ハーバード大学とスタンフォード大学の共同研究によると、中国経済の先行きを楽観視する中国人の割合は過去10年の間で26%も減少しました。今日(こんにち)では、低所得層から中産階級、さらには社会のエリート層に至るまで、多くの中国人が減給や失業、そして家計の破綻といった深刻な問題を抱えています。中国共産党政権が有効な打開策を見いだせない中、長年蓄積されてきた民衆の不満は抗議運動として表面化しています。

中間層と低所得層に大ダメージ

 北京で翻訳を従事する鄒(すう)さん(仮名)はボイス・オブ・アメリカの取材に応じました。鄒さんによれば、人々は新型コロナウイルスのパンデミックが残した傷を忘れつつありますが、未来に対して希望を持てないため、以前のように休日を楽しむ余裕がないといいます。友人と会話していても、「一般的な生活を送ることができれば十分だ、高望みなどできない」という結論に至っていると話しました。
 上海で出版業に従事している喬(きょう)さんも同様の意見を持っています。中国国民の日常生活がままならない中、ナショナリズムの支持基盤はますます縮小しているとのことです。さらに、現在は「内憂外患」の様相さえ呈していると語りました。
 中国共産党が厳しいゼロコロナ政策を実施してから、中国経済は低迷しています。国民は経済の先行きを懸念するようになり、企業の倒産やリストラ、賃金カット、給料未払い、さらには外国資本の撤退が相次いでいます。
 このような環境において、真っ先に影響を受けるのは低所得層です。北京で働く37歳の女性会社員である楊さんは、ボイス・オブ・アメリカの取材に対し、行きつけのネイリストから聞いた話を紹介しました。楊さんによると、ネイリストは自分の友人のほとんどが仕事を失ったと話していました。
 先ほど登場した、上海に住む喬さんは、先日ネット配車サービスを利用した時の体験談をシェアしました。配車サービスの運転手は東北地方から上海に出稼ぎに来たばかりの男性でした。運転手は「東北の実家では仕事がないため上海に来た。一週間ほど車から降りていない。疲れたら車で寝て、起きたらまた運転している」と話しました。
 経済情勢が悪化するなか、良い働き口を見つけられない労働者は、配車サービスに活路を見いだしています。喬さんは「ある人はレストランの経営に失敗して借金を抱えたため、配車サービスを始めた。配車サービスで稼いで、借金を返したら、何も残らない。働き口が限られており、彼らにとって選択肢は少ない」と語ります。
 翻訳者の鄒さんは、タクシー運転手とのやり取りを紹介しました。「一週間に何日働いているか」と尋ねたところ、「もし一週間が8日間であれば、毎日働きたい」との返事が返ってきました。

 中国では、飲食業は低所得層にとって主要な就職先であり、投資先でもあります。しかし、現在では競争が激化し、多くの店舗が閉店しています。喬さんは「上海市屈指の繁華街である長楽路は今再開発が行われ、一帯のバーはすべて閉店した」と語っています。
 中国の飲食業界専門メディアによると、2023年には全国で135.9万の飲食業事業者が閉鎖されました。一方、2024年の前半期だけで、その数字はすでに前年の合計に迫る水準に達しています。
 北京市統計局のデータによれば、2024年上半期において、年間売上高が1000万元(約2億円)以上に達する飲食業事業者の総利益は1.8億元(約37.8億円)でした。この数字は前年同期比88.8%減少しており、利益率はわずか0.37%にとどまっています。
 かつては高収入の象徴であったホワイトカラー層も、今では賃金カットやリストラに直面しています。中国メディア「北京商報」の報道によると、2024年上半期だけで、上場している41行の銀行の従業員数は年初と比べて4.26万人減少しています。さらに、銀行員の一人当たりの月給も大幅に減少しました。
 EC産業も全体的に苦しい状況に陥っています。ブルームバーグがまとめたデータによると、中国当局がインターネット産業に対する締め付けを強化してから、Baiduとアリババ、そしてテンセントは合計6万3千人以上の従業員を解雇しました。
 中国IT業界の就業などについてまとめた「2023年度職場洞察レポート」によると、2023年のIT産業において月給は平均7%減少しました。そのうち、技術職は12%、デザイン職は18%減少しました。
 北京で働く鄒さんは現状への無力感と不満を口にしました。「みんな自分の国がよくなってほしいと願っている。しかし、それを支えるものが中国にあるのか」と問いかけました。そして、「中国経済の基盤は民間企業だ。しかし、経済のマクロ環境は改善されているのだろうか」と疑問を呈しました。

旅行ブームははかない幻

 多くの人々が中国経済に対して悲観的であるにもかかわらず、中国当局のデータでは、10月上旬の大型連休中の旅行者数が過去最高を記録したとされています。これに対し、外国メディアの取材に応じた人々は、この流れは「停滞後のリバウンド」であり、経済の繁栄を意味するものではないと考えています。
 9月27日に行われた記者会見で、中国交通運輸部副部長の李揚氏は、10月の大型連休中における全国の人的移動がのべ19億4000万人に達し、前年同時期と比べると、日数ベースで毎日平均0.7%増加し、2019年同期比では平均19.4%の増加になると発表しました。
 鄒さんも喬さんはいずれも、大衆の旅行ブームは繁栄を意味するものではなく、ゼロコロナ政策後の反動に過ぎないと考えています。鄒さんは、旅行ブームはコロナ禍の影響で出費が抑えられた結果発生したものであり、「収入が増えたことを意味するわけではない」と述べています。

急増する抗議デモ

 英国メディア「BBC」は10月1日付の記事で、2024年第2四半期において、中国では抗議活動が前年同期比で18%増加したと報じました。このデータは米国の非営利団体「フリーダムハウス」傘下の「China Dissent Monitor(チャイナ・ディセント・モニター)」がまとめたものです。
 2022年6月現在、「チャイナ・ディセント・モニター」はすでに6400件近くの抗議活動を確認しています。「China Dissent Monitor」の編集者の一人で、抗議活動について研究するケビン・スラーテン(Kevin Slaten)氏は、抗議活動のうち4分の3は経済に対する不満が引き金となっていると話しました。
 統計データによると、農村部の住民が土地の強制収用に抵抗する活動や、ブルーカラー労働者が低賃金に抗議する活動が増加傾向にあります。さらに、不動産危機を抱える中産階級による抗議活動も増えています。中国の370の都市では、不動産業者と建築作業者による抗議活動が全体の44%を占めています。
 中国当局は国内の情報を封鎖していますが、一般市民によって抗議活動の様子やその背景などがSNSにアップされており、国外から容易にアクセスできます。X(旧ツイッター)や微博(ウェイボー)、TikTokなどのSNSでは、各地の抗議活動に関する情報が拡散されています。特に、Xは中国当局のネット検閲を受けないため、大規模な抗議活動の様子などを確認することができます。

(翻訳・唐木 衛)