最近、中国のある病院がアジア初とされる「心臓と肝臓の同時移植手術」に成功したと発表し、世間の注目を集めています。その手術を受けたのは、台湾出身のシンガーソングライター、呂建忠さん(芸名:タンク)です。
しかし、移植に使われた臓器のドナーについて疑念が浮上し、世論の関心が高まっています。
経緯:有名人の患者と話題の手術成功
呂建忠さんは、台湾で高い人気を誇るシンガーソングライターで、「給我你的愛(君の愛をちょうだい)」「専属天使(あなただけの天使)」など、多くのヒット曲を世に送り出してきました。彼は先天性の心疾患を抱えており、体調の悪化により一時は音楽活動を休止し、5年間にわたり表舞台から退いていました。ところが昨年、病状が悪化し、中国で心臓と肝臓の同時移植手術を受けることとなりました。
2024年11月21日、呂建忠さんは中国浙江省杭州市にある浙江大学医学院附属第二医院で、「心臓と肝臓の同時移植手術」を受け、手術はおよそ12時間にわたり実施され、最終的に成功を収めました。この件は2025年4月7日、中国国内の複数のメディアによって報じられています。
中国の官製メディア「人民網」はこの手術を「アジア初の症例」として大々的に取り上げ、国家的な医学の進展として強調しました。
報道によると、この手術は複数の専門チームの連携により実現されたものです。肝臓移植は王偉林教授のチームが、心臓移植は董愛強教授のチームが担当し、麻酔は厳敏教授のチーム、術後の重症管理は黄曼教授のチームがそれぞれ受け持ち、医療現場での高度な協力体制のもとで行われたと伝えられています。
中国のメディアはこの手術を報じる際、その難易度の高さを強調し、「この手術は世界でもごくわずかな医療機関でしか実施できない極めて高度なものであり、臓器移植分野におけるエベレストだ」と称賛しています。
一方で、もっとも関心を集めている移植臓器のドナーについては、中国メディアは極めて簡略にしか触れていません。「昨年11月21日、重度の脳損傷により脳死と判定された一人の献身的な善意の提供者が、無私の心で臓器を提供した」とされています。
しかし、そのドナーがどのような経緯で「重度の脳損傷」に至ったのかについては、一切明らかにされていません。この点が、世間の関心と疑念を呼んでいます。
臓器の出所に疑問噴出 ネットで相次ぐ指摘
手術の報道が広まる中、多くのネットユーザーがSNS上で次々と声を上げています。
「移植された心臓と肝臓は一体誰のものなのか?」
「肝臓はどこから来たのか?失踪者のものではないのか?」
「どうして二つの臓器が同時にマッチングできたのか?」
台湾の『聯合報』によると、台湾・長庚紀念病院の副院長で肝臓移植の第一人者とされる李威震医師は、「台湾で二つの臓器を同時に提供できるケースは非常にまれであり、これまでにそのような記録は存在しない」と指摘しています。
また、今回手術が行われた浙江大学の臓器移植に関しては、過去にも倫理的な問題が指摘されてきました。あるネットユーザーは、同大学に所属する臓器移植の権威・鄭樹森氏が、かつて肝臓提供元に関する情報を提供できず、メディア掲載が禁止された件を挙げています。
2017年4月28日には国際的な学術誌『Liver International(国際肝雑誌)』が声明を発表し、浙江大学第一附属病院の鄭樹森氏と厳盛氏による論文投稿を永久に禁止しました。その理由として、563例に及ぶ肝臓移植について、提供源が倫理的に正当であることを示す証拠を提示できなかったことが挙げられています。
また、別のネットユーザーは2024年における新たな疑念を指摘しています。それによると、浙江大学医学院附属第二医院の副院長である陳静瑜氏が、2023年に自身の微博(ウェイボー)で「無錫市と杭州市の2都市で合計370件の肺移植手術を行った」と自ら明かしていたというのです。
この投稿に対して、多くのユーザーが強い疑問を呈しました。「たった2つの都市だけで年間370件とは、1日平均で1件以上の手術を行っている計算になる。これに加え、他の地域で行った移植も含めれば、その件数はさらに増えるはずだ」とし、「これほど大量の肺のドナーは一体どこから来ているのか」と臓器の出所に対する不透明さを改めて問題視しています。
ドナーは本当に意外な死か?
