左/「天安協会」のメンバー・右/江蘇省崑山在住の男性(合成画像)

 8月27日、中国江蘇省で地下組織「天安協会」のメンバーが、車両を遮ったという理由で41歳の男性を殺害しようとしたところ、反撃に遭い死亡する事件が発生した。メンバーの劉海龍は当局に「善良市民」として表彰されており、男性の行為が正当防衛に当たるのかが焦点となった。

 「私は3人がかりで殴られ、抵抗できませんでした。劉海龍は刃物を取りだし、斬首するために私をひざまずかせました」。帰宅途中に自転車をこいでいた于明海さんは、劉海龍のBMWから降りてきた男たちから暴行を受けた。

 ガンを患う息子のために借金を背負う于明海さんは「私の安い命を奪わないでください」と懇願したという。

 「しかし、歯が抜けるほど殴られ、殺されるのだと感じ悲しくなりましたが、どうせ死ぬなら命乞いはやめようとも思いました」

 「だから私は彼を刺しました。彼は車の中に銃があると言い、私に動くなと指示したので、彼が銃を持った瞬間を狙い、刃物を奪い取って急いで二回彼を刺しました」。于さんは事件後、警察に送ったこの内容をネットにアップロードした。

 劉海龍に棒のようなもので殴られる于明海さん(ビデオスクリーンショット) 

 当局が民間人の正当防衛を認めることはほとんどない。「于明海さんの行為が正当防衛であったか」ネット上でこの問題に焦点が当てられた。

 幸い現場のビデオがタイムリーに国内外で送信されたことにより、昆山警察と検察は劉を殺害した于さんの行為を正当防衛と認め、即時に釈放したと発表した。

「竜兄」と「天安協会」

 36歳の劉海龍は「昆山竜兄」と呼ばれ、10年近くを刑務所で過ごした。「竜兄」の生活には暴力、恐喝、道楽があふれ、彼はゆすりで得たお金で生活していた。

 「竜兄」は質屋を営む傍ら、「天安協会」という犯罪組織のメンバーでもあった。一方、2018年3月、「竜兄」は当局に「善良市民」として表彰状を授与された。

当局から劉海龍に授与された「善良市民」の表彰状(ネット画像)

 地下組織「天安協会」は、「愛国愛党―初心を忘れず」というスローガンを掲げている。反日デモ、市民への立ち退き、取り壊し、様々な場で暴力、破壊、略奪を行い「中国当局の治安維持」に貢献してきた。

 独立組織を認めない中国共産党だが、「天安協会」の拡大については黙認している。「天安協会」は、中国共産党の汚い仕事を請け負う道具だからである。

 一般的に、暴力団やマフィアは政府と敵対する性質を持っており、原則として政府と結託しない。これに対し「天安協会」は中国共産党の外部組織の一つであることから、実際の暴力団・マフィアとは比較にならない存在だ。

 于明海さんは、奴隷のように酷使と抑圧を受け、沈黙を強いられている中国億万の民衆を代表する存在だと言えよう。

 絶体絶命に陥った于さんが刃物を拾い、逆に「竜兄」を殺したこの事件は、未来の中国社会と共産党政府の行く末を暗示するリハーサルとなるかもしれない。

(翻訳編集/吉村作驕)