する可能性があると警鐘を鳴らしています。
国際刑事裁判所(ICC)の設立根拠であるローマ規程第7条では、「人道に対する罪」とは、民間人に対する広範かつ組織的な攻撃を意味すると定義されています。アナリストたちは、中共当局が長年にわたって建設業界の腐敗と安全基準の欠如を把握していながら、是正措置を講じなかったどころか、それを海外にまで拡大させた事実は、明確な「故意性」を伴うものであると分析しています。また、各地で発生した事故の被害者はほとんどが民間人であり、この点も人道に対する罪の構成要件に合致する可能性があるとしています。
この「中国法廷」の発起人である「世界市民法廷(Citizens’ Court of the World)」は、今後、手抜き工事問題を含む中共の責任に関する事件の審理を進めると発表しました。審理の対象には、国家主席である習近平氏の直接的あるいは間接的な関与についても含まれ、法的な検証と証人尋問を通じて、その責任の所在を明らかにしていく方針です。
世界市民法廷の正当性は、その独立性と手続きの公正さに基づいています。法廷では公開審理を原則とし、証人証言や文書証拠を用いた検証が行われ、透明で公平な審理プロセスが担保されています。たとえこの法廷の判決に法的な強制力がなかったとしても、それは被害者にとって正義を求めるための重要な法的根拠となり得ると評価されています。
国際社会に高まる責任追及の声 中共の手抜き工事、世界的な問題に
中共による粗悪な建設プロジェクトの海外輸出をめぐって、人権活動家たちはその責任を問うべく、国際刑事裁判所(ICC)や特別法廷での審理を求める動きを強めています。これにより、法的な責任の明確化と被害者への賠償を実現しようという取り組みが本格化しつつあります。
活動家たちは、その法的根拠として、「国際連合腐敗防止条約」「拷問等禁止条約」、そして「市民的及び政治的権利に関する国際規約」など、複数の国際法文書を挙げています。中でも、広範な死傷者の発生や体制的な情報隠蔽が、国際法上の訴追要件を満たす可能性があるとしています。
タイ政府もこの問題に対し厳格な対応を示し始めています。現地メディアの報道によると、タイのセター首相はすでに、中国鉄道第十局が手がけた国内の全プロジェクトについて、使用されている建材の品質を徹底的に調査するよう指示しました。また、タイ商務省も同企業の現地での事業運営に違法性がないか調査を開始しており、中国企業に対する受け入れ国側の警戒感がかつてないほど高まっています。
こうした流れは、国際的な連携を強化する絶好の機会でもあります。人権団体は、ドキュメンタリーの制作、公聴会やSNSを通じた拡散など、さまざまな手段を用いて、この問題の実態を世界に伝え、国際社会が「手抜き工事」の深刻な人権侵害と向き合うよう呼びかけています。
中共による手抜き工事の問題は、もはや中国国内にとどまるものではありません。これらのプロジェクトに共通して見られる体制的腐敗は、一国の内政問題だけではなく、国際的な安全保障上の重大な懸念事項となっています。繰り返される人的被害や財産損失に直面する今、国際社会は中共政権に対して明確な責任を問わなければならず、その追及は全人類の安全と尊厳を守るために不可欠なのです。
(翻訳・藍彧)