スペイン・マドリードに拠点を置く人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ」が2月25日、新たなハンドブック『Missing in China(中国で失踪)』を発表したとボイス・オブ・アメリカ(VOA)が報じました。
このハンドブックは、中国当局が「指定居所監視居住(指定された場所での監視付き拘束)」という制度を利用し、不透明な法体系のもとで外国人を秘密裏に拘束し、彼らの基本的権利を奪う実態を明らかにしています。また、中国当局がこれを「人質外交」の道具として利用していることにも言及し、外国人やその家族が恣意的拘留に直面した際にどのように対応すべきかを指南する内容となっています。
典型的な事例:ジャーナリスト・成蕾氏の拘束
数ある事例の中でも、オーストラリア系中国人ジャーナリスト、成蕾(チェン・レイ)氏のケースが挙げられます。彼女は2020年に「国家機密を漏らした」として中国当局に逮捕され、2023年にようやく釈放されました。
彼女のパートナーであり、オーストラリア中国商会の元最高経営責任者であるニック・コイル氏は、VOAの取材に応じ、中国の司法制度に対する見解や、外交交渉の困難さについて語りました。
見えない牢獄
コイル氏はVOAに対し、次のように語りました。
「彼女の最初の6か月間は、指定された場所の住宅で監視された状態で過ごした。それは本当に恐ろしいものだった。指定された場所での監視付き拘束は特殊な拘禁制度であり、中国当局は家族に通知せず、弁護士との面会も許可しないまま、容疑者を特定の場所に最大6か月間拘束することができる。その間、被拘束者は単独監禁され、睡眠を奪われ、長時間にわたる尋問を受ける。さらに、身体的・精神的な拷問を受けることさえある」
セーフガード・ディフェンダーズによると、中国で拘束された女性は、男性よりも多くの困難に直面する傾向があるとされています。彼女たちは女性特有の健康問題に苦しみ、衛生用品や医薬品の入手が困難であるほか、性被害のリスクにもさらされます。また、数か月から数年にわたって子どもと会えないことで、深刻な精神的苦痛を強いられることもあります。
かつて中国当局に拘束された経験を持つ元英国人記者で私立探偵のピーター・ハンフリー氏も、同様の体験を語っています。彼はVOAの取材に対し、次のように述べました。「中国の司法および監獄制度は完全に不透明で、公平性がまったく存在しない。したがって、中国において『司法正義』を語ることは無意味である」
恣意的拘留が外交の道具に
ハンドブックはまた、中国当局が「恣意的拘留」をますます外交の駆け引きとして利用していると指摘しています。特に西側諸国の市民が標的となる傾向が強まっており、近年、同様のケースが次々と発生しています。
コイル氏は、2020年8月のある日、突然成蕾氏と連絡が取れなくなり、携帯電話もつながらず、彼女のSNSアカウントも更新が途絶えていました。
「正直に言うと、最初は確信が持てなかった。彼女の行方不明になっていることに最初に気づいたのは私で、大使館の担当者に連絡を取り、彼女が行方不明になったことを伝えた。パソコンがなくなっていたことなどから、すぐに彼女が拘束されたのだと気づいた。ほかにも明らかな兆候があったからだ」とコイル氏はVOAに語りました。
成蕾氏が拘束された可能性に気づいた後、コイル氏の最初の反応は、彼女を拘束した機関を確認することでした。中国公安局による拘束であれば、まだ何らかの公式な対応手段があるかもしれないが、中国国家安全部によるものだと知ったとき、事態がさらに複雑であることを悟りました。「中国国家安全部が関与していると知ったとき、状況はまったく異なるものになった。その瞬間から、基本的に誰も何もできなくなった」とコイル氏はVOAに語りました。
コイル氏は、成蕾氏が拘束された根本的な理由は法的問題ではなく、中国とオーストラリアの関係が緊張していたことにあると考えています。
「恣意的に拘束された他の似たようなケースを見れば、状況が似ていることがわかる。中国当局が、外国人を拘束することによるデメリットが、そこから得られる利益を上回ると判断したとき、それを解決する。カナダの『2人のマイケル』のケースが典型的な例だ」
セーフガード・ディフェンダーズの研究ディレクターであるガードナー氏も、中国当局の「人質外交」戦略が何度も実証されてきたと指摘しています。
「非常に分かりやすい例が、華為(ファーウェイ)の事件だ。孟晩舟が釈放されたわずか数時間後に、カナダの『2人のマイケル』も釈放された」とガードナー氏は述べました。
多くのケースにおいて、中国当局が法的手続きを利用して裁判を意図的に引き延ばし、正式な有罪判決を回避しながら、外交的な条件が整った段階で「条件付き」で被拘束者を釈放していると指摘しています。例えば、成蕾氏の裁判は3年間も延期され、最終的には「すでに刑期を満了した」という形で釈放されました。
メディア報道を活用し、家族の釈放を促す
ハンドブックでは、家族が事件に関する報道を活用し、政府に対して世論の圧力をかけることで、より積極的に家族の釈放を求めるよう促すことができると提言しています。
コイル氏によると、成蕾氏が拘束されていた間、当時の外相とそのチームを含むオーストラリア政府高官と何度も接触を図ったといいます。オーストラリア政府が首相の訪中時に、毎日メディアから成蕾氏の案件について質問されることを望んでいなかったとコイル氏が述べました。同時に、オーストラリアの世論は、中国側の成蕾氏に対する告発には根拠がないと考えており、この事件は「完全に受け入れがたいもの」と認識されていました。
「アルバニージー政権が発足した後、中豪関係は徐々に改善し始め、中国当局もオーストラリアとの関係改善を図った。成蕾氏の案件は、外交関係を改善するための駆け引きの材料になった。そのため、オーストラリア首相が中国を訪問する直前に、中国当局は彼女を釈放する決定を下した」とコイル氏はVOAに語りました。
恣意的拘留リスクが高まる
ハンドブックは、近年、中国において外国人が恣意的に拘束されるリスクが一層深刻化していると警告しています。
2012年に中国共産党の最高指導者として習近平氏が権力を握って以来、中国は外国人に対して門戸を狭めるだけでなく、「公然と政治的動機による外国人の拘束」を強め、「外国政府への圧力や制裁の手段」として利用しているとハンドブックが指摘しています。
このような逮捕は、中国当局が近年強調している国家安全保障の枠組みに組み込まれており、特に2014年に制定された「反スパイ法」が2023年7月に改正されたこと、さらに2024年5月に改正された「国家機密保護法」と相まって、スパイ容疑で拘束される外国人の数が増加し続けています。
(翻訳・藍彧)