キヤノン珠海(ネットより)

 中国広東省珠海市にある日本企業キヤノンの子会社「キヤノン珠海」がこのほど、同社工場閉鎖を発表し、現地社員に破格の補償金を支払った。これを受けて、中国国内では「国内の良心的な企業よりもはるかに(待遇が)いい」という声が上がっている。

 キヤノンは社員の勤続年数に応じて「基礎賠償(2か月分の給料)」や「就業支援金(7か月分の給料)」、「特別慰労金」、「旧正月慰問金(旧正月連休手当)」などを支払うとしている。補償金の最低額は1人当たり30万元(約543万円)で、管理職は最大100万元(約1800万円)の補償を受けることができる。

 これに対し、中国企業の補償金は一般的に「年収+1か月分の給料」かそれ以下の水準にとどまっている。

 インターネット上では「良心的企業」と「感謝の文化」について議論するようになった。「外国企業の方が良心的だ」「これができる中国企業はどれだけあるのか」などの声が上がっている。 

 中国共産党政権が長年にわたって宣伝してきた日本に対する憎しみは、キヤノン珠海社がこのニュースを発表した直後に崩壊してしまったようだ。日本企業の工場が閉鎖した際に、中国人社員には手厚い補償を提供したことが、ネット上で話題となった。

 感謝の気持ち

 1月12日、世界のカメラ大手が、世界のカメラ市場の縮小とコロナの大流行により、珠海での生産を中止せざるを得ないと発表した。

 1月16日、キヤノン珠海は社員に「労働契約の合意解約優遇方案に関するお知らせ」と題した声明を発表した。声明では、1月23日から全社員を解雇し、補償を行なうと社員に伝えた。

 このお知らせはネット上で伝えられ、基礎賠償金、特殊慰労金、就業支援金、感懐・銘記賞金、旧正月慰問金の5項目からなる補償計画が明示されていた。ネットユーザーの計算によると、キヤノンが制定した補償基準は、中国の法律で定められた基準よりも高かったという。

 キヤノンの元社員はネットに投稿した動画の中で、「キヤノンの工場は閉鎖されたが、みんな感謝し、互いを銘記している。あなたは私(キャノン)のために働き、私(同)はあなたのために報酬を払う。さようなら、キヤノン、いつも感動を」と述べた。

 あるインフルエンサーは、「キヤノンは社員に1人当たり30万元の補償金を支給した。社員たちは涙を流しながら、しぶしぶ工場に別れを告げた」と述べた。

 中国にある外資企業の関係者は、「一般的に企業からは法定の補償が出ればラッキーというぐらいで、多くの企業は何とか社員への補償を抑えようとするのが実情だ」とし、「キヤノンの補償金は破格的」と驚く。

 あるコメンテーターは、「キヤノンは去ってしまった。どこにこんないい工場があるんだ、どこにこんないい経営者がいるのか。これは社員の気持ちだ。「小粉紅(注)」はよく、労働者と経営者を対立させている。これは間違っていると思う。労働者と資本者・経営者は相互依存の関係だ」と語った。

 ネットユーザーからは、

 「30年、お疲れ様。キャノンは5つの補償計画を提示提出した。特に『感銘・銘記賞金』だ。これは中国のどの会社でも聞いたことがないと思う」

 「中国共産党政権が日本を踏みにじったと年中騒いでいるが、強国と言われる我が国でキヤノンのようなことができる企業がどれだけあるか」など。

(ネットより)

 賠償を要求したファーウェイ社員は251日間拘束された

 中国の人々はキヤノン会社を称賛する一方、「Leo Thunder」というネットユーザーは、このほど、「(ファーウェイ)会社に補償を要求した社員が251日間拘束された」というファーウェイ社の元社員に起きた出来事を思い起こさせる投稿をした。

 ニューヨーク・タイムズ中国語サイトは2019年12月5日、「ファーウェイはいかにして中国国民の心を失ったか」と題する記事を掲載した。

 記事は、労働争議で拘束されたファーウェイの元社員、李洪元さんの遭遇が民衆の注目を集めていると報じた。この記事は、中国のソーシャルネットワーク上でのこの事件に対する怒りは、李洪元さんに起こったことが自分にも起こるかもしれないという多くの中産階級の専門家の恐怖を反映していると論じている。

 記事は、「ウェイボー(微博、Weibo)では、多くのユーザーがコメント欄に985、996、251、404の数字を書き込んだ。それは、中国のトップ大学を卒業して中国の985プロジェクトに参加し、週6日朝9時から夜9時まで働き、契約が更新されなかったため退職金を要求したが、251日間投獄された元ファーウェイの社員をひそかに指している」と指摘した。

 李さんの遭遇は中国で広く伝えられ、ネットユーザーの怒りを引き起こし、彼の遭遇を記した記事は404エラーメッセージが表示されるようになった。記事へのコメントが削除され、検索することができなくなった。これは中国共産党によるネット検閲の結果だ。

 李洪元さんは最終的に無罪で釈放され、10万元(約181万円)の国家賠償を受けた。

 中国メディアの李洪元さんへのインタビューによると、ファーウェイ社に12年間勤務し、2018年3月に同社と協議し、30万元(約543万円)の退職金を受け取ることができたという。しかし、同社が彼に約束した年末ボーナスを履行しなかった。2018年11月、李さんはファーウェイを提訴した。

 その1ヶ月後、李洪元さんは深センで刑事拘束され、企業機密を漏らした罪で起訴された。2019年1月には恐喝罪で逮捕された。8月には、彼の妻がファーウェイの管理職との会話録音ファイルを提示したため、無罪で釈放された。

 ファーウェイはある声明の中で、やったことは間違っていないと主張した。ファーウェイは、事実に基づいて司法機関に違法行為の疑いを告発する権利と義務があるとし、李洪元さんが自分の権益が損害されたと考えた場合、ファーウェイを訴えるなど法的手段を用いて自分の権利を守ることを支持するとした。

 ニューヨークタイムズ紙によると、ネット上の評論家はファーウェイの声明を「傲慢」と「冷血」と呼んでいるという。

 注:小粉紅(しょうふんこう、シャオフェンホン)とは、中国における1990年代以降に生まれた若い世代の民族主義者のこと。 この語は「ピンクちゃん」に等しく、「未熟な共産主義者」であるという意味で使われている。

(翻訳・藍彧)