中国の重慶市で、新車を購入してわずか6日目のオーナーが走行中、車のボンネットが突然脱落して飛んでいくという事故が発生しました。幸いなことに、この信じがたい事故による後続車の追突や死傷者は出ませんでした。しかし事後、修理工場の整備士が点検したところ、この真新しい車のボンネットには、なんとネジが1本も締められていなかったことが判明したのです。5月14日、この耳を疑うようなニュースは瞬く間にネット上で拡散され、中国産車の品質管理に対する強い懸念が広がっています。

 中国メディアが報じた動画には、5月13日、女性が巨大なボンネットを掲げて呆然と路上を歩く姿が映し出されています。カメラが切り替わると、正規ディーラーから購入してわずか6日しか経っていない「奔騰小馬(Bestune Xiaoma)」という小型EVの姿があり、本来ボンネットを固定するはずの場所にはネジの影すらありません。さらにネット上で反感を買ったのは、オーナーがクレームを入れた際のディーラー側の対応でした。オーナーによると、ディーラーに危険を報告したところ、相手はネジを2本郵送し、オーナー自身で保険処理をするよう求めてきたといいます。さらに同店のスタッフは、「数日間運転していれば、ネジがないことによる異音に気づかないはずがない」と独自の論理を展開しました。同店は車両交換の要求を拒否するだけでなく、「オーナー個人の責任であるため修理の義務はない」と主張し、不具合の責任を消費者に転嫁したのです。

 奔騰(BESTUNE)は2006年に設立された、中国四大自動車グループの一つである国有大手「中国第一汽車集団」の自主ブランドです。問題の車種は2024年5月に発売され、価格はおよそ4万元(約80万円)台に設定されています。中国を代表する自動車メーカーのブランドでありながら、「ネジの締め忘れ」という初歩的なミスが起きただけでなく、出荷前検査(PDI)もすり抜けて消費者の手に渡っていたことになります。この件はSNS上で厳しい批判を浴びただけでなく、急拡大する中国自動車市場の裏に潜む、品質管理の大きな落とし穴を浮き彫りにしました。

 実際、今回のボンネット脱落事故は、熾烈な競争が繰り広げられている中国自動車市場において決して特異な例ではありません。近年の中国では、新エネルギー車(NEV)メーカーが次々と誕生し、各社は豪華な内装や巨大なスクリーンといった過剰な装備を競い合っています。その一方で、命に関わる基本的な機械的性能や品質管理においては、背筋が凍るような重大なトラブルが頻発しているのが現状です。

 たとえば2023年6月には、四川省成都市の交通量の多い高架道路で、極めて危険な事故が発生しました。吉利汽車(Geely)傘下の配車サービス用EV「曹操60(バッテリー交換対応モデル)」が通常走行していたところ、突然、車体底部から重厚なバッテリーパック全体が脱落し、道路の中央に落下したのです。動力を失った車両は慣性で20メートル以上滑走してようやく停止し、巨大なバッテリーパックだけが道路の真ん中に取り残されました。後続車のドライブレコーダーがこの瞬間を捉えており、ネット上では「走行中にバッテリー残量が物理的にゼロになった」と驚きや呆れの声が上がりました。

 組み立て工程のミスが管理の怠慢だとすれば、設計上の欠陥に対するメーカーの姿勢は、消費者をさらに落胆させるものです。2020年には、理想汽車(Li Auto)のSUV「理想ONE」で、サスペンションが破損する事故が中国各地で相次ぎました。市街地を極めて低速で走行中、小さな窪みを乗り越えたり路肩に軽くこすったりしただけで、フロントサスペンションの部品が突然脱落し、車輪が外側に傾いて走行不能になるというものでした。100件近くに上る事故に対し、メーカー側は当初、品質問題であることを認めませんでした。さらに、規制当局からの指導により1万台以上のリコールを余儀なくされた際も、公式発表ではリコールという言葉を避け、「ハードウェアの最適化アップグレード」という表現を用いて非難を浴びました。

 多くの注目を集めるトップクラスの新興EVメーカーでさえ、自動車製造の難しさには直面しています。2025年9月、自動運転技術の競争が激化する中、スマートフォン大手の小米(Xiaomi)が手掛けるEV「SU7」の標準モデルにおいて、高速道路などでの運転支援機能に深刻な安全上の懸念があると指摘されました。特定の条件下で、システムによる障害物の認識や警告が遅れ、高速走行中に追突事故を引き起こすリスクがあるという内容です。最終的に関係当局の介入もあり、同社はネットワーク経由でのソフトウェア更新(OTA)によって、最大11万6千台のSU7をリコールする事態となりました。IT業界特有のアジャイルな開発とスピーディーな販売というビジネスモデルが、人命に関わる自動車産業においては、わずかな見落としも許されないという教訓を示しています。

 ボンネットのネジの欠落から、走行中のバッテリー脱落、そして新興EVメーカーによるサスペンションの破損や運転支援システムの不具合に至るまで、これらの信じがたい出来事の背景には、激しい価格競争の中で余裕を失っている中国自動車メーカーの現状が垣間見えます。派手な装備やマーケティングに注力する一方で、ネジを締める、バッテリーを確実に固定するといった基本的な品質管理が疎かになれば、どれほど優れたカタログスペックも意味を持ちません。自動車製造とは、本来的に長期的な視点が求められる産業です。そこに必要なのは、目先の利益ではなく、機械工学への深い敬意と、消費者に対する確固たる責任感だと言えるのではないでしょうか。

(翻訳・吉原木子)