2月18日、中国の自動車系ブロガーが連名での抗議声明を発表し、中国の電気自動車(EV)大手であるBYD(比亜迪)が製品の世代交代に関する情報を意図的に隠蔽し、「千里眼(せんりがん)」機能(遠隔監視機能)が使用できないなどの問題を抱えていると指摘しました。そのため、新旧の消費者の正当な権利が侵害されたとして、BYDに対し正式な謝罪と適切な補償を求めています。この声明には、すでに数百人の消費者が署名しています。

 『電脳報(でんのうほう)』の報道によると、「BYD 2024・2025年モデルの全オーナーによる連名抗議声明」では、BYDが販売戦略として「新型の存在を知りながら旧型を販売し続ける」手法を取っており、旧型を購入した消費者の権利が損なわれたと指摘しています。このため、BYDの2024年・2025年モデルの「王朝」シリーズおよび「海洋」シリーズを購入した全オーナーが、共同で抗議声明を発表しました。

 声明では、BYDが製品の世代交代に関する計画を故意に隠し、旧型と新型の違いを明確に区別せずに販売を続けたと主張しています。これにより、消費者が誤認を招く形で車両を購入させられたとしています。例えば、2025年2月10日、BYDは「天神の眼」と呼ばれる高度な自動運転システムを搭載し、センターコンソールのディスプレイを強化するなど、主要な仕様をアップグレードした新モデルを発表しました。しかし、その販売価格は従来モデルと同じままでした。

 さらに、BYDは新型の自動運転モデルが間もなく市場投入されることを知りながら、この情報を消費者に開示せず、従来モデルを従来価格のまま大量に販売し続けました。その結果、消費者の「知る権利」と「選択する権利」が奪われ、新型と旧型の名称が同じで価格も変わらないにもかかわらず、実際には大きな仕様差があるという事態が発生しました。これは、中国の「広告法」第8条に規定されている「商品の情報は真実かつ正確でなければならない」という要件に違反するとされています。

 声明によると、BYDのこうした販売手法により、多くの消費者が知らないうちに旧型の車両を購入し、後になって新型と比べて性能が劣ることに気付きました。その結果、購入価格に見合わない車両を所有することになり、消費者の信頼と権利が著しく損なわれたと指摘されています。

 また、新型の発表と旧型の購入時期の間隔が6か月未満だったため、旧型車両の市場価値が急激に下落し、さらに旧型モデルには新しい仕様へのアップグレード手段が公式には提供されていません。この影響で、オーナーが車両を中古市場で売却する際に大きな損害を被る状況になっています。中国自動車流通協会のデータによると、同一車種の非自動運転モデルの中古車価格は、前月比で18%~25%下落したと報告されています。

 声明ではさらに、BYDが大々的に宣伝していた「千里眼」遠隔監視システムが、関連法規に適合しないとして規制当局の審査を通過できず、結果として機能が使用できない状態が続いていることも問題視されています。しかし、BYDはこの問題について一切の説明を行っておらず、これが新旧オーナーの権利を深刻に侵害していると指摘されています。

 こうした状況を受け、BYDオーナーたちは同社に対し、7日以内に全消費者へ正式な謝罪を行うよう要求しています。また、今後の製品改良やモデルチェンジの際には、6か月前までに仕様変更や価格改定、発売計画を公表する「製品世代交代の情報開示メカニズム」を確立することを求めています。

 さらに、2024年6月から新型モデル発表までの期間に購入した消費者に対し、購入車両と新型車両の性能差によって生じた損失を補填するため、新車価格の15%に相当する買い替え補助を提供するよう要求しています。また、旧型モデルにも主要な自動運転機能(例えば、運転支援システム)のハードウェアアップグレードを無償提供するか、世代間の性能差に見合ったアフターサービスを提供するよう求めています。

 しかし、現時点ではBYDからの公式な回答はありません。

 実は、車両のモデルチェンジが原因でオーナーの不満が噴出するのは、BYD(比亜迪)に限ったことではありません。ある消費者は、「1年前にBYD秦(チン)を14万元(約290万円)で購入し、配車サービスで1年間運用して7万元(約145万円)を稼いだ。しかし、今年に入ってBYD秦の価格が大幅に下がり、結局のところ1年間タダ働きしたようなものだ」と嘆いています。

 BYD以外にも、小鵬(シャオポン、XPeng)、理想(リーシャン、Li Auto)、極氪(ジークル、Zeekr)といった中国のEVメーカーも、価格改定や仕様変更に伴う集団抗議に直面してきました。近年、EV市場ではモデルチェンジのスピードが加速し、価格も短期間で大きく変動することが珍しくなくなっています。こうした状況の中で、既存オーナーが自身の購入時の条件と比べ、大きな不利益を被ったと感じるケースが増えているのです。

 今回のBYDオーナーによる集団抗議は、ネット上でも大きな話題となりました。多くのネットユーザーは、「オーナーが抗議しているのは、企業の技術革新に反対しているわけではなく、新機能(例えば、自動運転システムの標準化)の導入を隠蔽し、旧型を在庫処分として販売する手法に問題があるからだ」「技術の進化は歓迎すべきことだが、企業が情報格差を悪用して消費者に不利益を与えるのは問題だ。オーナーが自身の権利を主張するのは当然のことだ」とコメントしました。

 また、「消費財の購入はギャンブルではない!企業が車を売ったらそれで終わりというわけではない。車の購入にはアフターサービスや技術サポート、ブランドの信頼性など、長期的な関係が含まれる。オーナーが不利益を被った場合、企業にはそれを適切に対応する責任がある」との意見も寄せられています。

(翻訳・吉原木子)