6月16日200万香港市民がデモに参加した(写真撮影:看中国)

 最近、香港政府が「逃亡犯条例」改正案を提出しようとしたが、香港市民たちの反対に遭った。百万人以上が改正案反対するパレードに参加し、市民と警察が激しく衝突した。結局、香港特別行政区行政長官・林鄭月娥(りんてい げつが)は記者会見を行い、「逃亡犯条例」改正案は「もう死んだ」と発言した。

 この改正案がもし施行された場合、香港市民が中国本土で裁かれる恐れがある。そこで、パレードに参加した香港市民は「逃亡犯条例」改正案に対し、高い恐怖感を持っていた。現在中国の司法システムが香港とどのように違い、なぜ香港市民はそれを恐れたのだろうか。

 現在、中国共産党の司法システムは表面から見て、日本と同じように司法部(法務省)、公安部(警察庁)、最高人民法院(最高裁判所)、最高人民検察院(最高検察庁)といったシステムを有している。しかし、中国共産党の中央政法委員会(政法委)がそれらの上に存在している点で、日本と全く違う。政法委のトップは政法委書記である。政法委書記は中国共産党の総書記の指示に従って、中国全国の司法システム(司法部、公安部、最高人民法院及び最高人民検察院)をコントロールする。中国の地方政府にも、政法委が存在しており、地方の共産党委員会の書記の指示に従って、地方の司法システムをコントロールする。

 政法委は政府の組織ではなく、中国共産党党内の組織である。そのため、政法委の書記は人民代表大会(国会)に対し、一切責任を負わず、監督をも受けない。政法委の存在は、中国に司法の独立が存在しないことを如実に表している。司法の独立がない中国において、公正な裁判など期待できるのだろうか。

 例えば、1999年7月20日に中国共産党総書記・江沢民が中国全国範囲で法輪功を弾圧始めた時、中国政府の総理・朱鎔基(しゅ ようき)氏はこの弾圧を反対した。しかし、江沢民は中央政府の行政システムを避けて、中国共産党のシステムを使用して弾圧を始めた。具体的には、江沢民は政法委の書記・羅幹(ら かん)に指示をして、羅幹は司法部、公安部、最高人民法院及び最高人民検察院に法輪功弾圧を命じた。一億人の法輪功学習者を対する弾圧は江沢民一人の意見で始まった。中国の司法システムは全力で弾圧を行った。この弾圧は今日も続けられている。一億人と比べれば、7百万人の香港市民の人数はかなり少ない。この「逃亡犯条例」改正案が議会で通過されたら、香港市民は誰も中国共産党の統治から逃げられない。

中国共産党の司法システム(看中国/Vision Times Japan)

 司法システムが共産党官僚にコントロールされている中国では、警察官に逮捕された人は真に法を犯しているか否かは関係ない。最近ネット上で盛んに議論されている孫小果事件はまさにその証拠だ。孫小果は20年前に殺人罪で死刑宣告を受け、すでに処刑されているはずだ。しかし、今も孫小果は生きているし、大きな会社を運営している。ネット上の情報によると、彼の父は大きな権力を有する中国人民解放軍の将軍である。父の権力のおかげで彼は死刑から生き延びることができたのではないかと憶測されている。

 逆に、法輪功学習者は法律を一切犯していないにもかかわらず、ただ法輪功を修煉しているがために警察に逮捕され、拷問を受けている。多くの学習者が拷問中に死亡した。法輪大法明慧ネットによると、1999年から2019年まで、二十年間で合計四千三百二十六人の法輪功学習者が拷問中に死亡した。しかし、これは証拠が確認できた人数だけだ。

 2006年、中国では生きている法輪功学習者から臓器を摘出し、患者に移植する「臓器狩り」が行われているという情報が国外にもたらされた。カナダの人権弁護士デービッド・マタス氏は「これは世界中で最も邪悪な行為だ」とコメントした。しかし、現在でも中国国内では臓器狩りが続けている。

 以上の情報を踏まえれば、香港市民がなぜ「逃亡犯条例」改正案に対して恐怖感を抱いているのか理解できるだろう。

(文・黎宜明)