フランス当局はこのほど、ルーヴル美術館を標的とした大規模かつ組織的な詐欺グループを摘発し、10年にわたり巧妙に運営されてきた犯罪ネットワークの全容を解明しました。中国人ガイドが主導したとされるこの犯行により、ルーヴル美術館は1,200万ドル、現在のレートで日本円にして約18億円を超える巨額の経済的損失を被ったと見られています。
しかし、これは決して単なる孤立した事件ではありません。捜査が進むにつれ、この事件は世界の観光市場で繰り広げられる「いたちごっこ」の縮図に過ぎないことが明らかになってきました。パリの美術館からバンコクの土産物店、そして東京のアンダーグラウンドな交通網に至るまで、見えざる利益の連鎖が、海外の観光地における経済秩序とルールの境界線を脅かし続けています。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』および『ル・パリジャン』の報道によりますと、フランスを震撼させたこの詐欺事件の手口は極めて隠密かつ体系的なものでした。関与したガイドたちは、ルーヴル美術館の膨大な来場者数を隠れ蓑にし、中国人ツアー客を案内する際、「チケットの使い回し」という手口を常習的に行っていました。具体的には、1回限りの入場チケットを同じ日のうちに異なるグループの観光客から回収しては次のグループに再配布するというもので、厳格なチェックが行き届かない状況を悪用し、この不正な回転システムは数年間にわたり続けられていました。
さらに、1団体あたり約90ユーロかかるガイド予約料を浮かせるため、ガイドたちは数十人の大規模なツアーを7人以下の「個人客」グループに細分化し、一般の観光客の列に紛れ込ませるという偽装工作も行っていました。より悪質なことに、このグループは賄賂を使って内部の協力者を取り込み、ルーヴル美術館の警備員や改札スタッフに長期にわたり現金を渡すことで、チケット確認を故意にスルーさせたり、不正行為を黙認させたりしていました。検察官の話では、この闇のルートは10年も続き、ピーク時には1日あたり最大20団体もの不正入場を手助けし、ルーヴル美術館だけで1,000万ユーロを超える損失をもたらしたといいます。
事態が動いたのは2024年12月のことでした。ルーヴル美術館側が2名の中国人ガイドの不審な行動に気づき警察に通報したことがきっかけとなり、警察はそこから芋づる式にこの国境を越えたネットワークの実態を暴いていきました。捜査の結果、これは単発的な事件ではなく、ヴェルサイユ宮殿までもがターゲットになっていたことが判明しています。当局は先週、正式に一斉検挙に乗り出し、2月10日の急襲作戦で約100万ドルの現金を差し押さえ、銀行口座にあった約50万ドルの預金を凍結しました。AFP通信によると、容疑者らは不正に得た巨額の利益を複雑な資金洗浄、いわゆるマネーロンダリングを通じて、フランス国内およびドバイの不動産市場に投資していたようです。この事件の発覚は、2025年10月に発生した被害額1億ドルに上るフランス王室宝飾品強盗事件の記憶も新しい中、世界最高峰の美術館における安全管理と内部監査の構造的な欠陥を、改めて浮き彫りにする形となりました。
世界に目を向ければ、こうした規制の抜け穴を利用した「略奪的経営」とも言える現象は、人気の海外観光地で頻繁に見受けられます。ルーヴル美術館の事件が入場料収入の直接的な窃盗であるならば、東南アジアで横行する「ゼロドルツアー」は、現地の観光経済に対する組織的な搾取と言えるでしょう。
タイでは、「ゼロドルツアー」と呼ばれる格安ツアーの問題が長年くすぶり続けています。これは、中国のツアー会社が極端な低価格、あるいは無料で観光客を集め、その団員をあたかも商品かのようにタイのランドオペレーター、つまり現地手配会社に転売するというものです。元を取り利益を上げるため、手配会社は観光客に対し、特定の宝石店やラテックス工場、あるいはスネークファームと呼ばれる蛇薬店での高額な買い物を強制します。このモデルは、国境を越えて資金を囲い込むシステムを構築しています。観光客の支払った代金は、特定の決済ルートを通じて直接主催者の手元に還流するため、タイ現地にお金が落ちない状況が生まれ、現地の正規の商店やレストラン、観光地は利益を得られず、政府も深刻な税収減に直面することになります。タイ政府は2016年に数千台のバスを押収するなど大規模な取り締まりを行いましたが、『バンコク・ポスト』によりますと、観光ブームの再燃に伴い、体験の質が極めて低く違法性すらあるこのグレーなツアーは再び息を吹き返しており、在タイ中国大使館は2025年に改めて注意喚起を行う事態となっています。
隣国の日本において、規制当局との攻防が集中しているのは、見えにくい地下交通の領域です。いわゆる「白タク」と呼ばれる、自家用車を用いた違法タクシーの営業が横行しています。日本の営業許可を持たない中国人ドライバーが、WeChat(微信)やRED(小紅書)といった中国語圏のSNSプラットフォームを通じて、空港送迎や貸切観光業務を直接請け負っているのです。取引は通常オンライン上で完結するため、日本の監督官庁が実態を把握することは極めて困難です。『ジャパンタイムズ』やNHKの報道によりますと、これらの違法営業は現地の正規タクシー業界の市場シェアを奪うだけではありません。合法的な事業用保険に加入していないため、深刻な安全上のリスクをはらんでおり、万が一交通事故が発生した場合、観光客は補償を求められないケースが多いのです。このため、日本の警察は近年、東京の成田・羽田空港や沖縄などで頻繁に特別取り締まりを実施せざるを得ない状況にあります。
経済的な側面での不正ビジネスに加え、一部の観光客による文化遺産への敬意の欠如や公共秩序への違反もまた、海外の観光地に修復困難な傷跡を残しています。2013年にエジプトのルクソール神殿の浮き彫りに「丁錦昊到此一游(丁錦昊、参上)」と刻まれた落書きが世界を震撼させた事件から、2025年に『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』が報じた日本のスーパーでの試食マナー違反や公共設備の誤用事例に至るまで、これらは個人のケースであっても、SNSを通じて拡散されることで、現地の人々のステレオタイプを極度に悪化させてしまっています。
ルーヴル美術館のチケット不正ネットワークから、タイでの資金還流システム、そして日本における白タク問題まで、これらの事例は共通して一つの現実を映し出しています。それは、システムや法の抜け穴以前に、旅行者個人の「モラル」や「公徳心」が著しく欠如しているという厳しい現実です。
これはもはや「異文化摩擦」などという生易しい言葉で片付けられる問題ではありません。窃盗や詐欺、公共物の破壊は、文化の違いに関係なく、万国共通の「悪」です。一部の心ない人間によるこうした振る舞いは、大多数の善良な旅行者の顔に泥を塗り、ひいては国家としての品格を根底から揺るがすものです。
いかに法整備を進めようとも、それを守る側の意識が変わらなければ、いたちごっこは終わりません。最終的に問われているのは、海を渡る一人ひとりの「国民としての質」そのものなのかもしれません。
(翻訳・吉原木子)
