近年、中国ではリチウムイオン電池の発火や爆発事故が頻発しており、多くの人々の日常に潜む「見えない爆弾」となっています。
つい先日も、安徽省で痛ましい事件が起きました。2025年11月25日の夕方、張(ちょう)さんはいつものように電動自転車のうしろに妻を乗せ、子供を迎えに行くところでした。ところが平穏に走行していたその時、車体底部のバッテリーが突然爆発音とともに炎上したのです。激しい炎は瞬く間に車体全体を飲み込み、逃げ遅れた妻は一瞬にして火だるまになってしまいました。この予期せぬ悲劇は、一家の人生を根底から覆しました。妻は全身の70%に及ぶ大火傷を負い、後遺症と一生付き合っていくことを余儀なくされています。さらに、莫大な医療費が彼らを絶望の淵に突き落としました。
事故後、張さんの証言から、そこに潜んでいた危険性の氷山の一角が明らかになりました。出火した電動自転車は、彼自身が部品を買い集めて組み立てたものでした。さらに致命的だったのは、一度の充電で長く走れるようにと、約4万円を追加して非純正の大容量バッテリーを業者から個人的に購入し、交換していたことです。「もっと長く走れるように」という期待を込めて買ったはずのバッテリーが、結果として彼の家庭を破壊する元凶となってしまったのです。
痛ましいことですが、張さん一家が見舞われた悲劇は決して珍しい話ではありません。同年9月には、福建省でフードデリバリーの配達員が走行中、乗っていた電動自転車から突然煙が上がり、わずか20秒の間に骨組みだけが焼け残るほど激しく燃え上がる事故がありました。また、上海市や湖北省のマンションでも、廊下に無断駐輪された電動自転車や、部屋に持ち込まれたバッテリーが突然発火し、周囲の住民が重度の火傷を負って生死を彷徨う大惨事が起きています。
目を覆いたくなるような惨劇の背後には、需要と供給のいびつな関係と、巨大な闇ビジネスの存在があります。数百万人に上るフードデリバリー配達員たちの収入は、配達件数とスピードに直結しています。「時間は金なり」という配達アプリのシステムに急かされる中、純正バッテリーの短い航続距離や、国の基準で制限された時速25キロというスペックでは、生活の糧を得ることが到底できません。こうした厳しい現実への焦りが、違法改造が横行する闇市場を生み出したのです。2025年に中国国営テレビが報じた地下ビジネスの実態によれば、動画アプリ上の業者が改造の様子をライブ配信までして、時速を80キロまで引き上げるリミッター解除装置や、容量50Ah・航続距離150キロをうたう粗悪な大容量バッテリーを公然と売り捌いていました。
では、闇市場に出回るこうした安価な大容量バッテリーは、一体どこから流れてくるのでしょうか。実はここに、近年中国の消費者を不安に陥れている「EV(電気自動車)やモバイルバッテリーの相次ぐ発火事故」という、さらに根深い問題が関わっています。
「最近の中国製品は以前より信用できなくなった」と嘆く声も少なくありません。少し前になりますが、2024年4月に山西省でEV「AITO(アイト)」が追突事故を起こした直後に激しく炎上しました。同年11月には「Zeekr(ジーカー)」が高速道路で落下物に衝突し、大炎上を起こしています。さらに2025年10月には、上海の街中を通常通り走行していた「Li Auto(理想汽車)」の車両が突然出火し、数十秒で炎に包まれました。この事態を受け、同社は冷却液の防食性の欠陥によってバッテリーの熱暴走を引き起こす恐れがあるとして、同型車約1万1千台を緊急リコールするに至りました。車だけでなく、スマートフォンやモバイルバッテリーの自然発火事故も後を絶ちません。国は2026年4月に、釘刺し試験や圧壊試験などの安全基準を大幅に引き上げた、より厳格なモバイルバッテリーの国家基準を導入せざるを得なくなりました。
世界トップクラスのバッテリー技術を誇る中国で、なぜこうした爆発事故が後を絶たないのでしょうか。これは単なる「品質の低下」で片付けられる問題ではありません。猛烈なスピードで進むEVシフトの過渡期において、業界が二つの致命的な歪み(ひずみ)に直面しているからです。
一つ目の歪みは、熾烈な価格競争によって削り取られた「安全へのゆとり」です。過酷な生存競争を勝ち抜くため、一部の企業はコスト削減や市場での優位性を優先し、バッテリー管理システムや熱保護材、冷却システムへの投資を出し惜しみしています。その結果、極端な衝撃を受けたり長期間の使用で劣化したりした際、十分な安全対策が施されていないバッテリーは、取り返しのつかない熱暴走を極めて起こしやすくなってしまうのです。
二つ目の歪みは、背筋が凍るような「グレーなリサイクル・ルート」の存在です。中国の初期のEVが相次いで廃車時期を迎える中、大量の廃バッテリーは本来であれば正規のルートで回収・処理されるべきです。しかし業界関係者によると、なんと約75%もの廃バッテリーが、より高値で買い取る無資格の違法業者へ流出しているといいます。こうした業者は、車から取り外された廃バッテリーパックを強引に解体し、まだ辛うじて使える中古セルを再梱包して偽装ラベルを貼り、電動自転車の改造闇市場や安価なモバイルバッテリー工場へ絶え間なく横流ししています。つまり、マンションの踊り場で爆発したあの電動自転車のバッテリーは、廃棄されたEVから取り出された時限爆弾であった可能性が高いのです。
2026年4月、「史上最も厳しい」とされる廃バッテリー回収の新規定が施行され、デジタルIDを活用して闇市場の供給源を絶つ取り組みがようやく始まりました。しかしこれは結局のところ、長く果てしない地雷撤去作業のようなものです。病床で苦しむ張さんの妻にとって、遅れて施行された新規定が全身の火傷を癒やしてくれるわけではありません。そして、今この瞬間も街中を猛スピードで駆け抜ける数百万人の配達員にとって、アプリのカウントダウンが彼らを急き立てる限り、あの危険な改造バッテリーは依然として手放せない生活の武器なのです。スピードと効率の追求に飲み込まれたこの巨大なシステムの中で、一体どれほどの「走る時限爆弾」が今も街角で静かに時を刻んでいるのか。それこそが、最も背筋の凍る真実なのかもしれません。
(翻訳・吉原木子)
