それほど高い技術を持たないハッカーでも、AIツールに作業を任せるだけで、攻撃先の弱点探しから侵入、情報の盗み出しまで、ほぼ自動で実行できてしまいます。わずか2か月の間に、日本の外食チェーンやコンビニ、カーシェアリングサービスで被害が相次ぎ、影響を受けた顧客は数百万人に上る可能性があります。日本のサイバーセキュリティ企業が手がかりをたどった先にあったのは、中国のAI侵入テストツール「Artex」でした。
AFP通信によると、GMOインターネットグループ傘下のサイバーセキュリティ企業「GMOサイバーセキュリティ byイエラエ」は10月19日、調査結果を公表しました。外部機関と協力して攻撃に使われたサーバーなどを分析した結果、「攻撃者がArtexを使用していたことを確認した」としています。調査を主導した福森大喜(ふくもり・だいき)は、同社のブログで、これらの攻撃は「ほぼ日本企業だけを標的にしている」と記しました。
同社は依頼を受け、9月18日から10月18日までの間に海外のサーバー6台を調べ、すべてからArtexが使われた痕跡を発見しました。これらのサーバーは、金融、ネット通販、物流など、攻撃対象の業種ごとにおおむね使い分けられていました。標的となった日本の企業や団体は約80に上り、保険、金融、物流、流通、教育などの分野に及びます。このうち8社は、すでに9月から10月にかけて情報流出を公表しています。調査側は、攻撃者が次々とサーバーを変えながらも、ほぼ日本だけを狙い続けていることから、同じグループによる一連の犯行とみています。福森さんはサーバーの所在地や操作者の身元を明らかにしていません。同社は関連情報を捜査機関に提供しています。
GMOは標的となった企業の一覧を公表しておらず、どの情報流出事件がArtexに直接関係しているのかは、個別に確認できていません。ただ、公表された数字だけでも被害の大きさがうかがえます。カーシェアリングサービスのタイムズカーでは、約660万件のアカウント情報が流出した可能性があります。ローソンでは約215万5000件の会員IDが不正アクセスの被害に遭い、バーガーキング·ジャパンは10月13日、約1118万件の顧客情報が流出したことを確認しました。
日本企業への相次ぐ攻撃に使われたこのツールは、いったいどこから来たのでしょうか。意外なことに、もともとは誰でもダウンロードできるものでした。
Artexは、システムに侵入できる弱点がないかをAIが自動で調べるツールです。今年7月、中国語圏の開発者が「Autumn-27」というアカウント名で、ソフトウェアの共有サイトGitHubに公開しました。10月8日、開発者は、このツールが「不法な行為をする者」に悪用されていると声明を出しました。サイバー攻撃への利用は開発の意図に「完全に反する」として、更新を停止し、プログラムの中身も非公開にすると表明しました。しかし、すでにダウンロードされたものは引き続き使用できるため、この措置だけで悪用を根本から防ぐことは困難です。
日本に先立ち、韓国ではすでに、複数の金融機関への不正侵入事件とArtexとの関連が指摘されていました。
米国のサイバーセキュリティ企業クラウドストライクは10月7日の報告書で、新韓銀行など韓国の複数の金融機関からデータが盗まれ、攻撃者がArtexや、ディープシークなどの生成AIを使用していたと指摘しました。容疑者は中国広東省にいる26歳の男性の可能性がありますが、本人は身元情報を不正に使われたとして、関与を否定しています。中国外務省は、中国は一貫してハッキングに反対し、取り締まっていると表明しました。
クラウドストライクの上級副社長アダム·マイヤーズは、この攻撃者の技術力は「特に高いわけではない」にもかかわらず、AIツールを使うことで攻撃を成功させていたと指摘しました。AIによって、高度な技術がなくてもサイバー攻撃ができるようになりつつあります。日本でサイバー攻撃への対応を支援する専門機関「JPCERT/CC」も、8月以降の日本企業への攻撃で、自ら判断して作業を進めるAIが使われた痕跡を確認しています。
日本政府はすでに、企業にサイバーセキュリティ対策の強化を呼びかけています。自民党のサイバーセキュリティ戦略本部長で、前デジタル大臣の平将明は今月9日の緊急会議で、日本のサイバー空間はすでに「緊急事態」に入っていると述べました。金融庁も金融機関に対し、サイバー攻撃を防ぐ体制を改めて点検するよう求めています。
しかし、攻撃者はなぜ、日本ばかりを狙うのでしょうか。その答えは、ネットの外にあるのかもしれません。
攻撃が「ほぼ日本だけを標的にしている」と聞けば、緊張が続く現在の日中関係を連想せずにはいられません。2025年11月7日、高市早苗首相は国会で、中国軍が台湾を攻撃した場合、日本の存立を脅かす事態に当たる可能性があると述べました。その後、中国政府は日本への渡航に注意を呼びかけ、日本産水産物の輸入を停止しました。今年1月には、日本で軍事目的に使う相手への、民間用にも軍事用にも使える物資の輸出を禁止し、日本向けのレアアース輸出も制限しました。
経済面でも、日中の距離が広がっていることがはっきりと表れています。帝国データバンクが今月発表した調査によると、今年6月時点で中国に拠点を置く日本企業は1万118社で、2024年から22パーセント減少しました。統計を取り始めた2010年以降で最も少なく、この2年間に中国から完全撤退した企業は4137社と、過去最多となっています。米国の政治リスク分析会社ユーラシア·グループのアナリスト、ジェレミー·チャンは、日本企業やその従業員の間で、中国では「歓迎されていない、安全ではない」と感じる傾向が強まっていると指摘しました。
海上での摩擦も激しさを増しています。海上保安庁の統計によると、2025年には尖閣諸島の領海の外側にある接続水域で、中国海警局の船が357回確認され、4年連続で過去最多を更新しました。年間で27回、日本の領海に侵入し、日本の漁船を追いかける行為も8回ありました。今年3月にも同様の出来事が起きています。2025年12月には、空母「遼寧(りょうねい)」の艦載機が、自衛隊のF15戦闘機に対し、兵器の照準を合わせるためのレーダーを照射しました。
日本は過去にも、中国に関係するサイバー攻撃を受けています。警察庁は2025年1月、中国政府と関係するハッカー集団「ミラーフェイス」が、2019年から2024年にかけて200件以上の攻撃を行ったと認定しました。狙われたのは、国家安全保障や先端技術に関する情報です。今月9日には、日本が米国、英国、カナダ、オーストラリアなどと連名で注意喚起の文書を公表しました。文書では、中国政府とつながりのある永信至誠(えいしんしせい)科技グループを名指しし、ハッカーを雇い、世界中で機密データを盗むことを目的とした中国のサイバー活動を支えていると指摘しています。日中の対立が深まるなか、日本企業は攻撃者に真っ先に狙われやすくなっているのかもしれません。
ただし、今回の攻撃が国家によるものだと示す証拠は、現時点では公表されていません。クラウドストライクは、韓国の事件の実行者は主に金銭目的で行動していたとみています。複数の専門家も、日本で相次ぐ今回の攻撃は、国家が主導する組織的な作戦というより、身代金の要求やデータの売却が目的である可能性が高いと考えています。
更新が止まっても、無数のパソコンの中で動き続けるAIツール。高い技術がなくても、100万人を超える人々のデータを盗み出せる攻撃者。そして、関係がますます緊張する2つの隣国。次のサイバー攻撃が起きたとき、画面の向こう側に座っているのは、いったい誰なのでしょうか。
(翻訳・藍彧)
