まるでハリウッドのパニック映画のような大事故。しかし不幸中の幸いか、この時ばかりは死神も居眠りをしていたようです。

 7月3日午前、中国河北省の唐山市で、思わず背筋が凍る出来事が起こりました。砂や土を過積載した大型トラックが、走行中の列車と猛烈に衝突したのです。ネットに投稿された映像では、トラックは線路脇に横転し、荷台は無惨にひしゃげています。その横には「京局唐山工務段」と印字された大型の保線車両があり、先頭部分がひどく損傷し、窓ガラスは粉々、車体は衝撃で完全に脱線して傾いていました。しかし、これほど壊滅的な衝突でありながら、鉄道当局の発表は奇跡とも言える結末を告げます。死傷者はゼロだったのです。

 このニュースに、多くのネットユーザーは安堵する一方で疑問を抱きました。今の鉄道は完全に隔離されているはずなのに、トラックはどうやって線路に侵入したのか。実は、この問いは方向が違っていました。公式発表によると、現場は唐遵貨物線にある、遮断機も警報機もない踏切。日本でいう第4種踏切にあたるもので、係員もおらず、あるのは数枚の警告標識だけです。高速鉄道の線路は完全に隔離されていますが、在来線や貨物線には、こうした無防備な踏切がいまだ数多く残っています。本来なら列車が来る時に一時停止し、安全を確認しなければなりません。しかしこのトラックは止まらず、強引に突っ込んだのです。

 ただ、それだけでは説明がつきません。ただのトラックが、なぜ何十トンもある列車を脱線させられたのか。答えは、この車の恐ろしい呼び名に隠されています。動画の投稿者によると、これは「百トン王」と呼ばれる車両でした。

 それは普通のトラックではなく、乗用車のドライバーを震え上がらせる、道路を走る怪物です。「百トン王」とは、その名の通り、車体と荷物の総重量が100トンに迫る、あるいは遥かに超える極端な過積載トラックのこと。中国の大型トラックの法定上限は49トンですが、「百トン王」はその倍以上に達します。天津の警察が今年摘発した一台は、実測170トン、法定上限の3倍以上でした。極端な過積載は想像を絶する慣性を生み、制動距離は大幅に伸び、タイヤもブレーキも常に限界ギリギリです。これこそ、踏切に無理に進入し、止まりきれなかった最大の理由です。しかも衝突されたのは満載の貨物列車ではなく、比較的軽い作業用の保線車両でした。100トンを超える鋼鉄の塊が横から全速力で突っ込めば、脱線はほぼ必然。列車が脱線したのは、まさにこの圧倒的な破壊力のせいなのです。

 これほど巨大で恐ろしい破壊力を持つ「百トン王」が、なぜ平然と公道を走れるのか。監視カメラに映らないのか、警察は取り締まらないのか。

 ここに、貨物輸送業界の悪質な闇が隠されています。過積載による高額な罰金や減点を逃れるため、ドライバーはナンバープレートを隠したり、汚したり、外したりします。プレートを外した瞬間、この百トンの怪物は「姿の見えない車」になる。監視カメラの目を逃れ、取り締まりの緩い深夜や早朝を狙って猛スピードで走り抜けるのです。

 さらに驚くのは、料金所の重量計を逃れるための集団突破です。先月、内モンゴル自治区の高速で、7台の「百トン王」石炭運搬トラックが集団で強行突破を図りました。乗員が車を降りて警察のバリケードを素手でどかし、次々と走り去ったのです。天津でも今年、警察が悪質な突破グループを3つ摘発しています。深夜、ナンバーを隠した大型トラックが数台で料金所に集結し、減速するどころかエンジンを吹かして時速30〜40キロで突破する。最も悪質な夜には、一つの料金所が連続22回も突破されました。スタッフは、大型車が突っ込むと地響きがして、怖くて止められない、止めようもないと語ります。

 まさに命がけの無謀な走りです。過積載が刑事罰に問われた前例もあります。甘粛省では「百トン王」のオーナーと運転手に危険作業罪で懲役6ヶ月、執行猶予1年の判決が下り、地元で初のケースとなりました。極めて危険で、逮捕のリスクを冒すと知りながら、なぜドライバーは過積載を続けるのか。

 根源を辿ると、現場で働くドライバーの過酷な現実が見えてきます。
 「決められた積載量通りに運んでいたら、燃料代すら稼げない」。これが多くの運転手の本音です。運賃は極限まで叩かれ、配車アプリで価格競争は激化し、トラックは余っているのに仕事は少ない。誰かが過積載で運賃を下げて仕事を取れば、法律を守る運転手は仕事を失う。過積載をしなければ仕事はなく、受けても規定通りに運べば赤字になるのです。

 この歪んだ構造の中で、修理工場は違法改造を請け負い、一部の鉱山や工場はコスト削減のために過積載を黙認し、過積載車にしか仕事を出さないところさえあります。業界全体でコストを削る圧力が巨大な山となり、ドライバーの肩にのしかかる。「過積載しなければ稼げない、最悪赤字になる」という病巣のツケが、無関係な一般社会に押し付けられているのです。

 唐山の衝突事故は、単なる珍しい交通事故ではありません。歪んだ貨物輸送システムが発した、重大な警告です。「合法的に運んでは稼げない」という構造が変わらなければ、「百トン王」はまた何度でも、次の踏切や料金所へ突進していくでしょう。今回ぶつかったのは、乗客のいない保線車両でした。しかし次に死神が居眠りをしてくれる保証は、どこにもないのです。

(翻訳・吉原木子)