先日、中国河南省開封市の尉氏県で、大規模な水道水汚染とみられる問題が発生しました。多くの住民や学生が嘔吐、下痢、頭痛、全身の倦怠感などを訴え、地元の病院は患者で溢れかえっています。安全な水を求めて住民がミネラルウォーターなどを買い占めるパニックも起きており、この事態はインターネット上でも瞬く間に拡散され、大きな波紋を呼んでいます。

 事の発端は5月19日に遡ります。地元住民の女性によると、家族で食事をした後、自身と息子が腹痛と下痢の症状に見舞われました。一方で、生水を飲まなかった夫に症状は出ませんでした。病院に向かうと順番を待つ患者が多数おり、幼い子供の姿も少なくなかったそうです。また、別の患者の検査結果では基準値を超える細菌が検出され、食中毒の疑いも示唆されており、水源汚染に対する住民の不安はさらに深まりました。

 翌20日以降、水道水の異常を訴える動画がネット上に次々と投稿されました。映像からは、本来無色透明であるはずの水道水が黄色く濁り、粘り気を帯びている様子が確認できます。「まるでビールのようだ。黄色く泡立って黒いカスが浮いている」「顔を洗おうとしたら、蛇口から醤油のような水が出た」といった訴えとともに、衝撃的な映像がSNSで拡散されました。深夜の救急外来に大勢の住民が殺到し、廊下が患者と家族でごった返す様子や、徹夜でスーパーの飲料水を買い求める深刻な状況も記録されています。深夜に子供の点滴を終えて帰宅した保護者は、「生活のために水を買わざるを得ず、基本的な健康や安全すら保障されない」と悲痛な声を上げています。

 この事態に対し、地元病院は5月20日の時点で「受診者が激増しており対応にあたっている。しかし、原因は特定できていない」とし、「豪雨で水道管に雨水が混入した可能性がある」と推測するにとどまりました。現地の合同調査チームも、19日夜に住民が医療機関を受診した事実を認めた上で、「治療により症状は概ね軽減しており、検体を検査中である」と説明していますが、現在に至るまで確固たる原因は公表されていません。

 問題の核心を避けるような当局の対応は、住民のさらなる不満と疑念を招きました。あるユーザーは、町全体で体調不良が発生する前日に断水通知を受け取っていたと指摘し、当局が水質異常に早くから気付きながら適切な警告を怠ったのではないかと疑念を呈しています。さらにX上では、地元政府が「細菌の基準値超え」や「食中毒」といった言葉で深刻な危機を矮小化しようとしているのではないかという見方も広がりました。ネット上の掲示板には、「当局は住民の命を軽視している」「地方財政が逼迫し、最低限の公共サービスを提供する能力すら失われている」と、不透明な対応を辛辣に批判する書き込みが相次ぎました。

 今回の事態の波紋は現地にとどまらず、中国全体における環境汚染や公共施設の老朽化から、水処理能力に至るまで、広範囲に渡る議論を巻き起こしています。また、長年追求されてきた高度経済成長は、環境破壊という重い代償の上に成り立っているのではないかと、多くの人々が改めて問題視するようになっています。「今の政策の影響は数世代で終わるかもしれない。しかし、環境汚染の影響は何百年も続く」との懸念も示されました。現在、環境汚染による健康被害は徐々に表面化しており、中高年に多い心血管疾患や脳血管疾患に10代の若者が罹患するなど、様々な疾患の低年齢化傾向も見られています。

 さらに、浄水場の処理能力に対しても疑問の声が上がっています。今年3月末にX上で拡散された動画では、ある浄水エンジニアが、現在の中国の多くの浄水場で採用されている「凝集、沈殿、ろ過、消毒」のプロセスは100年以上前の古い技術だと指摘しました。今日の産業活動で排出される重金属や農薬の残留物、複雑な有機化合物といった汚染物質には、こうした技術は明らかに追いつかなくなっています。彼は「30年前と現在では水質が天と地ほども違う。水源が悪化しているのに処理技術が向上していなければ、各家庭の水道水は昔のように安心して飲めるだろうか」と鋭く問いかけています。

 中国が直面している水質の危機は今に始まったことではありません。以前イギリスのBBCは、中国で約2,000万人がヒ素に汚染された地下水の脅威にさらされている可能性があるという共同研究を報じました。猛毒であるヒ素が地下水に浸透した場合、極めて低濃度でも長期にわたり飲み続けると、皮膚の変や内臓疾患、さらには致命的ながんを誘発する恐れがあると言われています。今回の尉氏県での事態は決して単発の偶発的なケースではありません。これは突発的な危機であると同時に、環境保護や老朽化した公共施設の見直し、公衆衛生上の緊急事態への対応において、中国が直面する厳しい課題を改めて浮き彫りにした出来事だと言えるでしょう。

(翻訳・吉原木子)