水が引いたからといって、災害が完全に終わったとは言えません。最近の中国・広西チワン族自治区の様子を見ると、その厳しい現実が伝わってきます。水が引いてから10日以上が経ちますが、多くの被災地では、泥の生臭さと、どこからともなく漂う腐敗臭がまだ空気に残っています。通りの壁には、人の背丈よりも高い位置に、黄色い泥水の跡がはっきりと残っています。その線より上は白い壁のままですが、下は乾いて固まった泥だらけです。これは災害の終わりではなく、水が引いた後の過酷な生活が始まったばかりであることを示しています。

 今回の災害のきっかけは、今年の台風10号「メイサーク」です。7月4日から広西南部で大雨が続き、鬱江(うつこう)では「2026年第1号洪水」が発生しました。貴港の水文観測所では、水位が一時46.88メートルに達し、警戒水位を5.68メートル超えました。これは2001年以来最大の記録です。同じ時期、南寧にある中規模のダムでは、数時間で水位が2メートル急上昇し、最終的にダムの堤防が約50メートル区間にわたって決壊しました。大量の水が一気に谷へと流れ込み、わずか30分の間に水位が急上昇したため、下流の村々は避難する余裕がありませんでした。

 公式の発表によると、7月9日までに広西全体で洪水により39人が亡くなり、9人が行方不明となっています。このダムの決壊だけでも26人が亡くなり、7人が行方不明になりました。14の市と63の県や区が被害を受け、被災者の数は37万5000人に上ります。

 こうした数字の裏側で、実際に多くの村が濁流に飲み込まれました。水が引いた後には、また別の悲惨な光景が広がっています。道路は膝の高さまである泥に覆われ、道の両側には壊れた車や、曲がった鉄筋、折れた木材、粉々になったドアや窓が積み上げられています。多くの建物は1階の窓枠すらなくなっており、代わりに発泡スチロールの箱やゴミが窓口に詰まっていて、取り除くのも難しい状態です。自宅の入り口に座り込み、半日ほど何も言わずにただぼうっとしている村人もいます。泥が太陽に照らされて乾くと、今度は分厚い土埃の層となって通りを覆います。風が吹けば砂埃が舞い上がり、むせて目を開けることもできません。数日前までは泥水で膝まで浸かった場所が、今は息が詰まるような砂埃に変わりました。生活の苦しさは形を変えただけで、依然として続いています。

 養殖場の被害も深刻です。水が引くのは早かったものの、動物たちを安全な場所へ移動させる時間はなく、多くの場所で泥に埋もれた家畜の死骸が見られます。それらは道端に積まれており、その後、回収される予定ですが、回収を待っている間に泥の中から毒蛇が出てくる危険性もあります。遺体の腐敗臭と乾ききっていない泥の臭いが混ざり合っており、蒸し暑い気候の中で強い臭いを放っています。これかの状況が、被災地の人々を苦しめています。衛生管理の担当部署が家々を回って消毒を行っています。しかし、これほど多くの動物の死骸や汚水が残る環境では、蒸し暑い夏場に二次的な感染症が発生するのではないかと、地元の人々は不安を抱えています。災害後には、赤痢や腸チフス、腸管感染症などのリスクが高まりやすいと言われています。

 さらに厳しいのは、災害がまだ過去のものになっていないことです。7月中旬、一部の地域では洪水が引いて数日も経たないうちに再び大雨が降り、片付けたばかりの通りが再び水没しました。濁った水面には様々なゴミが浮いており、再び作業を行うことになりました。地元の人々がインターネットに投稿した動画からは、どうしてこんなに辛いのかという悲痛な声が聞こえてきます。再建を目指して懸命に生活を立て直そうとしている人々にとって、水が引いたと思ったらまた水没するという繰り返しの被害は、精神的に非常に大きな負担となっています。

 さらに財産面での損失も大きいです。広西の多くの地域は農業に大きく依存しているため、今回の洪水で沿岸の広い農地がほぼ全滅したことは大きな打撃です。多くの農家にとって、1シーズンの収穫や数年分の蓄えが水と共に失われてしまいました。普通の農家が家を建て直し、元の生活に戻るためにどれほどの時間と資金が必要になるのか、すぐに見通しを立てるのは非常に難しい状況です。

 救助活動や復旧作業は、道路の破損により、難航しています。その為、今も一部の山間部や離れた村は孤立しています。主要な道路が寸断されているため、支援物資は人の手で運ばざるを得ません。ふくらはぎまである泥の中を歩いて1往復するのに、2時間近くかかることもあります。通信の復旧や電力の修理、水道管の洗浄など、どの作業も急ピッチで進められていますが、孤立した村に取り残されている人々にとっては、待つこと自体が大変な苦労です。

 洪水が引き、ニュースで報道されることが減っても、被災地はまた新たな課題に直面しています。泥の撤去や動物の死骸の処理はまだ終わっておらず、蒸し暑い夏の日々の中で、衛生面でのリスクに備える必要があります。また、天気予報によると今後も大雨が降る可能性があり、すでにダメージを受けている堤防や排水システムが次の試練に耐えられるかどうか心配されています。泥壁に残る水位の跡、道端に残された動物の死骸、そして壊れた家の前で立ち尽くす人々は、この厳しい夏を一日一日と乗り越えていかなければなりません。復旧への道のりは、まだ始まったばかりです。

(翻訳・吉原木子)