2026年3月23日、中国の一般市民や経営者にとって、今年の春は不安と無力感に満ちています。

 昨晩、全国各地のガソリンスタンドには数キロに及ぶ長蛇の列ができ、稀に見る「給油ラッシュ」が巻き起こりました。価格改定の直前、大手石油元売りの中国石化(シノペック)が異例の値上げ警告と分散給油を呼びかけるSMSを送信したことが引き金となり、ドライバーが一斉に殺到したのです。多くのスタンドは身動きが取れないほどごった返し、タンクがほぼ満タンでも「少しでも出費を抑えたい」と、つぎ足し給油に駆け込む市民の姿が後を絶ちませんでした。

 このパニックの背景には、生活を直撃する深刻な値上げがあります。ホルムズ海峡の危機により国際原油価格が1バレル96ドルを突破する中、今回の改定でレギュラーガソリンは1リットルあたり約34円から38円も跳ね上がり、中国は全面的に「1リットル9元(約190円)時代」へと突入しました。50リットルのタンクを満タンにすれば、負担額は一気に約1700円から1900円も増える計算です。

 これは単なる数字の上昇ではありません。配車アプリやトラックの運転手たちの乏しい利益を奪い、働けど赤字という状況に追い込んでいます。さらに、原油コストの高騰は激しい連鎖反応を引き起こし、長江や珠江デルタの多くの製造工場が原料不足で減産や操業停止に追い込まれ、労働者は一時帰休や収入減に直面しています。輸送費の上昇は、スーパーに並ぶ食料品価格までじわじわと押し上げています。

 この切実な生活苦を前に、国内のネット世論には「なぜ自分たちばかりがこんな代償を払うのか」という強い憤りが渦巻いています。

 その背景には、数週間前にネット上で流行した根拠のない優越感があります。ホルムズ海峡封鎖による世界的危機の中、多くの中国人はイランとの良好な関係を盾に「自分たちだけは無事だ」と幻想を抱いていました。他国の商船が足止めを食う中、中国国旗を掲げたタンカーだけが特別通行許可証を手にしたかのように自由に海峡を通行できると信じて疑わなかったのです。

 しかし、現実は無情にもその幻想を打ち砕きました。「我々のタンカーが安全に通過できるなら、なぜガソリン価格が狂ったように高騰し、工場が稼働停止になるのか?」

 この疑問の答えは、そもそも皆が誇りに思っていたあの大前提を突き崩すところにあります。いわゆる「中国船の自由な通行」というのは、大部分が真偽の入り交じったフェイクニュースに近いものだったからです。

 確かに、封鎖の初期段階において、中国企業が実質的に所有するあるばら積み貨物船が、自動船舶識別装置(AIS)上で全員が中国人乗組員であることを明示することで、幸運にも安全に海峡を通過したことは事実です。しかし、このたった一つの特例が国内に伝わると、一部のネットメディアによって際限なく拡大解釈され、「中国国旗は海峡の唯一の通行証だ」と煽り立てられました。さらに皮肉なことに、この情報が伝わった後、海運市場では足止めされた十数隻の外国商船が密かに識別信号を変更し、中国船に偽装して攻撃を逃れようとする茶番劇まで発生したことです。これが、中国の看板さえあれば海峡を我が物顔で通過できるという、国内ネットユーザーの錯覚をさらに深めることになりました。

 しかし冷酷な現実は、無差別な攻撃のリスクを前に、何百億円もする巨大船と数十名の中国人乗組員の命を、「友好国だから」という理由だけで危険に晒すような正規の中国海運会社など存在しないということです。国際海運の権威あるデータによると、中国の大型国有海運大手は現在、軒並み運航を見合わせています。大多数の中国商船は、タンカーであれコンテナ船であれ、外国商船と同様に、大挙してペルシャ湾内に足止めされるか、海峡の外で不安を抱えながら待機しているのが実情なのです。

 まさに国内の市民が高いガソリン代と工場の操業停止に苦しんでいる最中、隣国の日本が国家戦略石油備蓄(SPR)の放出を発表したというニュースが、国内の世論を完全に爆発させました。当初は日本のエネルギー自給率の低さを嘲笑していた声が、瞬時に自分たちへの切実な問いかけへと変わりました。「我々には国家備蓄がないというのか」「国家はガソリン価格の暴騰や工場の操業停止をただ黙って見ているだけなのか」と。

 この2026年春のエネルギーショックは、根拠のない優越感に浸っていた人々の目を覚まさせるには十分すぎる衝撃でした。ちょうどこの数日間、ペルシャ湾の外縁で実際に足止めされている中国籍貨物船の乗組員のSNSのスクリーンショットが、ネット上で密かに拡散されました。乗組員はメッセージの中で、リアルな現状をこう書き綴っていました。「私たちも封鎖された海峡を通過することはできませんが、幸い船には2ヶ月分の食料があるので、とりあえず生活には困りません」と。

 物理的な封鎖と砲火の前に、特別扱いの通行証など最初から存在しなかったのです。虚しい優越感が剥がれ落ちた今、明日の朝も街のスタンドには容赦ない「1リットル約190円」の看板が掲げられ、運転手は赤字に苦しみ、工場から機械の音が鳴り響くめどは立っていません。世界的危機を前に希望的観測は何の役にも立たず、一般市民に残されたのは、給油をためらうガソリンタンクと、歯を食いしばって耐え抜くしかない過酷な春の現実だけなのです。

(翻訳・吉原木子)