今年の年末年始、中国のティックトックで「禁煙」に関する動画が急に増えました。カメラの前で、多くの喫煙者がはっきり言います。「今日から禁煙する。自分の汗水たらして稼いだお金で、タバコ企業を養うのはもうやめる」

 元中国・内モンゴル自治区の政府で法律顧問室の執行主任を務めた杜文(とうぶん)氏はこのほど、2026年1月から当局がタバコ税を大幅に引き上げると明かしました。つまり、タバコの値段がまた全面的に上がるということです。中国政府の説明は、税金を上げて喫煙者に禁煙させるためだというものです。

 中国では、1箱30元のタバコでも、そのうち約20元が各種税金や費用です。消費税や増値税などが含まれます。言い換えれば、タバコはすでに単なる嗜好品ではなく、財政を支える「準税金のツール」になっています。不動産開発、土地使用権の売却収入、企業利益など、これまでの財政の柱が次々と弱る中で、喫煙者はまたしても、最も手っ取り早く、最も直接的に搾り取られやすい対象になっているのです。

タバコ税で支えられる巨額の軍事費

 以前から中国のネットでは「軍事費は喫煙者が払っている」という冗談が出回っています。一見するとただの愚痴に思えますが、実はタバコ税と国防予算を比べると、この言い方には数字の裏付けがあります。

 2019年、中国の軍事費は1.19兆元でした。同じ年、タバコ産業が納めた税収は1.18兆元で、ほぼ同じ規模です。その後もタバコ税は伸び続け、2022年は1.44兆元、2023年は1.5兆元、2024年は1.54兆元と増え、常に国防予算と重なるような水準が続いてきました。
ところが、この「バランス」が崩れつつあります。2025年の国防予算は1.81兆元に設定されており、2024年の税収データで比べると、両者の差は約2700億元まで広がります。

 一方、軍事費の伸びは止まっていません。2020年から2024年にかけての国防支出の伸び率は、順に6.6%、6.8%、7.1%、7.2%、7.2%で、増加傾向が続いています。土地に依存した財政が行き詰まり、地方債が膨らみ、企業利益も落ちる中で、タバコ税を上げてタバコの価格を押し上げるのは、中国当局にとってコストが低く、反発も比較的小さい財源確保の手段になっています。

 杜文氏は、これこそが2025年にタバコの値上がりが続き、2026年には一気に「跳ね上がる」可能性がある深い原因だと指摘しています。さらに、これが非常に多くの参加者を巻き込みながらも抑え込みにくい民間の反応を生むかもしれないとも述べました。つまり「禁煙で税に抵抗する」という動きです。

 ネット上では、喫煙者が「これはいちばん簡単で、いちばん効く抗議だ」と言い切る声もあります。中には皮肉を込めて「1本吸うたびに、中国共産党の締め付けに回るお金が増えることになる」と書く人もいます。

実体経済の失速が止まらない

 タバコの値上げが中国の財政の苦しさを映しているとするなら、実体経済の持続的な減速は、中国経済の本当の状況をより直接的に露呈しています。

 自動車業界は、住民の消費力を測る重要な指標だと言われてきました。2026年に入っても、中国の自動車業界は依然として厳しい状況です。中国自動車流通協会のデータによると、2025年12月の自動車ディーラーの在庫警戒指数は57.7に達し、景気の分かれ目とされる50を明確に上回りました。前年同月より7.5ポイント高い水準です。

 調査では、来店客の減少、需要の落ち込み、新車販売の利益率の低下などが重なり、ディーラーの約半数が年間の販売目標を達成できなかったとされています。在庫が減らないことと資金繰りの苦しさが互いに悪化を招き、悪循環になっています。

 工業分野も同じように厳しい状況です。中国国家統計局が12月27日に発表したデータでは、2025年1月から11月の全国の工業企業の利益は、前年同期比で13.1%減少しました。

 石炭などの伝統産業は利益の落ち込みが40%を超え、高付加価値の製造業も、激しい競争を抑える政策と投資の縮小に挟まれ、拡大する勢いがはっきり弱まっています。公式データでは、今年の最初の10か月の固定資産投資は前年同期比で1.7%減少し、10月単月の落ち込み幅は外部の推計で約11%に近いと見られています。

所得消費信頼感が同時に縮小

 景気の下押し圧力は、最終的にふつうの家庭に降りてきます。消費の伸びは2022年以降で最も低い水準まで落ち込み、不動産市場の悪化も続いています。国際決済銀行(BIS)のデータによると、コロナ禍で、中国の住宅価格は17%下落し、多くの家庭で資産が目に見えて目減りしています。

 企業側も不確実性に対応するため、リストラや採用の凍結、賃金の圧縮を実施しています。これがさらに住民の消費能力を抑制することになります。データでは、都市部の住民でも月平均の可処分所得は約11万円(700ドル)に届かず、農村部では今も数億人が、1日数百円(数ドル)で最低限の生活を支えている状況だといいます。

 米国のシンクタンク、ローディアム・グループは、2025年の中国経済の実質成長率を2.5%から3%と見込み、中国当局が示唆する約5%とは大きな差があるとしています。このギャップが、社会の将来不安をじわじわ削っているのです。

数字の繁栄と現実の低迷

 国内需要の持続的な低迷が続く中、中国当局は「貿易の粘り強さ」を強調し続けています。2025年の1月から11月の貿易黒字は、公式発表で約169兆円(1.08兆ドル)に達し、過去最高だとされます。ところが最近、官製メディアが珍しく、地方で「輸出実績をお金で買う」「数字を水増しする」といった不正の実態を取り上げ、この「見栄えのいい成績表」には疑いの目が向けられています。

 「第一財経」誌は、複数の地域で地方政府が補助金を出し、企業が輸出データを購入して虚偽の成長を創出することを黙認し、場合によっては主導していると伝えました。中には、通関と補助金の受け取りだけを目的にしたペーパーカンパニーのような会社も多く、実体産業への牽引効果はほとんどないにもかかわらず、地方政府から奨励金を受け取っています。

 国際貿易の現場は、公式の語り口とは強い温度差があります。米国のロサンゼルス港やロングビーチ港では、中国からの貨物船が「ゼロ」の日が出たこともあるという異例の状況が発生し、貨物量はピーク時より3割から4割落ち込んだと言われています。港の関係者は「コロナ禍の時期よりも閑散としている」と率直に語ったといいます。

 こうして、禁煙を選ぶ人が増え、出費を切り詰める人が増えるほど、中国経済の本当の状況が、一本ずつ消されていくタバコの火の中に、少しずつ見えてくるのかもしれません。

(翻訳・藍彧)