2025年10月9日、甘粛省白銀市では複数のバス路線が突然運休となり、多くの運転手が勤務時間中にバス会社の車庫周辺へ集まりました。

 運転手によれば、すでに約5か月間給料が支払われておらず、年金保険も6年間未納状態のまま、住宅積立金も滞納され、さらに昨年の暖房手当まで未払いのままだといいます。

 中国経済の低迷が続く中、その影響はあらゆる業界へ広がっています。かつて「道路を走る印刷機」とまで呼ばれた都市バス事業は、今や巨額の赤字を垂れ流すブラックホールへと変わりました。

 利用客の激減と深刻な赤字によって引き起こされた「バス路線廃止ラッシュ」は、いま中国全土へ広がっています。

 かつて中国の都市バスは、街中で最も忙しく動き続ける存在でした。膨大な乗客を抱える高収益事業と見なされ、バス運転手もまた安定した職業の象徴でした。しかし今、その光景は大きく変わりつつあります。

 多くの都市ではバスの本数が激減し、車内は空席が目立ち、さらに路線そのものが廃止されるケースまで相次いでいます。データによれば、中国のバス利用者数は2022年時点で大幅に落ち込み、2014年の約782億人から約353億人へと急減し、輸送規模は実質的に半減しました。

 同時に、各地のバスターミナルや路線も次々と閉鎖されています。中国メディアの2024年統計では、広東省だけで42か所のバスターミナルが閉鎖されています。北京や上海などの一線都市でも、全体の約80%のバスターミナルが閉鎖、もしくは閉鎖危機に直面しています。都市別に見ると、北京では2024年に24路線を削減しています。杭州市でも累計40近い路線が運休となりました。

 さらに、バス会社の経営状況も急速に悪化しています。天津市のバス会社は2022年の売上が約135億円(5.9億元)だった一方、赤字は約160億円(7億元)に達し、負債率は100%を突破しています。従業員の給与は財政補助に依存する状態となっています。蘭州市のバス会社は約890億円(39億元)の負債を抱え、給料や社会保険料も約114億円(5億元)以上滞納しています。蘇州市のバス会社も、2024年の売上がわずか約52億円(2.28億元)しかないのに対し、運営コストは約656億円(28.7億元)にも達しています。

 アメリカの経済学者デイヴィ・J・ウォン(Davy J. Wong)は、都市バスはかつて高収益ゆえに「道路上の印刷機」と呼ばれていたが、今では地方財政を食い潰すブラックホールになっていると指摘しています。

 ウォン氏はこう分析しています。

 「原因は一つではない。需要の縮小と財政支援の断絶、この二つが重なった結果であり、これはシステム全体の構造崩壊である。まず需要側では、地下鉄、シェアサイクル、電動三輪車、宅配業界の小型電動車、小型電動バイク、配車アプリなどが、従来のバスを次々と代替している」

 さらに、中国のバスシステムは長年、地方政府の補助金に依存してきました。しかし、不動産市場の崩壊と地方政府債務の膨張によって、そのモデル自体が維持できなくなっています。

 同氏はさらにこう述べています。

 「ここ数年、中国では電動バスを大々的に推進してきた。中央政府の補助金はあるものの、車両価格は非常に高く、充電設備への投資も莫大である。そして今は、バッテリー交換時期が一斉に到来しており、バス会社に巨大な資金圧力を与えている。

 さらに、こうした『新エネルギー』は実際には石炭火力発電の電気を使っているだけで、本質的には旧来型エネルギーである。この自己欺瞞的な政策は、最終的に巨大な財政損失と浪費を生み出すことになるだろう」

 データによると、2023年時点で中国の純電動バス比率はすでに7割を超えています。

 しかし、1台あたりのバッテリー交換費用は約700万〜1400万円(30万〜60万元)にも達し、運営負担をさらに悪化させています。その結果、多くの都市で電動バスそのものが運休に追い込まれています。

 北京の事情に詳しい鄭氏はこう語ります。

 「中国のバス業界はすでに廃止ラッシュへ突入している。財政力のある一線都市ですら耐えきれなくなっている。まるでドミノ倒しのように、各地でバス業界の危機が次々と表面化している。

 昨年12月、広州市のバスグループは一気に19路線を廃止し、多くの人を驚かせた。しかし、わずか10日後にはさらに5路線が追加で運休となった。本当に予想外だった」

 その一方で、バス業界で働く人々の状況も急速に悪化しています。一部地域では給料未払い問題が発生し、運転手による集団抗議に発展するケースまで出ています。多くの中低所得の運転手にとって、もし失業すれば再就職先は限られており、生活は大きな不安定さに直面します。こうした状況は、個々の家庭だけでなく、社会全体の安定にも潜在的な影響を与えかねません。

 生き残りを模索するため、一部のバス会社は新たな事業モデルにも挑戦しています。例えば、バスと物流を組み合わせた「バス+宅配」事業を展開し、既存路線を配送に活用するケースや、結婚式やイベント向けの貸切サービス、観光路線の開発なども行われています。こうした試みは一定の収入源拡大にはつながっていますが、全体としては赤字体質を根本的に変えるまでには至っていません。

 制度面から見ると、中国のバス会社の多くは国有、あるいは準公共機関であり、組織構造そのものが硬直化しています。市場化への転換能力も低く、急速に変化する市場環境に対して柔軟に対応できていません。その結果、意思決定や運営モデルの動きが鈍く、効率低下やイノベーション不足を招き、競争の中で徐々に不利な立場へ追い込まれています。

 専門家の多くは、今回の「バス路線廃止ラッシュ」は単なる業界問題を超え、社会構造そのものへ深刻な影響を及ぼし始めていると見ています。

 まず、公共交通サービスの縮小は、都市の公共空間そのものを狭めることになります。特に影響を受けるのは、高齢者、学生、低所得層です。

 これらの人々は交通費に敏感で、日常生活をバスへ大きく依存しています。そのため、路線削減や運休が進めば、移動コストや生活の利便性は大きく悪化します。

 さらに、雇用面への連鎖的影響も無視できません。

 一部の公務系職員は内部配置転換で救済される可能性がありますが、大量の現場運転手や関連サービス従事者は再就職が難しく、社会全体の雇用圧力をさらに高める恐れがあります。

 現在の景気低迷が続く中、このような構造的失業問題は、今後も長期化していく可能性があります。

(翻訳・藍彧)