「20か所以上に火をつけた。これで永遠にさようならだ!妻と子どものことを頼む」。これは、ある工事請負業者がこの世に残した最後の言葉です。

 7月26日午後、四川省眉山市(びざんし)の玉屏山(ぎょくへいざん)景勝区で、突然、各所から濃い煙が立ち上りました。森林被覆率98.6%を誇る避暑地です。地元当局の発表によると、原因不明の森林火災で、火はその日の夜に消し止められ、死傷者はいなかったということです。発表はわずか数行でした。この種のニュースではいつもそうであるように、あまりにも淡々としており、単なる山火事だったのだと信じそうになります。しかし、ネット上に流出したチャットの記録が伝えているのは、まったく異なる物語です。

 華僑城の彭山区(ほうざんく)プロジェクト部で工事を請け負っていた男性は、3年間にわたって未払い賃金の支払いを求めてきましたが、一銭も受け取れませんでした。事件当日の午後1時46分にも、男性は相手と話し合いを続けていました。「会社はもう何も言わないつもりなのか?未払いの金を払わないつもりなのか?人を死ぬところまで追い詰めるつもりなのか」。相手は、金のことは自分では決められず、会社の口座には金がないと答え、さらに自分も給料を受け取っておらず、問題を上層部に報告したと説明しました。

 午後1時46分から2時18分までのわずか30分余りの間に、男性は何通ものメッセージを送りました。メッセージを重ねるごとに、絶望の色が濃くなっていきます。所持金はまったくなく、友人の援助に頼って暮らし、毎日考えているのは、「どうすれば金を取り戻せるか」と「どうやって死ぬか」だと訴えていました。その後まもなく、男性は決別のメッセージを送りました。「私たち700人以上の出稼ぎ労働者への賃金は、もう3年間も未払いのままだ……20か所以上に火をつけた。これで永遠にさようならだ!妻と子どものことを頼む」

 これは、一時の衝動で起きたことではありませんでした。正午から夕方まで続いたやり取りの中で、男性が一歩ずつ絶望へと追い詰められていった末の出来事でした。記録を見ると、男性は火をつける直前まで、なおも話し合いを試み、相手から何らかの説明が出るのを待っていたことが分かります。

 この記録は、中国国内のネット上から跡形もなく削除され、現在確認できるのは海外のネット上だけです。

 その2日後の7月28日、江蘇省淮安市(わいあんし)で、金鹿食品というランチョンミート加工工場から火が出ました。赤い屋根の大部分が焼け落ち、黒煙が空高く立ち上りました。当局の発表は、今回もお決まりの内容でした。現在対応中で、死傷者はおらず、原因は調査中だというものです。発表には、火災が起きた企業の名前さえ記されていませんでした。ネットユーザーが住所を照合したことで、火災現場が2014年に設立され、缶詰食品を専門に製造するこの工場だったことが分かりました。

 しかし、ネット上のブロガーが公開したのは、またしても未払い賃金をめぐるチャットの記録でした。従業員は相手に対し、以前、7月11日までに給料を全額支払うと約束したのだから、「約束を守ってほしい」と求めています。さらに、自分は問題を大きくしたくないとも伝えていました。これに対し、相手から返ってきたのは「態度」という二文字だけでした。従業員はこう問い返しました。「給料を払わないのに、私にどんな態度を求めるんだ?」。あるブロガーは、この火災による損失が17億円以上(7000万元超)に上ると主張しています。

 二つの事件は、発生日が2日違い、場所も1000キロ以上離れています。それでも、経緯は判で押したように同じです。未払い賃金の支払いを求めても解決の道がなく、チャットの記録が流出し、その後、記録はネット上から削除されます。事件が明るみに出ると、コメント欄もすぐに二つに分かれました。「労使紛争は法的な手段で解決すべきであり、暴力に訴えるべきではない」という意見がある一方、「法律で解決できるのなら、誰が好き好んでこんな道を選ぶのか」と問い返す人もいました。

 実は、このようなパターンは今回が初めてではありません。

 7月9日、福建省晋江市(しんこうし)で、輝騰靴業(きとうかぎょう)の5階建て工場から突然、火が出ました。火は数時間にわたって燃え続け、同日午後5時40分ごろになって、ようやく火の勢いがほぼ収まりました。当局の発表によると、少なくとも28人が死亡しました。現場の映像には、屋上に取り残された人々が助けを求める姿や、建物から飛び降りて逃げようとする姿が映っており、極めて緊迫した状況でした。

 事情を知るとするネットユーザーは、火災の原因は未払い賃金を求めていた従業員による放火だと明かしています。屋上には数十人が取り残されており、実際の死傷者や行方不明者の数は、当局が発表した人数をはるかに上回る可能性があるとも主張しています。

 さらにさかのぼると、6月3日には江蘇省蘇州市の廃品回収倉庫で爆発が起き、火災が発生しました。当局の発表では、やけどを負ったのは2人だけでした。しかしネット上では、現場の消防関係者による情報として、この化学製品倉庫は、未払い賃金を求めていた従業員によって放火された疑いがあり、火が隣の紡績工場にも燃え広がって連続爆発を引き起こしたと伝えられています。実際の死者は70人を超える可能性があるとの情報も流れています。仮にこれが事実であれば、その数字と当局の発表との隔たりは、あまりにも大きすぎます。

 2月23日夜、海南省海口市にある建物から突然、火が出ました。当局の発表では、死傷者はいなかったということです。しかし、火災現場の映像を見たネットユーザーは、現場で複数の清掃作業員が、給料がすでに3か月以上も支払われていないと訴えていることに気づきました。このため、火災は長期にわたる賃金未払いと関係しているのではないかとの見方が出ています。

 これらの火災は、年初から現在まで続いています。発生場所は海南省から福建省、江蘇省、四川省にまで及び、中国各地に広がっています。そして、毎回同じ三段階が繰り返されています。3年、5年と未払い賃金の支払いを求め続けても結果が出ず、精神的に少しずつ追い詰められ、崩壊寸前に達した末、最も極端な方法で怒りを爆発させます。

 しかも、そのたびに当局が発表する死傷者数とは異なる数字がネット上で伝えられます。チャットの記録や現場の映像も、中国国内のSNSから瞬く間に姿を消し、海外のネット上の片隅で流れ続けるだけです。

 注目すべきなのは、これらの事件の背後に、ほぼ共通する背景が見えることです。近年、中国経済の低迷に地方政府の財政難が重なり、多くの業界で大規模な賃金未払いが広がり、支払いを求める抗議が相次いでいます。多くの労働者にとって、未払い賃金の支払いを求めるのは、もはや一度や二度ではありません。何年も支払いを求め続けても、返ってくる答えはいつも「口座に金がない」という一言です。法的な手段を何度繰り返しても一円さえ取り戻せないとき、その怒りが最後にどこへ向かうのかは、想像に難くありません。

(翻訳・藍彧)