今年、中国政府は少なくとも20兆元もの人民元を新たに発行しましたが、その多くは地方政府や国有企業の支援に使われたため、国民の消費にほとんど影響を与えていません。その結果、消費促進効果はほぼ見られません。中国中央経済工作会議では、2025年の最優先課題として「消費振興」を掲げましたが、専門家たちは、中国政府が国民を直接支援するような政策を採る可能性は低いと指摘しており、今後の中国経済はさらに歪みが進む可能性があるとしています。
近年、中国政府は経済成長の鈍化に直面しており、成長を支えてきた投資、輸出、消費の3本柱のいずれも十分な原動力を発揮できていません。特に、投資の伸び悩み、輸出は国際的な制裁や需要の減少に直面し、消費の低迷が経済回復の最大の足かせとなっています。統計によれば、米国では国内消費がGDPに占める割合は67.90%、日本では55.58%ですが、中国はわずか39.00%にとどまっています。さらに、過去のデータと比較しても、中国の消費水準の低さが浮き彫りとなっています。1962年、中国の消費はGDPの72.16%を占めており、現在の米国と同程度の水準でしたが、それ以降は下降の一途をたどり、2010年になってようやく緩やかに回復しました。しかし、2023年の段階でも2005年の39.59%を下回っています。
また、中国国家統計局のデータによると、2023年11月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比でわずか0.2%の増加にとどまり、前年同月比の伸び率は4か月連続で低下しています。さらに、前月比では5か月連続でマイナス成長を記録しました。これらのデータは、内需の低迷と需要不足が依然として深刻であることを示しています。中国国務院発展研究センターの副所長である劉涛氏は、中国の総需要が不足しており、特に消費需要の低迷が深刻な問題だと指摘しています。
同時に、中国政府による大規模な紙幣増刷も、期待された経済活性化にはつながっていません。中国人民銀行のデータによれば、11月末時点での広義マネーサプライ(M2,M1に貯蓄預金(普通預金、定期預金の両方を含む)を加えたもの)の残高は311.96兆元で、前年同月比で7.1%増加しました。一方で、狭義マネーサプライ(M1,流通している現金通貨と預金通貨(および要求払預金)を合計したもの)は前年同月比で3.7%減少しており、企業の流動性が低下し、資金調達環境が厳しいことを示しています。流通中の現金(M0)は前年同月比で12.7%増加しており、現金需要の増加を示していますが、こうした需要が実際の消費に結びついているわけではありません。実際、2023年初頭のM2残高は274兆元で、年末には311兆元にまで増加しました。このわずか1年間での20兆元近い通貨供給の増加にもかかわらず、その多くは銀行預金に回され、消費市場にはほとんど流れていないのが現状です。
このように、大量の紙幣を刷って経済を刺激する政策は、これまで効果を上げていません。2021年から2023年にかけて、中国政府は累計54兆元以上の人民元を増刷しましたが、その資金の大半は地方政府や国有企業に流れ、国民の消費を直接的に押し上げることはありませんでした。現在、中国財政部は地方債務問題の解決を目指して債務置換計画を進めていますが、これらの措置は地方政府の負債コストを下げることを目的としており、実体経済への直接注入にはつながっていません。
経済の減速は国民の収入減少を引き起こし、消費能力をさらに低下させています。専門家たちは、国民の収入を増やすことこそが、消費低迷を解消する鍵だと指摘しています。中国共産党中央党校の周天勇(しゅう・てんゆう)教授は、中国における国民収入と消費のGDP比が国際平均を大きく下回っていると述べています。一般的に、国民収入と消費はGDPの60~70%を占めるべきですが、中国ではわずか45~37%にとどまっており、特に実際の消費支出はGDPの30%程度に過ぎません。このような消費能力の不足は、製造業の過剰生産を引き起こし、サービス業や物流業への影響をはじめ、投資の停滞、産業移転、資本流出といったさらなる悪影響をもたらしています。
周氏は、国民の収入を増やし、消費を直接的に刺激する必要があると提言しています。例えば、国債を発行して中低所得層に消費補助金を提供し、その資金を国民の口座に直接振り込むことで、消費能力を大幅に強化できるとしています。しかし、中国政府の政策は引き続き地方政府や国有企業の支援を優先しており、国民生活の向上に直接つながる施策はほとんど行われていません。
一方で、西側諸国では消費刺激策として、中国とは対照的な手法を採用しています。例えば、アメリカや他の先進国では、国民に直接現金を支給し、消費を促進することで経済回復を迅速に実現しています。これに対し、中国政府は地方政府や国有企業の救済を優先しており、これが消費能力不足の解決を困難にしている一因とされています。
経済評論家の翟山鷹(てき・さんよう)氏は、中国政府が大規模な借金に依存して経済を維持しているものの、その膨大な債務が財政危機を引き起こしていると指摘しています。彼によれば、中国政府は事実上、将来200年分の財政資源を前借りして使い果たしており、国家の負債総額は少なくとも200兆元に達していると述べています。これにより、中国政府は企業や国民に経済的負担を転嫁せざるを得ず、これがさらに消費能力を圧迫しています。
将来の展望として、中国経済はますます深刻な構造的歪みに直面する可能性があります。翟氏は、2025年の中国経済が「異常に歪んだ形態」を呈する可能性が高いと予測しており、負債の悪循環、産業の過剰競争、企業の大量倒産、地方政府の中央政府からの分離といった事態が懸念されています。こうした中で、国民の消費能力がさらに低下すれば、内需の回復が一層困難になると見られています。
(翻訳・吉原木子)