中国における臓器移植の供給源は、公式には主に「脳死状態にある患者」とされています。しかし、脳死の法的定義や、ドナーとされる人々の確認手続き、さらには摘出に関する倫理基準については、現在も大きな議論と不透明性が残されています。このような状況下では、一部の医療機関が非正規的な方法で臓器を取得し、違法性が疑われる事例が存在する可能性も否定できません。
台湾の医師である蔡依橙氏は、4月8日に自身のFacebookで次のように投稿しています。
「心臓は一人に一つしかない。それを移植するということは、誰か一人の命が失われたということ」とし、「中国では脳幹死を人工的に誘導する特殊装置に特許があるほどであり、若者が血液検査を受けた直後に学校から姿を消すといった事例もある。そうした中で、果たして『偶然の事故死』という説明を素直に受け入れてよいのか、非常に考えさせられる問題だ」
蔡氏は、肝臓は部分移植も可能であるとしながらも、部分肝移植は全肝移植よりも手術の難易度が高いと指摘しています。したがって、かつて中国で肝移植を受けた台湾の患者が、帰国後にCT検査を受けた際、実際に移植されたのは部分肝ではなく「完全な一つの肝臓」であったと述べています。
蔡氏が言及した「脳幹死を引き起こす特殊装置」とは、中国第三軍医大学第三附属医院と、かつての重慶市公安局長・王立軍氏が共同開発した「一次脳幹損傷衝撃機械」のことを指します。この装置は、丸型の金属球を頭部に直接打ちつけることで衝撃波を発生させ、その衝撃が頭蓋骨を貫通して脳に達し、瞬時に脳死状態を引き起こすとされています。
一方、海外の中国語メディアの報道によると、国際器官移植ケア協会の副理事長兼報道官である黄士維氏は、次のように述べています。
「すべての国における臓器移植は、透明かつ追跡可能なシステムに基づかなければならず、いつ、どの病院で、何件の移植が行われたかはすべて公開しなければならない。しかし、中国ではその逆であり、中国共産党は臓器の出所は透明で追跡可能だと主張しているが、実際はブラックボックスの中で運用されており、外部の人間が具体的な情報を知ることはできない」
黄氏はまた、「中国共産党が公表している年間の肝臓および腎臓移植件数はわずか1万〜2万例にすぎないとする一方で、実際には数百万人もの患者が移植を待っている現状がある。こうした状況で、呂建忠氏が、心不全と肝不全という二つの重篤な病状に同時に適合する臓器を、なぜこれほど早く手に入れることができたのか。その背景には、いくつもの疑問が存在する」と述べ、「中国共産党は、中国での臓器移植は無償提供であると主張しているが、実際には価格が明確に設定されている。肝臓は20万元(約400万円以上)、心臓は25万元(約500万円以上)」といった具合に、臓器ごとに相場が存在する。こうした現状から、中国ではすでに『臓器移植の産業チェーン』が形成されている」と指摘しています。
法輪功学習者への迫害実態を調査している国際団体「追査迫害法輪功国際組織(追査国際)」の資料によると、呂建忠氏の心臓および肝臓移植手術を行った浙江大学医学院附属第二医院は、過去に法輪功学習者の臓器を強制的に摘出していた疑いがある病院の一つとして名指しされています。
また、今回の心臓移植を担当した董愛強医師もまた、法輪功学習者からの臓器摘出に関与していた可能性がある人物として、同団体の疑惑リストに掲載されているとされています。
(翻訳・藍彧)