2024年2月23日未明、南京市雨花台区(うかだいく)の集合住宅で突然、火災が発生しました。炎が上がった時、多くの住民はまだ眠っていました。消防隊が駆けつけた時には、すでに15人が死亡し、44人が負傷しました。直接的な経済損失は約6億9630万円(3300万元、2024年2月レート)を超えました。 

 その後の調査で、出火元は建物1階のピロティ部分に止められていた1台の電動自転車だったことが分かりました。搭載されていたリチウムイオン電池が熱暴走を起こして燃え上がり、違法に置かれていた物などに燃え移り、住宅の吹き抜け部分へと延焼しました。しかも、このバッテリーは国の基準を上回る容量に改造されており、個人業者が違法に改造したものだったのです。

 この惨事の背後から、さらに大きく、表からは見えにくい産業チェーンの存在が浮かび上がりました。毎年、廃車となった新エネルギー車から取り外される数万トンもの動力用バッテリーが違法に解体され、再び組み直されて、電動自転車や電動三輪車に搭載されているというのです。

 そして、これはまだ始まりにすぎない可能性があります。

 中国当局の強力な後押しを受け、ここ数年、中国では電気自動車が急速に普及し、それに伴って動力用バッテリーの需要も爆発的に増加しました。しかし、これらのバッテリーも、いつかは寿命を迎えます。容量が定格容量の80%を下回ると、走行に必要な性能を満たせなくなり、廃棄しなければなりません。

 中国工業情報化部など6部門は、2026年4月に開かれた記者会見で、研究機関の試算として、2025年に中国で発生した使用済み動力用バッテリーは約40万トン、2030年には100万トンを超えると明らかにしました。一方、「世界および中国の動力用バッテリー回収業界報告」によると、2026年に世界で回収可能となる使用済み動力用バッテリーは計380万トンに達する見込みで、2030年には1000万トン規模を突破すると予測されています。そのうち、アジア太平洋地域が世界の処理量の7割以上を占め、中国がその中心となっています。

 問題は、毎年数十万トンに上る廃バッテリーが、いったいどこへ流れているのかということです。

 中国・電子科技大学材料・エネルギー学院の呉孟強(ご・もうきょう)教授は、ある数字を示しています。消費者のおよそ45%が、使用済みバッテリーをどこに回収してもらえばいいのか分かっていません。そして、使用済みとなったバッテリーの6割以上が、最終的に環境保護に関する資格を一切持たない零細業者へ流れているというのです。こうした業者では、人の手でバッテリーを解体し、残渣や排気ガスをそのまま放出するなど、環境汚染を引き起こしています。

 なぜ正規の回収ルートが、こうした零細業者との競争に負けてしまうのでしょうか。業界関係者の説明は明快です。正規企業は環境基準に沿った処理費用を負担しなければならないため、無資格業者ほど高い買い取り価格を提示できません。一方、零細業者はこうした処理工程を省くため、かえって車の所有者に高い回収価格を提示できます。

 さらに、リン酸鉄リチウムイオン電池には、ニッケルやコバルトといった高価な金属が含まれておらず、リチウム価格も長期にわたり低迷しています。そのため、正規の回収事業は採算が合いにくいのです。法令を守る企業の経営環境が厳しくなる一方、グレーな産業チェーンは拡大を続けています。

 こうした廃バッテリーそのものが、一つ一つ時限爆弾のような存在でもあります。電池内部のショートや過熱、損傷、あるいは乱暴な解体によって、熱暴走を起こしやすく、火災や爆発につながります。電池内部に電力が残ったままであれば、危険性はさらに高まります。

 電解液に含まれるフッ素系有機溶剤が漏れれば、有毒ガスが発生します。正極や負極の材料に含まれるニッケル、コバルト、マンガンなどの重金属やリチウムイオンが土壌や水に入り込めば、生態系に長期的な有害影響を及ぼします。そして、無許可の小規模業者がよく行う強酸による浸出処理や屋外での解体は、こうした危険を何倍にも拡大させます。

 さらに注意すべきなのは、こうした汚染の多くが、一度きりの目に見える事故ではなく、土壌や地下水へゆっくりと浸透していく慢性的な被害だということです。重金属が農地や水源の近くにいったん蓄積すると、周辺住民の健康や農作物への影響が表面化するまでに、数年、場合によっては数十年かかる可能性があります。そして問題が発覚した時には、すでに完全な除去が極めて困難になっていることもあります。

 では、解体された後に再び組み直された電池セルは、どのように市場へ流れ込んでいるのでしょうか。今年6月、中国中央テレビ財経チャンネルが行った潜入取材が、その実態を明らかにしました。記者が深セン衆投新能源有限公司を調査したところ、この会社は廃車となった新エネルギー車から電池セルを取り外し、電動二輪車や電動三輪車のメーカーへ販売していました。

 規制を逃れるため、会社は倉庫と解体工場を別々の場所に設け、異なるロットの電池セルをそれぞれ別の倉庫から出荷していました。記者は責任者について20キロ以上にわたる山道を進み、ようやく山あいに隠された解体工場を発見しました。工場の周囲はテントで覆われ、中では大量の廃棄された動力用バッテリーが、次々と分解され、部品を剥がされ、梱包されていました。

 中国の「新エネルギー車使用済み動力用バッテリー回収利用管理暫定弁法」では、いかなる組織や個人も、使用済み動力用バッテリーをそのまま、あるいは加工した後に、電動自転車などの分野で使用することを明確に禁止しています。しかし、深センで明らかになったこのケースは、十分に人目につかない場所を選び、倉庫を分散させれば、規制をすり抜けることができる実態を示しています。

 国が明確に禁止している一方で、潜入取材のカメラには、盛んに行われる解体作業の様子が映し出されています。では、市場へ流れ込んだこうした「改造バッテリー」は、電動自転車火災のうち、いったいどれほどを占めているのでしょうか。

 中国中央テレビなどの調査では、気になる数字が示されています。電動自転車の火災のおよそ3分の1が改造バッテリーと関係し、さらに、そうした改造バッテリーに使われている電池セルのおよそ8割が、新エネルギー車から廃棄された動力用バッテリーに由来するとされています。

 言い換えれば、南京市で15人の命を奪ったあの火災は、単なる一例ではなく、このグレーな産業チェーンが回り続ける中で、ある時点で起こるべくして起きた結果だった可能性があります。

 あるネットユーザーはコメント欄に、こう書き込みました。「自動車メーカーやバッテリーメーカーには、車載バッテリーの交換にもっと力を入れ、消費者にとって本当に現実的な選択肢を増やしてほしい」

 この言葉の背後にあるのは、実はもっと素朴な疑問です。正規の回収業者では利益が出ず、規制も闇市場の拡大速度に追いつかない中、一般の車の所有者が廃バッテリーを安全に処分しようとした時、いったいどれだけの選択肢が残されているのでしょうか。

 そして、この問題に本当の答えが出るまで、南京市で起きたような火災は、これが最後ではないのかもしれません。

(翻訳・藍彧)