米国の逮捕劇が、中国の急所を直撃しました。ベネズエラと続けてきた「石油と引き換えの融資」が、ここで止まるかもしれません。安い原油と巨額の貸付金を、中国は守り切れるのでしょうか。
中国外務省は真っ先に米国の行動を「強く非難」し、国営メディアも批判を強めました。一方で北京の外交関係者の間では、中国当局がかなり受け身の立場に追い込まれていることを認める声もあります。
ネット世論はさらに核心を突きました。中国は政治的な盟友を失うだけでなく、安価な石油供給源と数百億ドル規模の複雑な債権も失う可能性があります。
最大債権者のあいまいな帳簿
中ベネズエラ経済関係の中心は、2007年のチャベス政権期に始まった「融資と引き換えに石油を渡す」仕組みです。ベネズエラは将来の原油供給を担保にして、北京から600億ドル超の融資を受け、インフラ整備や財政のやりくりに回してきました。中国側は、西側の制裁が強まる中でも、長期かつ割引価格のエネルギー供給を確保できた形です。このモデルはマドゥロ政権になっても続き、2023年には「全天候型の戦略的パートナー関係」へ格上げされ、2025年には中国の最高指導者が「鉄の友情」と表現しました。
しかし、2014年後半から原油価格が急落し、ベネズエラ経済は深刻な落ち込みに入り、政府は債務返済を優先する一方で、国民生活は圧迫されました。2017年に債務再編を表明して以降、政府は長年にわたり完全な債務データを公表していません。外部の推計では対外債務は1500億ドルから1700億ドルで、そのうちデフォルトした債券が600億ドルにのぼるともいわれますが、中国に対する実際の未払い額がどれほど残っているのかは、はっきりしないままです。研究機関は過去20年で中国がベネズエラに投じた資金が1000億ドルを超えると明らかにしているものの、債務残高の内訳までは示していません。
マドゥロ氏逮捕によって、この「不透明な帳簿」はいずれ表に出ざるを得なくなるでしょう。専門家の多くは「政権が変わったからといって債務が自動的に消えるわけではない」と見ています。ただし、非公開で不透明な契約は全面的な見直しの対象になり得ます。契約の正当性や公共の利益に照らしたチェックが、大きなハードルになるという見方です。
シャドー輸送が支えるエネルギー依存
中国当局は、近年ベネズエラ産原油の直接輸入は全体の1%未満だとして、影響は限定的だと強調しています。ところが、国際的なタンカー追跡データや複数の報道を見ると、制裁によって物の流れが止まったわけではなく、ルートが変わっただけだという見方が出ています。具体的には、船から船への積み替え、第三国を経由する中継、産地表示の付け替えなどを通じて、ベネズエラ産原油は今も中国市場に入り続けています。
データでは、2022年から2025年にかけて、中国が実質的にベネズエラから輸入した原油は1日平均約30万から70万バレルで、中国の輸入全体の約4%にあたるとされています。一方、ベネズエラの輸出先の内訳で見れば、中国向けが長期にわたり8割から9割にも達してきたとされます。つまり、表向きは距離を置いたように見えても、実態としての依存は隠しきれないということです。
しかし米国が、エネルギーの闇取引に対する取り締まりを強め、さらに米国の石油企業にベネズエラのエネルギー関連インフラを引き継がせる方向も示しており、このグレーな流通ルートは塞がれる可能性があります。研究者の指摘では、短期的には中国が確保してきた割引原油の供給が大きく不安定になり得ます。中期的には、ベネズエラが米国の製油網に戻れば、現金収入や輸出の軸足は米国側へ傾きやすくなり、中国は別の供給源からより高い価格で代替せざるを得なくなるため、エネルギーコスト上昇の圧力は避けにくいとみられています。
債務問題はどう決着するのか
ベネズエラの債務の行方を左右するのは、主に3つの要素だとされています。新政権がどの国とどう付き合うのかという外交方針、復興プロセスを米国がどこまで主導するのか、そして中国が透明化や関係の再調整を受け入れる意思があるのか、という点です。経済学者の見方では、ベネズエラが早期に生産と輸出を回復できれば、石油で返済するという形自体は現実的です。ただし、実行方法はマドゥロ政権期とは大きく変わり、これまでの非公開の取り決めが覆され、債務が公の交渉の場に載る可能性が高いとされています。
今後は、大きく2つの展開が想定されています。1つ目は、新政府が対中の包括的な戦略協力を弱め、あるいは中断し、中国側が一定の貸付損失を受け入れざるを得なくなるケースです。2つ目は、返済期限の先送り、価格の再評価、現金と石油を組み合わせた返済などで、時間をかけて返していくケースです。ただその場合でも、中国が制度的な優位を独占できる状況には戻りにくいとみられます。いずれも、中国の債権回収率と現地でのコントロール力は大きく下がる可能性があります。
一方、ワシントンは制裁解除や投資導入をカードに、ベネズエラの債務と産業の秩序を組み替えようとしています。戦略物資や重要インフラが絡む局面では、米国の安全保障上の判断が強い制約となるため、中国の交渉余地はさらに狭まるという見方です。
モンロー主義の復活
マドゥロ逮捕は、米国が再び「モンロー主義」を前面に出してきた動きの一つだと広く受け止められています。モンロー主義とは、1823年にアメリカ合衆国第5代大統領ジェームズ・モンローが提唱した、アメリカ大陸とヨーロッパ諸国による「相互不干渉」を原則とする外交方針のことです。2026年現在、トランプ政権下でこの概念が再び脚光を浴びており、西半球(南北アメリカ)における米国の主権と影響力を再強化する「新モンロー主義(トランプ補論)」として議論の中心となっています。
最新の国家安全保障の枠組みのもとで、米国は西半球での主導権回復を目指し、安全保障の線引きを経済やエネルギー協力にまで広げようとしています。この構造的変化は、中南米における中国の影響力を弱める一方で、この地域への投資リスクを押し上げる可能性があると指摘されています。
中国が抱えるリスクは、エネルギーだけではありません。2025年1月から11月まで、中国からベネズエラへの自動車輸出は前年同期比130%急増し、中国系の自動車メーカーや部品、組み立て関連の事業が急速に拡大しました。さらに中国の国有企業は通信、鉱業、インフラ、航路、電力網プロジェクトに深く関わっています。政局の急変は契約の見直しや支払い、法令対応のコストが一気に増え、採算ラインが上がることになります。
ベネズエラの変化は、中南米全体にもメッセージを投げかけています。米国の監視強化と影響力回復の背景のもと、鉱業権、5G、港湾など戦略的敏感分野に関わる中国資本のプロジェクトは、より高い不確実性に直面するでしょう。複数の国が、北京との協力の範囲を改めて見直す動きに出るかもしれません。
(翻訳・藍彧)
