ある画家は、大雨の日に、飲食店の入口近くで高齢者がゴミ箱をあさって、食べ物を探しているのを見かけました。麺を見つけると、その場で一気に食べ始めた光景は絵に描かれ、ネットで拡散されました。
最近、SNSで拡散された一枚の写真が注目を集めています。写真には、「ゴミを拾う人が手を切らないよう鋭い刃物の刃は段ボールで丁寧に包んでおくこと。まだ食べられる残り物は別の袋に入れてからゴミ箱へ。ペットボトルや空き缶、段ボールはゴミ箱の脇にきれいに並べ、拾い集める人が取りやすいようにしておく」という呼びかけが書かれています。添えられたキャプションは「信じないかもしれないけれど、一つのゴミ箱は一晩で十数回もあさられる」と記されています。
これは慈善団体の宣伝ではありません。ごく普通のネットユーザーが、日々の生活の中で自発的に行っている工夫でした。その何気ない行動が、ある現実をはからずも浮き彫りにします。北京では、ゴミ拾いで生計を立てる人が増えている一方で、その暮らしは以前よりも厳しくなっているのです。
北京の路上で長年ホームレス生活を送り、拾い集めて生活してきた人たちは、今は「食べ残しですら拾えない」と口をそろえて言います。30代の陳さんは、北京でゴミ拾いだけで暮らすようになってもう数年になります。彼によれば、いまは学歴があっても仕事が見つからず、まして一般の人ならなおさら厳しいというのです。
陳さんは、こう振り返ります。
「以前は、食べ残しを拾って食べられた。あの頃は人が多くて、食堂や店の前に行けば、わりと簡単に食べ物が見つかったのだ。ピザを頼んで、1切れ2切れだけ食べて、残したまま帰る人もいた。それを拾って食べて、腹を満たせた。餃子だって、1人前がそのまま残っていることがあって、しかもきれいな状態だ。残り物を拾うだけでも十分腹が膨れた。ゴミ拾いでも、生活費は何とかできた。「西駅の広場にはゴミ箱がたくさんある。1周するだけで、だいたい100円(約5元)分くらいのペットボトルが拾えた。1日に数回回れば約400円(20元)稼げた。ペットボトルだけ拾う人もいた。夏なら1日で約1600円(80元)くらい稼げたこともある」
ところが今は、旅行者が減り、外食する人も減り、料理の量そのものも少なくなってきたため、残飯すら拾えなくなったというのです。
さらに不安を呼ぶのは、一部のホームレスが日雇い仕事さえ見つけられなくなっていることです。陳さんは、2023年ごろから北京西駅の周辺で、献血ではなく「血を売って」食いつなぐ人たちが現れたと話します。「彼らは本当に追い詰められていた。お金も食べるものもない。血を売れば、少なくとも何か口にできる」
陳さんによると、血を売る対価は一時、約6000円(200元〜300元)から、約1万4000円(600元〜700元)にまで上がったこともあったそうです。ところが昨年末になると、そうした人たちが突然姿を消し、行方がわからなくなったといいます。
北京の街で起きている変化は、街の空気そのものにも表れています。陳さんによると、かつて人で埋め尽くされていた北京西駅も、いまは夜になるとほとんど人影がなく、列車の運行本数も多くが取りやめになったそうです。駅前の商業エリアも、まとまって店が閉まりました。
「前は、地上3階地下3階、全部店だらけで、人がぎゅうぎゅうだった。それが、この2〜3年で全部なくなった」
人が多かった頃は、荷物預かりの商売も稼ぎやすかったといいます。
「少し歩けば、すぐ荷物を預かる場所があった。スーツケースなら1日で約1000円(50元)、大きいのは約1200円(60元)」
陳さんは、荷物預かりで収入を得た経験について語りました。「ある年の夏休み、母親が子どもを連れて列車で地元に帰る途中だった。出発は午後4時で、まだ7〜8時間も時間があった。そこで母親は『子どもを天安門に連れて行って写真を撮りたい。荷物を見ていてくれませんか』と頼まれ、約400円(20元)くれた」
「しかし今は、そういう稼ぎ方はもう成り立たない。これだけ広いホールでも、荷物預かりの場所は3つしかない。駅がどれだけ冷え込んだか想像できるだろう」
ある飲食店の店主は、数日連続で残飯を拾いに来る高齢者を見て、気の毒に思い、食事を作って渡し、さらに帰りの切符代を渡したと語りました。
似たような話はネット上で多く見られます。こうした断片的な話をつなぎ合わせると、北京の底辺の暮らしがどういうものになっているのかが読み取れます。
街の寂しさと重なるように、経済全体の空気も冷えています。公式統計によると、北京市の2024年の常住人口はおよそ2183.2万人で、前年より約2.6万人減りました。都市部で新たに就職した人数は約29.9万人、都市部の調査失業率の平均は4.1%だったとされています。
この人口の変化の背景には、出生数が減っていること、自然増加がきわめて弱いことがあります。2024年の北京では、出生率が死亡率をわずかに上回ったものの、人口の総数は減少傾向が続いているという現実です。
人口が減る中で、とくに注目されているのが、若い働き手の流出です。北京市の統計によると、2016年から2024年にかけて、20歳から30歳の若年人口は448.5万人から248.9万人へと急減し、減少幅は約200万人、割合にして45%に達しました。この年代が減るということは、将来の出産や消費を担う層が細っていくという意味でもあり、都市の活力が長期的に落ち込むリスクにもつながります。
その一方で、高齢人口は大きく増えています。2014年から2024年の10年間で、60歳以上は343.1万人から514万人へ増加し、約50%の伸びとなりました。働き手が減る流れに拍車がかかるだけでなく、介護や年金などの支出負担が重くなる圧力も強まります。
人口構造の変化と一致しているのは、地方からの常住人口、つまり北京の戸籍ではない地域から来て定住している人の数も、減り続けています。公式統計では、地方からの人口規模は長年にわたり縮小しており、2024年の約819.3万人で、9年連続で減少し、この9年間で43.2万人減ったとされています。若者の流出、家族単位で地元へ戻る動き、就職の厳しさなど、こうした要因が重なり、人口が集まる都市としての北京の吸引力が、じわじわ削られていることがうかがえます。
公式統計が示しているのは、人口規模の縮小だけではありません。消費や経済活動そのものが弱っていることも見えてきます。北京市の2025年の社会消費財小売総額は、約30兆億円(13677億元)で、2022年の約31兆円(13794億元)から約2600億円(117億元)減りました。下落は連続しています。これはコロナの封鎖期よりもさらに弱い状態です。つまり、都市の消費需要はまだコロナ拡大前の水準に戻り切っていないことを意味します。
分析では、雇用・投資・政策に対する不確実性の高まりが必要性の低い出費を抑える動きを招いており、こうした内需のしぼみは、短期の波というより、構造的な問題だという指摘です。
人口の減少、消費の鈍化、雇用環境の厳しさ、マクロデータの急変から社会の底辺にいる人々の生存圧力に至るまで、一連の変化が、いまの北京の輪郭を描き出しています。北京は依然として国の政治の中心であり、経済の要でもあります。しかし、成長の勢いと人口構造は、これまでにないほど大きな試練に直面している、という姿が浮かび上がっています。
(翻訳・藍彧)
